表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/71

第69話 死力を尽くす

 武装した衛兵の集団が、俺たちに向かってきていた。ざっと見ただけでも、街門に集まっていた冒険者以上の数がいる。


「チッ! ヨゼフの指示か」


 これだけの数の街の衛兵を動かせる人物と言えば、領主のヨゼフ以外に考えられない。俺たちが脱した街門とは別の門から街の外に出て回り込み、冒険者たちと協力して、街門で俺たちを挟み撃ちにでもしようと考えたのか。

 だが、すでに冒険者たちは無力化してきた。挟み撃ちにされる危険性はなくなっている。


「まったく、屋敷でおとなしくしていればよいものを……」


 ヨゼフの声が聞こえた。衛兵の集団の中にいるのだろう。


「このままじゃマズいな……」


 森へ逃げ隠れようにも、まずはこの衛兵たちを振り切らなければダメだ。

 それに、あまりここでまごついていれば、無力化していた冒険者たちも追いついてくるはず。


「幸い、もう街の外だ。強スキルをぶっ放しても一般人に被害は出ない」


 先ほどまでと比べれば、戦いやすい環境になっている。

 ただ、相手を無駄に傷つけたくない事情は変わらない。衛兵たちだって、ヨゼフの命令で動いているに過ぎない、ネサルドの街の一住民なんだから。


「かといって、下手に手加減をして負けでもしたら、元も子もないよな……。腹をくくるしかないか?」


 対少数ならば手加減のしようもあるが、現状はあまりに数の差がありすぎる。


「殺しさえしなければ、俺の《回復・上級》でなんとかなる、とも考えられるか……」


 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


 事ここに至っては、ある程度は割り切って考えるべきかもしれない。


 覚悟を決めた。

 鞘に収めた剣を引き抜き、天に掲げる。陽光を浴びて、ギラリと刀身が光った。


 ……もう独りで抱えない。守りたい人たちが隣にいる。だったら、迷う理由なんてどこにもない。


「やるしか、ないよな!」


 俺は叫ぶと、衛兵の集団に飛び込んだ。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 最初は順調だった。


 エディタの《風魔法》で衛兵たちの動きを鈍らせたところに、《光速攻撃》のスキルを使った俺が突っ込み、次々に切って捨てる。もちろん、致命傷になり得る場所への攻撃は避けた。


 だが、さすがに数の差はいかんともしがたかった。

 徐々に押されはじめ、次第に魔力の残量も気になり始めた。


 さらに運の悪いことに、街門から冒険者たちが次々と姿を現す。《光魔法》で奪っていた視覚が、回復したのだろう。


 圧倒的な、数の不利――。

 後がなくなってきた。


「こうなったら、奥の手を出すか」


 俺はいったん衛兵の集団から離れ、エディタの側に寄った。


「エディタ、秘策を使いたい。俺の剣に、付与魔術をかけてくれないか? 覚えたての中級付与魔術を」

「なにをするおつもりですか? ……付与はかまいませんが、属性はどういたしましょう」

「風で頼む。エディタからの教えの成果を、あいつらに見せてやるさ」


 俺はニヤリと笑い、エディタに刀身を差し出した。


「教えの成果、ですか? なんのお話でしょう……。えっと、風属性ですね」


 エディタは小首をかしげながら、『親密度』上昇で覚えたばかりの付与魔術を、俺の剣の刀身に向かって放った。

 瞬間、剣が渦巻く風に包まれる。


「よし、やってやる。……俺が負傷したら、回復を頼むぜ」

「もちろんですわ!」


 エディタは胸を叩き、うなずいた。

 中級までではあるが、エディタも回復魔法が使えるようになっている。心強い。


「いくぜ!」


 俺は改めて衛兵の集団に飛び込んだ。


「そぉら、エディタとのダンスレッスンで覚えた、《剣の舞》を見せてやる!」


 あの日のホールとは違う。けれど、隣にいる仲間は同じだ……!


 軽やかにステップを踏み、大きく舞いながら剣を振り抜いた。


 踏み込んではひらりと退き、槍の穂先の下をすり抜けて、回転と同時に斬り上げる。その予測しづらい軌道に、衛兵たちは完全に翻弄されている。次々と、俺の剣舞に絡め取られていった。


 さらにここで、エディタに付与してもらった風属性が効いてくる。


 刃が当たる寸前、刀身に渦巻く風が爆ぜ、衛兵たちの体を斜め上へとはじき飛ばす。地面に転がった衛兵たちは、浅い切り傷と打撲を負うだけだ。加えて、地面に叩きつけられた時の衝撃で、一時的に意識も奪える。


 踊りながら寸止めなんて無理だ。だからこそ、風で威力を逃がす!


 衛兵たちが次から次に宙へ吹き飛ばされる状況を見て、警戒をしたのか、駆けつけた冒険者たちは遠巻きに様子を窺っていた。


「よし、このまま衛兵たちを先に片付けちまおう」


 俺はひたすら舞い続け、衛兵たちの数を減らした。

 だが――。


「チッ!」


 さっきまで一直線に突っ込んできていた衛兵たちが、今度は二人一組で間合いをずらし始めた。俺のステップに合わせて横へ跳び、風にあおられる前に身を低くしてかわしてくる。

 効果的だった《剣の舞》も、徐々に回避され始める。衛兵たちがリズムに慣れてきたようだ。


《剣の舞》のような物理攻撃のスキルでも、使用に際しある程度の魔力が要求される。連打したせいで、俺の残魔力は限界に達しようとしていた。

 激しいダンスの動きで、体力的にもきつい。


 俺は、じりじりと追い詰められ始めていた……。


「くそったれ、どうすりゃいいんだよ!」


 俺は舞いを止め、再度衛兵たちから距離を取った。

 半分以下まで数を減らしたものの、まだまだそれなりの衛兵が残っている。街門側には、無傷の冒険者たちもひしめいている。


 なかなかに絶望的な状況だった。


「それでも……。それでも、このまま負けるわけにはいかないんだよ!」


 エディタを護らなければいけないし、味方をしてくれたモニカさんにも悪い。


 どうすればいい……。

 残された選択肢は、あまりにも少ないぞ……。


 疲労と魔力切れとで、思考がぼんやりとしてきた。


「いい加減、諦めたらどうだ。私の目的のためにも、これ以上君たちを傷つけたくはないんだがね」


 そこに、ヨゼフが前に出てきた。


「くっ! エディタは、渡さない、ぞ……」


 俺はヨゼフを睨みつけ、エディタたちを庇うように両手を広げた。


「……逆らえば、もうこの国には居られないようにしてやるぞ。ネサルドだけではない。この国から、追い出してやる」

「お、おまえに、そこまでの力はあるのかよ」

「これでも、アリストリア王国の三大派閥の一つを率いる、王国屈指の大貴族のつもりなんだがなぁ。まぁ、外国人の君たちにはわからないか」


 さも呆れたと言わんばかりの表情を浮かべながら、ヨゼフは大きなため息をついた。


「おとなしく捕まっておきなさい。別に、命を奪おうと思っているわけではないからな」

「そんな話、信じられるかよっ!」


 ヨゼフは都合の良いことを言っているだけだ。

 俺は魔力切れでもうろうとし始めた意識の中、なんとか警戒心を解かずに立ち続ける。


「エディタを利用して、コーシェ貴族に我々の派閥の後ろ盾となってもらいたい。私の目的は、ただそれだけだ。交渉の大事な駒だし、エディタをコーシェ側に引き渡すつもりはさらさらないぞ。それに、デニスの力も私は認めているんだ。利用価値のある君を、こんなところで殺しては惜しいしな」

「後ろ盾、だと? いったいなにを企んでいるんだ……」

「まぁ、よくある国内の派閥争いとだけ……。あとは、君たちの想像に任せるさ」


 ヨゼフの言葉から、どうやら政敵と戦うために、コーシェ貴族の力を利用しようと考えているのだろうと、俺は想像した。


「冒険者ギルドを使ったのは、おまえたちに私が黒幕だと気付かれないようにしたかったからだ。コーシェ貴族との交渉が終わるまでは、悪印象を持たれずに私の影響下に置きたかったしな。ただ、まさか途中で感づかれるとは思わなかった」


 ヨゼフはフッフッと笑った。


 さて、ヨゼフの腹の内はわかった。

 俺たちは、どうすればいいだろうか。


 ……ヨゼフのいいように扱われるのは、本意じゃない。

 それに、もしヨゼフに従ったとしても、いつ心変わりをされるかわからない。

 気が変わったと言われて、エディタをコーシェの貴族に引き渡されでもしたら、悔やんでも悔やみきれないしな。


 となるとやはり、この場をどうにか切り抜けるしかない。


 領主がヨゼフのままである限りは、もうネサルドには居られないだろう。

 他の街に逃げるべきだが、ヨゼフを野放しにしておけば、エディタの秘密をアリストリア王国中に吹聴される恐れがある。さらに別の国へ逃げる羽目になるかもしれない。

 もし、今後もアリストリア王国内の別の街にとどまろうと考えるなら、ここでヨゼフを排除する選択肢も、本気で考えなければだめだ。


 難しい決断を迫られそうだ……。


「お兄ちゃん、どうするつもりだい?」


 ティーエが小声で話しかけてきた。


「逃げる……べきだと思う。でも、ヨゼフを排除しないことには、アリストリア王国中、どこに行ったところで同じことの繰り返しだ」

「だよねぇ」

「とは言っても、今の俺には、これだけの数を相手にするだけの魔力も体力も、残っちゃいない……」


 立っているのも辛くなってきた。

 このままじゃ、ただ逃げ出すだけでも一苦労だ。


「不本意なんだけど……。本当に、不本意なんだけど、手がないわけじゃないよ」


 ティーエは少し、悲しげな表情を浮かべる。


「一回だけ、かつてほどとはいかないけれど、デニスにもっと力を与えられる。……代わりに二度と、()()下界にいられなくなるけれど」

「なっ……」


 俺は絶句した。


 下界にいられなくなるってことはつまり、ティーエを失うってことだよな。


 考えられなかった。

 今さらティーエのいない冒険の旅なんて、ありえないだろう。


 でも、今の状況が、どうにもならない危機的なものだっていうのもまた、事実だ。


 この場をどうにかしないと、全員の身が危うい。ヨゼフの言葉を素直に信用するなんて、できるはずもないし。


 迷った。

 どうすればいいのかと――。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「だめだ。今さらティーエは失えない」


 俺は、ティーエの申し出をきっぱりと断った。


 仲間の誰かを差し出して生き延びるくらいなら、ここで全部終わったほうがマシだ。……もう、自分だけで背負い込むやり方には戻らない。


「そうかい……。ありがと、お兄ちゃん」


 ティーエはうれしそうに微笑むと、そのままモニカさんの隣に下がった。


 後悔はしていない。

 ティーエだって、俺の大切な旅の仲間なんだから。


 俺は拳を固め、改めてヨゼフを睨みつけた。

 とにかく、やれるだけのことはやろう。


 こうなれば、一か八かで、もう一度目眩ましをかますしかないか。

 今の俺は、ほとんど魔力切れといえるような状況だ。《光魔法》を使うのであれば、それこそ身体の奥深くから、残る魔力を無理矢理にでも絞り出さないとダメだろう。

 腕輪にため込んだ魔力も多少は手助けしてくれるだろうが、気休めに過ぎない。


「失敗すれば、昏睡してぶっ倒れるな……。でも、他に手段はないぞ!」


 腹を決めた。やってやる、と。


「エディタ、俺の《光魔法》に合わせて、もう一度風魔法を頼む。同じ手が通用するかわからないけれど、やるしかない」

「でも……。デニスの魔力は――」

「やろう。ここで捕まるわけには、いかないんだから!」

「はっ、はいっ!」


 エディタはうなずき、杖を構えた。


 俺も覚悟を決め、詠唱を始める。

 全身から、あらゆる魔力を総動員して――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ