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炎渦のセカイで笑うもの  作者: あまいち ことぶき
3/3

3 遠くで見守るもの

「ライさん。何見てるんで?」


見慣れた背中の、しかし見慣れない行動をみつけてカオウは声をかけた。

ここは壱六(イチロク)の東端。

普段この辺りは数少ない老人(・・)の集うエリア。

子供たちの仕事(・・)のサポートや外装の整備を行う老人たちも、子供たち同様朝は早い。

その老人たちの中でもさらに年季の入った御仁。ライは目を細めにこやかに立っている。

黒塗りの廊下の先。弐六(ニロク)と壱六をつなぐ大扉。

明かりは足りずとも、扉の前の騒がしさに気が付く。


「今年も明るいことだと思って」

「隣の壱壱(いちいち)壱伍(いちご)がいったいどうなってるかなんて俺らにゃ分らんですが、ここより騒がしいってこたぁないでしょうね」


首筋の汗に張り付いた髪を雑に払いながらカオウは応じる。

今日の気温は95度。十分涼しいはずだが、年のせいだろうか。年々熱さへの耐性が低くなっている気がする。エンカやレドからは「代謝いいのは健康な証拠っすよ。頭頂のあたりは年のせいでしょうけど……」と余計な一言。

しっかりと二人の頭頂に拳骨(げんこつ)を落としてやったが、その後不意に頭へ手をやってしまうのが悔しい。

そんな彼らが今日、先輩になることは知っていた。


「カオウ。君も見に来たのでしょう?」

「そんなつもりじゃねえすよ。今日は過ごしやすいんでちょい早めに目が覚めちまいまして」

「そういう君だからこそ子供たちは君を慕うのでしょうね」

「舐められてんすよ、俺。慕うとかじゃあないでしょう」

「照れ隠しになれてますよね、君。そういうところですかね」


慕われるの。という言葉を肩の動きに隠す。


遠くの集団がなにか大きくざわめきだす。

(誰か余計なことしたにちげえねぇな)

隣のライも笑みは絶やさず嘆息する。


「ああいうのすきっすねえ。あいつら」

「ええ。あのエネルギーには毎度驚かされます」

「そういやこないだライさんの50歳の誕生日、どうでした?あいつら祝いに行くっつってましたけど……」

「……何か伝統的な儀式だなんだと言って、炭を詰め込んで燃やした細い鉄パイプ50本を刺した人工肉を」

「あ、いや、それ以上はいいっす」


なんとなく分かりましたんで。という言葉を頭を掻いて隠す。

とは言いつつ思い返せば楽しかったのは間違いないだろう。40歳超えた大人はこの国ではもう老人だ。その老人のところに血縁でもない若いのが集まる。しかもただでさえ入手の難しい肉をもってだ。かなり前から計画していたに違いない。


次はざわめきだけでなく声まで聞こえ始める。

(今回はエンカか……)


見慣れた光景だ。

同じ国に住もうが、壁や扉に阻まれた向こうのことは噂程度でしかわからない。

弐六から来た幼い子供たちも、今ここに住む者たちも明日を生き続けられるかわからない。

そんな地獄だ。

それでも


「ようこそ。壱六へ」


ライが小さく呟く。

目を細めてまぶしそうに。

こんな地獄に来ても。それでもこの言葉を言ってやれるのはなぜだろうか。

明確な答えはでないが、言う。


「ようこそ。未来の馬鹿ども」


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