反逆者はギルドにてまず小物を蹂躙し、長へとその牙を差し向ける
ここから少々スプラッタ表現が増えて来ます
……前話から?はて、何の事やら……?(目逸らし)
「聞こえなかったのか?
なら、何度でも言ってやるよ。
テメェみたいな真性のクズ野郎に何時までも絡まれてるとウザったくて仕方無いから、そろそろ殺しても構わないよな?
もう、いい加減死んでおけよ」
シェイドが発したその言葉により、ギルド内部に静寂が発生して行く。
だが、あまりに衝撃的な言葉を、予想外すぎる程に予想外な相手から向けられた事が理解出来ていなかったらしく、向けられた張本人であるカスグソは握られた腕に力を込めつつ、額に青筋を立てながら至近距離に在るシェイドの顔に向かって怒鳴り散らそうとする。
「…………テメェ、このクソガキ。随分と、偉そうな口叩いてくれやがるじゃねぇか、おぉ?
ソコの大物ヤって良い気になってる処残念だが、どうせ偶然通り掛かった他の冒険者が倒したのをかっさらって来たか、それか他の連中に痛め付けられたのをテメェが止め刺したってだけだろうがよ、あ?
……それなのに、俺様相手に、随分と舐めた口叩いてくれやがるじゃねぇか。獲物横取りした程度じゃあ、テメェが雑魚だって事に、変わりはねぇんだって、分かってねぇみてぇだな!……………………あ……?」
そして、実際に彼の耳元で怒鳴り散らし、何時もの様に回していた利き腕でシェイドに一撃入れて床を舐めさせてやろう、と考えていたカスグソであったが、いざ殴り付けようとした段階で一つおかしな事態になっている事に気が付く。
…………何故か、シェイドの肩に回していた利き腕が、彼の肩から外す事が出来なくなっていたのだ。
何かに引っ掛かっているのか?と思ってモゾモゾと腕を動かすカスグソ。
しかし、元より何かに引っ掛かっている訳ではないその腕が外れるハズも無く、感触として在るのは生意気にも自らの腕を握っていると思われるクソガキの手の感触のみ。
しかし、ソレだけでしか無いあれば、非力で少し捻っただけで折れてしまう様な細腕でしか無いこいつに自分の腕を抑えられるハズが無いだろう、と無意識に原因から外してしまう。
…………が、それ故に、彼の事を今も『非力な無能』だと思っていたが故に、彼が腕を握っていた方の手に力を込めて骨を軋ませると同時に、もう片方の拳を固めていた事に気が付く事が出来ずにいた。
なので、当然の様に彼が固めていた拳は、特に抵抗も反応も見せる事が出来ずにいたカスグソの鳩尾に対して、真っ直ぐに突き入れられる事となる。
「ドブフォウッ!?!?!?」
欠片も予期していなかった痛烈な打撃を、油断しきって緩んでいた腹筋に叩き込まれた事により、変な呻き声を漏らすと同時に肺から空気が押し出されてしまう。
横隔膜の直下に拳を叩き込まれている事で新たに空気を吸う事も出来ず、また急な事態によってパニックになった脳が普段よりも多くの酸素を消費した事で酸欠が発生し、痛みに喚いて軽減する事も歯を食い縛って痛みを堪える事も出来ず、無様に床へと倒れ込み腹部を抑えて無言のままにのたうち回るカスグソ。
その様子に、爆笑と喝采に包まれる冒険者ギルド。
「がはははははっ!バカじゃねぇの!?」「あのバカ!相手が雑魚だと思って油断しやがったな!?」「だせぇ!だせぇなんてモンじゃねぇレベルで糞だせぇ!!」「良いぞ、小僧!良くやった!」「あのカス、大した事ねぇ癖しやがって、態度デカかったから気に食わなかったんだ!」「良いねぇ良いねぇ、こう言うの!下克上ってヤツか!?」「これ、下手しなくてもアレ実力で狩ってきたんじゃねぇの?」「こりゃあ、『無能』の名前も返納かねぇ?」
普段からして、大した実力も無い癖に中級冒険者だと言う事を鼻に掛けて威張り散らし、デカい態度ばかり取って酔って他の冒険者に絡んだりしていたらしく、ソレがぶちのめされた事によってカスグソの事を良く思っていなかった冒険者達から、喝采と称賛が寄せられる事となった、と言う事だろう。
……ソレを成したのが、今の今まで自分達が『無能』と呼んで馬鹿にし、蔑み、暴力を振るって来た相手である、と言う取り返しの付かない事実には、都合良く目を瞑って、だが。
そうして喝采の類いが暫くの間沸き起こっていたのだが、ソレも床にのたうち回るカスグソへとシェイドが歩み寄り、その腹部へと追撃の蹴りを放ち、その上で彼の頭部を踏み締めて靴裏を舐めさせる事態になるまでの事であった。
…………ミシッ、ミシミシミシッ……!
「……ぎっ、ぎぁぁぁぁぁあああっ!?
や、止め!?止めでぐれっ……!?!?」
突然の追い討ちに、喝采も止んで静まり返ったギルドの内部にカスグソの悲鳴と頭骨が軋む音が響き渡る。
常日頃から命のやり取りを行い、下手をしなくても相手の血や臓物やその内容物を被る事も少なくは無い彼ら冒険者をして、顔を青ざめさせるその暴挙に、皆一様に受けた衝撃によって言葉を失ってしまう。
……が、そんな最中であっても、僅かに己を取り戻すのが早かった冒険者の一人が、シェイドの事を止めようとして声を挙げる。
「…………お、おい!止めろ!
そこまでにしておけ!」
「…………あ?何故?」
「……な、何故?そんな事、決まってるだろう!?
ソレ以上すれば、そいつ死んじまうぞ!?
恨みは在るんだろうが、流石にやり過ぎだ!そこら辺にしておけ!!」
「…………だから、何故?
何故、この糞野郎を殺す程度の事を、止められなきゃならないんだ?あぁ?」
「…………お、お前、何を……?」
てっきり、今までの扱いに対して怒りのままに行動を起こしたのだ、とばかり思っていたその冒険者は、予想外なまでに落ち着いている彼の態度と冷静な返しに意外だと思っていたのだが、会話を続ける内に最初の勢いを失って愕然としてしまう。
……何せ、『殺すな』と言う制止に対して『何故殺してはならないのか?』等と返されたのだ。相手の頭がおかしいのか、もしくは変な洗脳でもされているのか、と疑うな、と言う方が酷と言うモノだろう。
「……さっき、お前は『殺すな』とか抜かしてくれやがっていたが、そもそも何故だ?
ここのルールだったよな?『強いモノは弱いモノを好きにしても良い』ってヤツは。
……だから、俺はソレに従って、俺よりも遥かに弱いこの糞野郎をこの場で殺す。絶対に殺す。必ず殺す。
それは、俺が俺の意思で絶対に行うと決めた事だ。それを覆したいのなら、お前らの流儀で止めさせたらどうだ?
それこそ、無理矢理、力ずくで、な」
その言葉と共に、それまで抑えていた魔力を解放して周囲を威嚇するシェイド。
…………ゴ、ゴゴゴゴゴゴッ……!
まるで、地鳴りでも起こしているかの様な重低音を発しつつ、物理的な圧力すら感じさせる程に濃密に放たれた魔力により、シェイドへと制止を掛けていた冒険者だけでなく、周囲で呆気に取られていた冒険者達も須くして彼からの威圧を受けて床へと膝を突く事となる。
その内の極少数、たまたまこの中途半端な時間にギルドへと顔を出していた上級冒険者数名は膝を突かされる事こそは無かったものの、それでも本能的な『恐怖』によってその身体には震えが走り、到底戦ったりする様な事は出来る状態にはなれていなかった。
故に、と言う訳でもないのだろうが、特段誰かから制止を受けている訳でも無いシェイドは、遠慮も呵責も欠片も見せず、自身の筋力を増強すると同時に密かに重力魔術も併用し、自身の質量と重量を増加させて確実にカスグソの頭蓋を踏み砕きに掛かる。
ミシッ、ミシミシミシッ……!
「……あぎ、あぎゃぁぁぁあっ!?
や、やべろ、ごの、グゾガギッ!?お、俺様にごんな事じで、只で済むど思っでやがるのが!?
俺様に何があれば、ギルドマスダーが黙っでねぇぞ!?」
自らの所業も忘れて汚い悲鳴と共に、彼への罵りを撒き散らすカスグソ。
どうやらこのゴミの脳内では、ギルドマスターは絶対的に自身の味方であり、かつそうしてギルドマスターが味方に付いている自分が何をしようとそれは全てが正しい事であったのだ、と変換されているらしく、反省の念なんて上等なモノは一切その口から出てくる事は無かった。
……が、どうやら自らが命の危機に瀕している、と言う事はギリギリ理解出来ており、かつその上で確りと恐怖を覚えてもいるらしく、どうにか脱出しようと手足をばたつかせながらも、そのズボンは内側から解放されたモノによってずぶ濡れとなっていた。
しかし、そんな抵抗も虚しく、カスグソの頭蓋は崩壊寸前まで悲鳴を挙げ、本人も白目を向きながら糞まで垂れ流しにして後は踏み潰されるだけ、と言った状態になった正にその時。
唐突に
「そこまでにしておきな!」
との制止を掛ける声が、吹き抜けとなっている二階から降り注ぐ事となった。
その声に釣られて、固唾を飲んで事態を見詰めていた冒険者達の視線がそちらへと向けられる事となる。
そうして集められた視線の先に居たのは、ピンッ!と立った二本の長い耳を頭頂から生やし、ドレスの様にも見える深いスリットの入った服を来た、ギルドマスターの執務室から姿を現した一人の女性であった。
「「「「「ギルドマスター!!!」」」」」
満を持して姿を現した、このカートゥ支部のギルドマスターであるラヴィニアに対し、期待の籠った声が集中する。
自分達ではどうにも止められなかった目の前の存在を、彼女ならば止められるのではないか?
かの『英雄』達の友人であり、同世代として目覚ましい活躍を見せていた彼女であるのならば、どうにか出来るのではないか!?
そんな、期待の込められた視線とすがる様な声に応える様に、吹き抜けの部分からラヴィニアが再度声を張り上げる。
「そこまでにしておきな、シェイド!
お前さんの『やり返したい』って気持ちも分かるが、その辺にしておきな!
そいつは、吾が命じてやってたんだ。吾が、あの二人から託されたお前さんの事を思って、そいつ程度に負けない様に、強く生きてくれるように、と考えてやらせてたんだよ!
現に、今の今まで、本当にヤバい事はされなかっただろう?だから、その辺にしておきな!ソレ以上は、やり過ぎってもんだよ!」
彼女の放ったその言葉に、ギルドの内部が騒がしくなる。
今の今まで、シェイドの事を迫害する様に仕向けていたのは間違いなく彼女であった。
しかし、そんな理由からだったのか!?
正に、強く生きて欲しいと言う親心が隠されていたのか!
そんな言葉が冒険者達の間で交わされ、中には謎の感動から涙ぐむ者すらも出て来ていた。
既に雰囲気は殺伐としたモノから変化し、後はシェイドがカスグソの事を許すだけ、と言った風な、胸糞の悪い感動的な空気が醸し出される事となる。
「……さぁ、早くそいつを解放しな!
いい加減、医務室にでも放り込まないと、放って置いたら死んじまうかも知れないからね!
それに、コレからについての話も在るから、早い処吾と一緒に執務室の方に…………」
………………ベキッ!ベキベキッ、ゴキッ!…………グシャッ!!(ピッ、ピピピッ!)
…………だが、ソレに対しての彼から向けられた返答は、カスグソの頭蓋を踏み潰し、汚ならしい床のシミへと変化させる、と言う、誰もが想像だにしていなかったモノとなったのであった……。
暴虐を振るって来た者を許す?
有り得ないでしょう?




