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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
六章・反逆者はその名を『英雄』へと高める

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反逆者は名工と共に弔いを行う

 


 まるで何処かに祈りを捧げる様にして酒瓶を掲げた姿勢にて、暫し目蓋を下ろして佇むギルレイン。



 その静謐な雰囲気から、何かしら第九階層かもしくはそこの階層主に対して過去に何かしら在ったのだろう、と見当を着ける二人であったが、弟子であるゾンタークは何かしら聞いていたらしく訳知り顔であった為に、捕縛して事の次第を聞き出そうと試みる。




「…………それで、親方は何でああしてるんだ?

 誰か、第九階層で亡くしたのか?」



「…………正解、とだけは言っておくよ。

 でも、俺の口から親方の過去に纏わる話をする訳にも行かないだろう?だから、気になるのなら親方から直接聞いてくれよ」



「まぁ、それもそうか」




 そこで一旦会話を打ち切り、取り敢えずギルレインが儀式を終えるのを三人揃って見守る事にする。



 暫しそうして視線を集中させていると、それまで掲げていた酒瓶を額に押し当てて何かしらの単語、恐らくは誰かの名前と思わしきモノを呟いてから、手にしていた酒瓶を一気に煽り呑んで行く。



 精緻な装飾の施された瓶と、僅かに彼の顎を滴る雫から漂う芳醇な薫りから、先程まで呑んでいた様な量産品では無く、かなり高級で何かしらの目的の為に入手していたのであろうモノを一息で飲み干して見せたギルレインは、再び手にしている瓶を掲げると、ソレを故意的に目の前の床へと投げつけて粉々に砕いてしまう。



 …………何かしらの意味が在っての行動なのだろうが、ドワーフの習性には疎いシェイド(種族・只人族、されど知り合い少なし)とサタニシス(種族魔族・当然知識も豊富では無い)にとってはただ単に『謎の行動』であったり『唐突な奇行』でしか無い為に、説明を求める視線をゾンタークへと向ける事となる。


 ソレを受けたゾンタークも、客人が居る前でやらなくても……と言わんばかりの表情にて溜め息を吐きつつ、砕けた瓶を回収する為にホウキとチリトリを手にしながら彼らに向けて説明を開始する。




「…………まぁ、他種族のあんたらからすれば、突然親方が変な事し始めた、みたいに見えるかも知れないが、アレはそれなりに意味の在る事だからな?

 ……さっき煽っていた酒は、ある種の願掛けでな?知り合いが亡くなった時、その原因になったヤツに応報が在る様に、ってさ。

 故人が好んだ酒蔵のヤツを、亡くなった年に作られたモノに合わせて、願いの強さに合わせた格のモノを入手しておいて、それが成された時には故人を偲んでソレを飲み干す。

 残った瓶の方は、投げ棄てて打ち砕く事で故人に対して『報いは成された』って知らせを送る。そう言う、旧いドワーフ達が行う『報復の(まじな)い』と『鎮魂の弔い』の方式なんだ。だから、あんまり変な目で見ないでやってくれないか……?」



「…………となると、第九階層で誰かを亡くした、と……?」



「でも、あそこってほぼ冒険者しか入らないでしょう?

 それに、私もギルドで軽く聞き齧っただけなんだけど、第九階層って最深攻略階層を更新した過去のパーティー以外だと、殆んど入る冒険者なんていなかったって話だったハズだけど?」



「………………それは……」





「━━━━それは、儂がかつて冒険者としても活動していて、あの『迷宮』の最深攻略階層を更新した冒険者パーティーにも所属してたから、だ」





「………………親方……」




 唐突に会話の途中で差し込まれるギルレインの声。


 それに対して言葉を口にしかけていたゾンタークは、言外に『良いんですか?』と言う意味合いを込めた呟きを溢す事になる。



 …………が、そうして問われたギルレイン本人が、コレで良い、と言わんばかりの様子にて軽く首を横に振り、視線をシェイドとその腰に吊るされている自らが手掛けた得物へと向けながら、その白髭に覆われた口を重々しく開いて行く。




「…………儂も、若い頃は冒険者として活動しておったのさ。今でこそ職人一本で食って行けるが、昔は腕前はともかく気性も跳ねっ返りで知名度なんて無いも同然だったからな、基本的に鍛冶の依頼なんざ在って無い様なもんだった。

 だから、食って生きる為に、金床と鉄相手じゃなく、魔物相手に鎚振るってた時期があったのさ……」




 そこで一旦言葉を切るギルレイン。


 何処からともなく先程のそれと同等の装飾が施された酒瓶を取り出し、栓を握力に任せて引き抜きながらも、その老いた瞳には過去の冒険に対する情熱と思い出が詰まった光が浮かべられていた。




「……何だかんだと言ってそちらの道にも適性が在ったらしく、儂はトントン拍子で階級を上げて行った。その過程で、仲間も増える事になって。

 ひたすらばか騒ぎが好きなヤツ、珍しくドワーフなのに酒に弱いヤツ、酒よりも女の方が良いと豪語して憚らなかったヤツ、そうして騒ぐ連中を肴に呑むのが好きなヤツ。

 儂には、イマイチ理解しきれぬ趣味の連中であったが、気の良い連中であったし、確実に『掛け換えの無い仲間』であったと今なら言えるであろうよ……」




 郷愁にも似た何かを瞳に滲ませながら、手にした酒瓶からまた一口中身を飲み下すギルレイン。


 その口調からは、本人が直接口にする事は無いのだろうが、確かに『楽しかった記憶』を語っている事が容易に察する事が出来ていた。



 …………しかし、その次の瞬間には、彼が語る言葉はその節々から悔恨を、表情はやり場の無い怒りを滲ませるモノへと変化を遂げる事となる。




「…………そんな仲間や実力に恵まれた儂は、ある時大胆な決断を下すことにした。今になっては愚か者の思考であると気付けるが、当時の勢いに乗っておった儂らの考えを止める事が出来るモノがおらなんだせいで、あの『迷宮』の最深攻略階層を更新する、何ぞと言う無茶な行動に移る事になった訳よ……」



「…………え?となると、あそこの最深攻略階層を俺達の前に更新したのって……?」



「…………あぁ、そりゃ儂らのパーティーよ。

 もっとも、もう察しとるじゃろうが、そうして更新した時の攻略でパーティーは壊滅、儂だけが重傷の状態で命からがら逃げ延びる事になった、と言う訳よ」



「……でも、言っちゃ悪いけど、あそこってそこまで強い魔物出てこなかったハズよ?

 それこそ、ちゃんとあそこまで潜れる様な実力があったのなら、暴走寸前みたいな数に囲まれる、みたいなイレギュラーでも起きない限りは…………って、もしかして……?」



「…………あぁ、嬢ちゃんの想像の通りさ。

 儂らは、一通り魔物を倒し、魔石やら素材やらを入手した事で、第八階層の階層主から得られた魔石と合わせてギルドが定めた攻略階層認定の基準を満たす事が出来ていた。

 だから、そこで更なる欲が出ちまったのさ。このままなら、この状態のパーティーなら、この階層の階層主も倒せるんじゃないのか?とな」



「……そこで、アレに出会(でくわ)す羽目になった、と?」



「………………あぁ、その通りよ。

 儂が、リーダーであった儂の愚かさが、当時の血気に逸る事しか知らなんだ馬鹿な儂が、パーティーメンバーの皆を、あの鋼の巨人と遭遇させる事となってしまった、と言う訳さ……」




 そこで再び言葉を切ると、手元に残された酒瓶に残る酒を一息に煽り飲み下す。


 そして、先程と同じ様に床へと向けて瓶を投げ棄てると、またしても粉々になる様に砕き散らしてしまう。



 更にもう一瓶、と手を伸ばし掛けるギルレインであったが、チラリとシェイドへと意味在り気に視線を向けると、そのまま何も掴む事はせずに引き戻しながら口を開いて行く。




「……戦いの事は、流石に儂も黙らせて貰おうか。アレは、奴らの為にも話す気にはならんからな。

 とは言え、もうそこまで語る事も残ってはおらんがな。行けると思い込んで無謀にも巨人に挑み、鎚も剣も魔術も通じず一方的に蹂躙され、仲間達の献身によって第九階層に到達した証拠と戦利品を抱えた状態で辛うじて生きて帰り、それらを売り払って得た財貨でこの工房を開く事になった、と言う訳さ。

 ……そうして得られた、工房で鎚を振るう事たけに専念出来る環境で『名工(マスタースミス)』なんて大層な称号を贈られる事になりゃしたが、儂本人としてはそんなもんさ。

 ………………だが、そんな儂が打ったモノは、儂が出来る事以上の結果をもたらしてくれたみたいだが、な……」



「……そう、卑下するモノでも無いだろう?

 コイツが無ければ、俺達もあんたの仲間と同じ末路を辿っていた可能性が高かった。コイツが、あの巨人の装甲を切り裂いてくれたお陰で、俺達は生きてこうして戻ってくる事が出来たんだ。

 だから、そんな事は言わないでくれ。でないと、彼らが浮かばれないだろう?」




 そう言って、ギルレインが手に取ろうとして止めた酒瓶を手に取り、手刀で栓ごと瓶の首を切り飛ばすと、ギルレインがしていたのと同じ様に掲げて見せてから、鋭利な断面を見せる切り口から直接酒を喉に流し込んで行く。



 初めこそ、彼の様子を呆然としながら眺めていたギルレインであったが、彼の意図を理解するとそれまで浮かべていた暗い表情を吹き飛ばしてニヤリと笑みを浮かべると、最後に残されていた瓶を握り締め、シェイドと同じ様に半分程中身を一息で飲み干して見せる。



 そして、互いに視線を合わせると、互いに笑みを浮かべて




「…………ここまで愚かな儂を残して逝った、馬鹿野郎共に!」



「…………未来に希望を遺して逝った、名も無き英雄達に!」




 と言葉を交わすと、まだ中身の残る瓶同士をぶつけ合わせて献杯の代わりとすると、残っていた中身をシェイドは感謝の念と共に、ギルレインは流せずにいた涙と共に一息の元に飲み下し、今は亡き先人(仲間)達への弔いとするのであった。




なお、本来の献杯では乾杯とは違って器をぶつけ合わせる事はしませんが、作中の表現としてご理解頂きたく思いますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] シェイドの迷宮攻略は図らずもギルレインのかつての仲間達の弔い合戦になっていたと言う事だな。これでギルレインも肩の荷が下りただろうな…良いねこう言うの、嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
[良い点] 献杯ですぞ。 [一言] シェイド氏はこういう所では意外とノリがいいですな。
[一言] 最後のこういうやり取りを見ると、最近涙腺が緩む件 あぁ~、こういうの最高なんじゃ~
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