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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
十一章・反逆者は『龍』と対峙する

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反逆者は魔族の軍勢を薙ぎ払う

 



「精々、死なない様に祈っておく事だな」




 その言葉の通りに、身体から魔力を迸らせると同時に術式を展開し始めるシェイド。



 端から聞いていれば確実に『生きていられたら幸運だったんじゃ無いのか?』と言わんばかりの彼の言葉であったが、彼の事を少しでも知っており、かつ彼がその身から放つ魔力を少しでも視ていれば、そこに別の意味合いが生まれている、と言う事を察する事も出来たかも知れない。


 が、最早その潰えた可能性を模索する事も検討する事も現実的では無い上に、既に事態は始まってしまっている以上、やはり気にする必要性の無い事柄である、と言えるだろう。



 そんな彼が放つ魔力圧を敏感に察知したからか、遠目に見える限りでも魔族の軍勢全体に対して動揺が伝播して行くのが見て取れる。


 高々人間一人が放てるモノでも、放って良いモノでも無いが故の動揺である、と言う事なのだろうが、では何故これまでも似たようなモノは放っていたのに今になってこの様な反応を示す様になったのか?



 それは、恐らくは魔族の幹部級の中でも高位である、と思われるズィーマとミズガルドオルムが彼の近くに居たから、だろう。


『恐らく』でしかないが、率いている幹部級を含めた軍勢のほぼ全員が、彼から感じていた魔力圧を、ズィーマ達が放っているモノである、と認識したか、もしくは目の前の人間(シェイド)のモノも混じってはいるがその大半はやはり自分達の上級幹部ミズガルドオルムとズィーマのモノである、と勘違いを起こしていたのでは無いだろうか?



 そうであるのなら、彼が術式を展開する事により、より濃厚に自身の魔力を周囲へとばら蒔く様な事をして漸く、自分達が相対しようとしていた相手がどの様な存在であるのか、を察知する事に成功した、と言う事なのだろう。


 もっとも、それもあくまでも『多分そうだろう』と言う程度の所謂『憶測』でしか無く、しかも彼が最低限以上の慈悲を掛けてやらなくてはならない理由にも手加減をしてやらなくてはならない理由にもなりはしないが為に、遠慮も躊躇いも無しに術式の規模を拡大しながら展開させて行く。




「…………さて。

 知らない訳でも無い相手から、しつこい程に念入りに釘を刺されたんだ。

 最低限の手心は加えてやるんだから、腐っても魔族だ、って処を見せてくれよ?

 と言う訳で、ハイッドーン!」



 ━━━━グワンッ……!?




 彼が発した、ふざけている、とも取れる最後の一言。


 それと同時に、彼が展開していた術式が完成を見せ、その効果が動揺しつつも彼へと向けて迫りつつあった魔族の軍勢へと襲い掛かる!



 …………が、特に大きな変化が目に見えて発生するでも無く、また何かしらの現象が炎や竜巻、と言った判りやすい形にて襲い掛かって来る訳でも無かった。


 その為に、最初こそ魔力を高めたり、手にしていた盾を構えたりして防御陣形を整えていた軍勢は、揃って拍子抜けしたような、戸惑っている様な表情を浮かべながら周囲をキョロキョロと見回す事となってしまう。



 先程までの巨大な魔力を放出しておいて、実は何も起きなかった?


 派手に見えただけで、実はただの虚仮脅しの類いだった、とか言うオチか?


 いや、ソレにしては術式の構成は本物であった様にも見えたんだが……?



 軍勢内部にて様々な憶測が飛び交い、同時に戸惑いと共に『もしかして気付けていないだけで何かされてしまっているのでは?』と言う疑問が投げ掛けられ、流石にこのままでは不味い、と判断した幹部級の魔族が、そうでは無い、と言う証拠を提示する為に周囲を調べようとしていた正にその時。



 その幹部級魔族は、自分達が軽く踏み潰してやろうとしていた、この騒ぎの元凶となっている人間がこちらへと真っ直ぐに視線を向けているだけでなく、その口元にニヤリとした嗤みを浮かべている事に気が付き、思わず自身の背筋がゾワリと逆立つと同時に、まるで氷柱でも突っ込まれた様な悪寒が駆け降りて行くのが感じられた。



 …………それまで、ハッキリ言ってしまえば目標としていた相手(シェイド)の事は『侮っている』以外には表現出来ないであろう認識しかその幹部は持っていなかった。


 多少魔力量が多かろうと、ここまで離れていながらも感じさせられる程の魔力圧を放つ事が出来ていようと、高々人間、しかも『稀人』ですら無い只の只人族でしか無いのだから、自分達であれば如何様にも下して見せる事が出来るハズだ。寧ろ、そうならない方がおかしい、とすら認識していたのだ。



 そして、理性としてはその認識は未だに間違ったモノでは無い、と思っている。


 圧倒されそうな程の魔力圧にて先んじて何かしらの術式を展開されてしまった様子ではあったが、だからと言って何かしらの効果を発揮する様子は見られていないし被害者の類いも出ていない様子。



 であるのならば、やはり先程のアレは只の虚仮脅しであり、軍勢の足を止める為に放たれたモノであるのだろう、と判断する他に無かったからだ。


 …………しかし、幹部の『本能』はそうでは無い、と警告を発していた。



 未だに何かしらの効果を発揮していないとは言え、別段()()()()()()()()()()()()()()()のだと言う事を忘れたのか?



 そう訴え掛けて来たのと同時に、遥か遠くからではあったものの、確実に『視線が交わった』と感じさせられた彼が、ソコに嘲笑の色を感じ取ったのと同時に軍勢へと向けて『撤退』かもしくは『後退』を命じようと試みる。


 が、その指令を形とするよりも先にシェイドが掲げた右手の指を弾き、パンッ!と勢い良く音を周囲へと響き渡らせてしまう。



 すると、ソレに釣られる形にて展開された術式が効果を発揮し、魔族側の軍勢は一気にその場に倒れ伏して行く事となる。


 幹部級である指揮官であろうと、最前線にてシェイドへと目掛けて突撃を敢行しようとしていた兵士であろうと、等しく意識を失いながら地面へと叩き付けられる様に沈み込み、時折身体の何処かから骨が折れたり、砕けたりする様な鈍い音を立てながら痙攣し、次々に沈黙させられる。



 …………端から見ている限りでは、一体何が起きたのか定かでは無い、処か最早怪奇現象の類いとしか見る事が出来ない様な事態となってしまっているが、仕組みとしては至極簡単。


 ただ単に、彼が固有魔術である【重力魔術】を行使し、その効果で彼らが展開していた場所全ての重力へと干渉し、短時間のみ極度に増大させていた、と言うだけの話である。



 もっとも、そうして『増大させた』と一言で言ったとしても、実際の倍率としては通常の重力を『一』とした時の約『十』に匹敵する程のモノ。


 幾ら基本構造が人間諸族よりも頑強であり、精神的にも屈強である彼ら魔族であったとしても、その体重が急に十倍近くにまで跳ね上がってしまえば、咄嗟に身体能力強化の魔法を使ったとしても身体が想定外の重量負荷に耐えきれるハズが無いし、ソレによって急速に地面へと向かって血液が引き寄せられる為に発生する脳貧血を防ぐ事は、予め予期して心臓機能を無理矢理強化する、と言った様な一見意味不明な手段を使ったりしない限りは不可能な事であった。



 その為に、物理的にも魔力的にも防御を怠ってはいなかったとしても、彼の放った魔術に掛かれば別の理にてその命脈を傷付けられる事となり、こうして何も出来ずに地面へと沈ませられてしまう事となっている、と言う訳だ。



 …………とは言え、そうして極度の過負荷を与えていたのは、ほんの数秒程度の事。


 であれば、脳から血液が喪われる事によって発生する脳貧血による失神も、身体に与えられた負荷によるダメージや骨折も基本的にはそこまで重大なモノにはならず、本格的な治療は必要とされはするだろうが、回復まで長い時間を必要とする事は無い、と思われる。



 勿論、中には予期せぬ損傷を臓器や脳に負ってしまった者も出ただろう。


 それに、意識を失って転倒した際や、無駄に抵抗した為に余計な負傷を負ってしまった者もいるだろう。



 そう言った者達は回復まで時間が掛かってしまったり、完全に回復しきる事が難しくなってしまった者も出てしまっているかも知れないが、正直な事を言ってしまえば彼にそこまで責任を取らなくてはならない関わりは未だに無い。少なくとも、本人は無いと思っている。


 何せ、本来ならば殺し殺され合う様な関係性として戦場に立っているのだから、そのまま殺されてしまったとしても文句は言えないし言わせるつもりも無いのだ。



 ソレを、わざわざ大多数がちゃんと生きていられる、と言う程度に加減してやったのだから、文句を付けられなくてはならない謂れは、彼としては毛頭無い、と言う訳だ。


 これでも一応は、寄せられた助言に従って行動しているのだから、最早誰からも文句は出せないだろう。



 そうして、一人きりでかつ僅か数秒程度にて魔族側の軍勢を壊滅させてしまったシェイドが本来向いていた方へと振り返ろうとしたタイミングで、不意に彼が腰から下げていた得物を抜き放ち、背後へと向けてその刃を走らせる。


 本来であれば、ただ単に空振りに終わって空気を切り裂くのみに終わるハズであったその行動は、何故か中途半端な位置にて何かしらの存在とぶつかり合いながら、周囲へと甲高い金属音を響き渡らせる事となる。



 相手は見えない、気配も感じないながらも、明らかに攻撃の意思を込められて放たれたソレを見事に防いで見せたシェイドは、お返しとばかりに刃に魔力を込めて飛ぶ斬撃として完全に振り返りつつ、推定下手人へと放ちながら告げるのであった……。




「さて、取り敢えずこれで邪魔が入る事は無さそうだが、流石に悪戯は感心せんぞ?

 自分達で差し向けておきながら、不意を突く為の囮に使うだなんて、随分と御大層な『仲間意識』とやらを持っているみたいだな?なぁ、じいさんよ」





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