第68話 街門での戦い
「あなたたち、恥を知りなさい!」
女性の声が、ネサルドの街の街門に響き渡った。
「んなこと言ったってよぉ、モニカちゃん。これもギルド長から頼まれたお仕事なんだから、勘弁してくれや」
相対する冒険者が、頭を掻きながら苦笑している。
悲鳴の主はモニカさんだった。
俺たちが現場に駆けつけると、モニカさんは多数の冒険者から迫られ、街へ入れないように通せんぼをされていた。
「モニカさん!」
俺は大声でモニカさんの名を呼び、傍に寄る。
「デニス! エディタにティーエも!」
モニカさんは俺に顔を向け、ぱあっと笑顔になった。
「何があったんですか!」
「それがね、聞いてよ、もぅ……」
モニカさんは事情をかいつまんで説明してくれた。
モニカさんはここ数日、隣町の冒険者ギルドへ出張していたらしい。ところが、ネサルドへ帰って来ると、なぜだか俺がギルド出禁になっている。
そこで、不当な処分だから撤回しろとギルド長のパトリクに抗議をしようとしたところ、逆に冒険者たちにこうしてギルドから追われ、街の外に連れ出されそうになったという。
つまり、今のこの状況は、俺たちが原因ってわけか……。
モニカさんに迷惑をかけちゃったな。
なら、俺がここに割って入って、なんとか事を収めないとダメだよなぁ。
俺は覚悟を決めて、一歩前に出た――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
多数の冒険者を前にして、俺はモニカさんを庇うようにして立った。
「おいおい、なんでデニスがここにいやがんだよ!」
「私に言われたって、知らないわよ!」
俺の姿を見たとたん、冒険者たちが互いに揉めだした。
いったいどうした?
相手の意図がわからず、俺は慎重に様子を窺った。
すると――。
「なにグズグズしているんだっ!」
「ぱ、パトリクさん……」
怒声とともに、冒険者たちの後方からパトリクが現れた。
「貴様は……デニス!? エディタも! なぜここにいるんだ!」
パトリクは俺たちを視界に捕らえるや、大きく目を見開いた。
パトリクの反応を見て、改めてパトリクとヨゼフは繋がっていると、俺は確信した。パトリクはヨゼフから、俺たちが領主邸に監禁されていると聞かされていたのだろう。
その囚われているはずの俺たちが、なぜかこの場にいる。そりゃ、驚きもするか。
「完全な想定外だが……ヨゼフ様に恩を売るチャンスだな。おい、モニカ共々、こいつらを捕らえろ!」
パトリクの指示を受け、周囲の冒険者たちが一斉に、それぞれの得物を抜いた。
そこへ、脇から一人の男が前に進み出てきた。
「オレク……」
「いよぉ、デニス。その生意気なツラ、今日こそは思いっきりゆがめさせてやるぜぇ」
オレクはべろりと舌なめずりをしながら、手斧を正面に構える。
俺は素早く、《鑑定》で相手の状態を確認、分析した。実力差を正確に把握しておかないと、思わぬ反撃などを食いかねない。
チッ、さすがにパトリクはやっかいだな。
だが、オレクはどうとでもなりそうだ。
ギルド長を任されているだけあって、パトリクは上級冒険者と言えるだけのステータスを持っていた。
きっと経験も豊富だろう。ステータス値以上の警戒をしておいたほうがいい。
一方で、オレクは初級に毛が生えた程度だ。俺たちの相手じゃない。
その他の冒険者も、大半は初級か中級。一対一で俺たちが負けるような強者は見当たらなかった。
「でも、数が多すぎるぞ……」
俺たち側でまともに戦えるのは、俺とエディタだけだ。さすがに、多勢に無勢が過ぎる。
それに、町外れとは言え、ここはネサルドの街の中だ。おいそれと強スキルをぶっ放すわけにもいかない。一般市民に被害が及びかねないからだ。
大半の冒険者も、パトリクに強制されて駆り出されているだけだろう。ここで、後に禍根を残しそうな大怪我をさせでもしたら、本当に街には残れなくなる。
「さて、どうするか……」
無策で突っ込むには危険すぎた。
背後のエディタとティーエにちらりを視線を送ってみたが、二人とも戸惑った様子だ。
まずは俺が、なんとかするしかない。
「なんとか時間を稼いで、モニカさんを連れていったん街の外に逃げるしかないかな」
この場でまともに相手をすべき状況だとは、思えなかった。
そこで、俺はふとひらめいた。
さっきのエディタとの『親密度』上昇のおかげで、いくつか新スキルが使えるようになっている。その中に、相手を無駄に傷つけずに時間を稼げそうな、ちょうど良いものがあるじゃないかと。
「エディタ、俺が覚えたての《光魔法》であいつらの視覚を奪う。そこに弱めの《風魔法》をぶち込んで、相手がこちら側へ容易には近づけないようにしてくれ。ティーエはその間に、モニカさんを連れて後方へ退避だ。そのまま、全員で街の外に逃げよう」
「わ、わかりましたわ!」
「了解だよ、お兄ちゃん!」
作戦は決まった。
俺はいったん剣を鞘に収め、詠唱を始める。
冒険者たちは俺の行動を見て、警戒心を露わにした。
「よし、いくぞ! 全員、目をつぶれ!」
俺は《光魔法》で、周囲に強烈な光を放射した。
瞬間、冒険者たちのうめき声が漏れた。
「今だ、エディタ、ティーエ!」
「《ウィンド》!」
「モニカさん、こっちだよ!」
視覚を潰され、冒険者たちの動きが止まった。
エディタはそこへ、風魔法で強烈な突風を引き起こす。
一方、背後ではティーエがモニカさんの腕を引き、街門の外に向かって駆けだした。
「よし、エディタ! 俺たちも街門の外へ逃げるぞ!」
「はいっ!」
俺はエディタの手を取り、今だ動けずにうめき声を上げている冒険者たちに背を向けて、街門の外へと一気に走り出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なんとか、街を出られたか……」
俺たちは膝に手を突き、呼吸を整えた。
「ありがとう、みんな。助かった、わ」
ぜえぜえと肩で息をしながら、モニカさんが俺たちに礼を述べる。
だが、モニカさんをこんな状況に追い込んだ原因は、俺たちだ。なんだか悪い気がした。
「いえ、元はといえば、どうやら俺たちのせいみたいですし……。すみません」
「確かに、デニスの言うとおりね……。でもね、ギルド長に抗議をしようと思ったのは、あくまで私の意志よ。だから、あまり気に病まないでね」
モニカさんは俺に笑顔を向けた。
そう言ってもらえると、俺の気も幾分かは和らぐな。
「さて、とりあえずは森に逃げ込む――」
「お兄ちゃん!?」
潜伏先を検討しようかと思った矢先、ティーエの大声が響き渡った。
「あれを見て!」
ティーエが指し示した先に、武装した街の衛兵たちの集団があった――。




