反逆者は冒険者の長から無茶振りをされる
シェイドは『逃走』ロールに失敗
強制的に『交渉』ロールに突入します(唐突なTRPG感再び)
ギルドの入り口にて騒動が起こってから数分が経過した現在。
シェイドとサタニシスの姿は、このマーレフスミス本支部のギルドマスターの執務室に存在していた。
…………何故、あの時踵を返したハズの二人の姿が、この執務室に在るのか?と言えば、答えは至極簡単なモノ。
それは、あのギルドマスターを名乗る中年男性が、恥も外聞も何もかもをかなぐり捨てて、彼らの前で土下座を披露して見せたからだ。
最初こそ、有無を言わさず従う事を強要して見せたそのギルドマスターが、自らの意志が通らない、と理解するや否や全てを捨ててまで懇願するその姿勢に、困惑と呆れを極めてしまった二人は、取り敢えず話を聞くだけであれば、と言う条件の元に、こうして執務室まで赴く事を了承した、と言う訳なのだ。
とは言え、それもあくまでも『赴く事に了承した』と言うだけの話。
こうして来てやった時点で条件は満たされてしまっているし、何より話を聞くだけ、と言う事でもあった為に、執務室に据えられている応接用のソファーに腰掛けるシェイドの態度は、お世辞にも良いと言えるモノでは無くなっていた。
「…………それで?
わざわざ、あそこまで仰々しく呼び止めた上で、俺達にしか解決出来ない問題が在るからソレをやれ、だなんて『命令』してくれやがるんだから、さぞや御大層なお題目が用意されているんだろうな?
あんまり下らねぇ用件だったりすると、こちとらキレて何するか分かりゃしねぇぞ?」
応接用に据えられたテーブルに足を投げ出して組み、乱雑な口調にて詰る様にそう問い詰める彼の姿は、下手をしなくとも柄の悪いチンピラのソレか、もしくはマフィアかヤクザの類いである様にしか見えていない事だろう。
当然、故意的に行われているこのチンピラムーヴに対し、最初からソレを理解した上で、今まで見たことの無い新たな一面が見られた!と言って僅ながらに興奮した様子を垣間見えさせているサタニシスを除いて、ソレを直接向けられる事となったギルドマスターと受付嬢は、顔色を悪くしながら視線を俯けて黙りを決め込んでしまう。
何時まで経っても無言のままでは埒が明かないし、何より予定が在った訳でも無いにしても、これ以上無駄な時間を使わされる事になるのを『是』とする事が出来なかったシェイドが、隣に座るサタニシスを促して席を立とうとすらしてしまう。
流石に、そこまで思い切りの良い事をされてしまうのは予想外であったらしく、慌てた様子にて彼らを制止するべく口を開いて行くギルドマスター。
「…………ま、待った!頼むから待った!
お願いだから、こちらの話を聞いて欲しい!本当に一大事で、君達にしか頼めない事なんだ!だから、だから頼むから話を聞いて欲しい!この通りだから!!」
「…………だから、俺達はさっさと話をしろ、とさっきから言っているハズなんだが?
ソレを無視して、ひたすら『話を聞け』としか抜かさねぇアンタの話を聞かなきゃならない理由が何処に在るってか?アンタの土下座に、俺達に無理矢理言う事聞かせられるだけの価値が在ると、本当に思ってやがるのか?あぁ?」
「…………だが、私には、君達に話を聞いて貰うには、こうするしか無いんだ!
事は、私の面子だけで済む話では無くなってしまっている!この街が、都市が、国が危ない状態になってしまっている!だから、是が非でも君達に協力して貰うしか、もう手立てが無いんだ!だから、だから!!」
「…………いい加減にして貰えないか?」
━━━ゴッ…………!!!
「…………がっ……!?」
土下座していた体勢から、更に身体全体が床へと沈み込んで行くギルドマスター。
まるで、突然重力が増したか、もしくは見えない巨大な重りでも乗せられた様なその反応と自らにも及んでいる余波により、隣で見ていた受付嬢も恐怖と圧力によって顔をひきつらせて行く。
そんな二人に対して、変わらず机に足を投げ出した状態のままでシェイドが再度口を開く。
「さっきから言ってるだろうがよ?
何やらせたいのか知らねぇし、口が裂けても『何でも引き受けてやる』だなんて言うつもりは更々ねぇが、だからって何の説明も話も無しに判断も糞もねぇんだから、さっさと話すだけ話しやがれ、ってよぉ。
ソレなのに?さっきからひたすら土下座かました上で、やれ『話を聞け』『引き受けろ』『君達にしか頼めない』?いい加減にしやがれよ?」
「…………ぐっ、ががっ……!?」
「良いか?
俺から言える事は一つだけだ。さっさと話せ。一つ残らず、端から端まで、全てを余す事無く、な。
そうでなけりゃ、このままてめぇの安い頭踏み砕いてから、この国からおさらばしちまっても俺達的には構いやしねぇんだぜ?」
「…………わ、分かった!話す、話させて貰う!だから、だから!!
頼む!私達を、助けてくれないか!?」
「…………そいつは、全部聞いてからだ。
だから、さっさと吐け。良いな?」
そう言って、ギルドマスターに対して意図的に仕掛けていた威圧を解除してやるシェイド。
ソレにより、それまで万力の様な力にて掛かっていたプレッシャーから解放されたギルドマスターは、彼の気が変わらない内に、と慌てた様子にて口を開いて行く。
「…………あ、あぁ、話を聞いてくれて感謝する。
取り敢えず、まだ名乗っていなかったね。私はフレスコバルディ。フレスコバルディ・ガレットラハンだ。宜しく頼む。
それで、話を聞いてくれると言う事だが…………何処から話したモノか……」
「良いから、簡潔に、俺達に何をさせたかったのか吐け」
「…………あぁ、そう言う事なら、この上無い言葉がある。
…………スタンピードが起きた。この都市に向かっている。回避は不可能。迎撃して殲滅か撃退する必要が在る。だから、君の力が必要なんだ。『迷宮』を踏破せしめて見せた、その実力が!」
「…………あぁ、そう言う事ね。
だから、そこまで必死こいてすがって来ていた訳、か……」
フレスコバルディと名乗るギルドマスターの言葉を受けたシェイドは、『スタンピードが起きた』との一言によって事情を全て把握する。
…………何せ、ソレは彼にとっても無関係では無く、因縁も浅くは無いモノであったが為だ。
時に、人間と呼称される者達が、積極的に魔物を狩るのは何故なのか、考えた事は在るだろうか?
その身体を素材として欲するが為?確かにその通り。
日々の糧として必要としている為?確かに、食料になるモノも多い。
魔道具の原動力としての魔石を得んとする為?然り、然りだ。
確かに、それらの理由は少なくない割合で存在している、と言えるだろう。何せ、それらは人が人として生きるのに必要な要素を満たす為の行動である、とも言えるのだから。
…………だが、そうであるのならば、食料に向かず、素材としての価値も低く、また大した大きさの魔石も持ち得ない魔物ですら次々と人の手によって日夜狩られ、冒険者ギルドに寄せられる依頼が途絶える事が無いのは何故なのか?
その答えは単純明快。
魔物とは、『放置されて数が一定数を超える処まで増えると暴走する』からだ。
一定の閾値を超えた魔物はその数を更に爆発的に増加させて暴走を始め、人里目掛けて一心不乱に突き進んで行く事となる。
直接的な原因としては『魔物が増えすぎた為』と言う事こそは分かっているが、何故種類も強さも関係無く、地域毎に存在する魔物の数が一定数を超える、と言う条件を満たしただけで発生するのか。何故わざわざ『人里』を目指して行軍を開始するのか、と言った根本的な部分は未だに解明されてはいない。
しかし、そうやって魔物を間引く行為を怠った結果、俗に言う処のスタンピードが発生する、と言う事だけは判明しており、同時に一度発生してしまえば、そうして襲い来る『死の波頭』をどうにかして撃滅し、人々の命を守り、生活圏を維持する事を余儀無くされる、と言う事に代わりは無い。
「…………なぁ、一つ良いか?
なんで、そのスタンピードは発生したんだ?
ここは、レオルクスの首都であるマーレフスミスだろう?手の回らない辺境ならともかくとして、なんで首都の近辺でいきなりそんな事になるんだ?
普段から駆除を心掛けていれば、普通は発生する事も無いハズだし、仮に発生させてしまったとしても、極々早期に対処して大事にしないでも済んでいたハズだ。
なのに、何故そこまで必死に俺達にすがり付こうとする?それに、わざわざ俺にすがり付かなくとも、ここは王族のお膝元、国の中央機能が集まる場所だぞ?戦力なら、そちらから騎士団でも軍隊でも、それらのエース級の達人だろうと、幾らでも好きに引っ張って来れただろう?何故そうしない?」
「…………それが、何分唐突過ぎる程に唐突にスタンピードが観測されたモノだった為に、国の方針としては王城の城門を閉ざして防御を固めて最低限の安全を確保する事に決定してしまったらしくってね……」
「………………ソレって、あれか?
下卑な平民共は、我々高貴なる存在の盾となれ、寧ろそうなれる事に歓喜の涙を流しながら、魔物共を一匹でも多く道連れにせよ、って事か?」
「………………これでも、私もギルドマスターの立場を最大限に使って抗議したんだが
『スタンピードの前兆すらも察知出来なかった怠惰な冒険者風情の言葉に聞く価値無し。せめて少しでも魔物を撃滅せしめて務めを果たしたまえ』
との返答を叩き付けられる事になってしまってね。
……国としては、我々が精一杯足掻いて数を減らした後に城門を開いて、温存していた戦力を投入してスタンピードを終わらせようと考えているのさ……」
そう口にしたフレスコバルディの瞳には、確かな絶望と諦感が浮かべられているのであった……。




