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第66話 ★魔剣の誘い

――どうしてこうなった……。


 マルツェルは、眼前の光景を受け入れられなかった。


 右では、イレナがうつ伏せに倒れている。身につけている純白のローブの腹部が、真っ赤に染まっていた。


 左では、ロベルトが仰向けで倒れている。右足があり得ない方向に曲がっていた。


 二人とも意識がないようで、いくらマルツェルが呼びかけても、返事は戻ってこない。




 思い返すだけで、背筋が凍る。まさに、一瞬の出来事だった。


 ここまでヴァレンティンは、終始、侮るような雰囲気を漂わせていた。おかげで、マルツェルたちは完全に油断をしていた。

 しかし、この油断が命取りになった。


 マルツェルの上げた雄叫びに気を取られたイレナとロベルトは、不意を突かれたために、急襲するヴァレンティンの動きにまったくついていけなかったのだ。

 結果、二人はあっという間に致命傷を負わされ、この有様に陥った。




「茶番はもう飽き飽きだねぇ……。さぁ、次は貴様の番だ。危険なアイツが覚醒する前に、さっさと片を付けさせてもらおう」


 ヴァレンティンはべろりと口の周りをなめ回しながら、マルツェルを睨みつける。


「く、くそっ!」


 マルツェルはシュピルベルグを構え直し、少しでも抵抗をしようとした。

 だが――。


「遅いなっ!」


 ヴァレンティンにあっさりと距離を詰められ、あげく、背後に回られた。


「しまっ!」


 背に、槍の柄による強烈な打撃が襲いかかった。


「ぐふっ!」


 息ができない。

 マルツェルは叩かれた勢いに押され、そのまま前につんのめって、地面に倒れた。


「あっけないな」


 ヴァレンティンのため息が聞こえる。


 マルツェルは必死に立ち上がろうとした。

 だが、今の打撃で肩甲骨を折られたのか、腕がまったく動かない。仰向けになるのが精一杯だった。

 背中を襲う激しい痛みに、気を失いそうになる。


「そらっ!」


 ヴァレンティンのかけ声が、耳に飛び込んできた。

 瞬間、右足に激しい衝撃を感じた。同時に、骨の砕ける音があたりに響き渡る。


「ギャアアアアアッッッ!!」


 マルツェルはあまりの痛みに、悲鳴を上げた。


 激痛のせいで、目もかすんできた。

 ヴァレンティンの姿が、ぼやけてはっきりと見えない。


「さぁ、これでおしまいだ」


 ヴァレンティンの冷たい声が聞こえたのを最後に、マルツェルの意識はプツリと途絶えた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




『オレを受け入れよ……』


 脳内に声が響き渡る。


『さぁ、オレ様を受け入れるのだ。勇者マルツェルよ……』


 ガンガンと響く無機質な声に、マルツェルは意識を取り戻した。


「だ、誰だ……」


 聞くまでもない、とマルツェルは思った。

 だが、念には念を入れる。


『オレ様は、シュピルベルグ。魔剣の意志よ』


 やはり、声はシュピルベルグのものだった。


「なぜオレを助ける」

『無論、貴様に死んでもらっては困るからだ。勇者を護ることこそ、おのが使命よ』


 マルツェルの問いに、シュピルベルグはよどみなく答える。


『さぁ、もはや迷っている時間はないぞ。オレ様を受け入れれば、手助けをしてやろうじゃないか』


 シュピルベルグは決断を迫ってきた。


 不思議な感覚だった。

 魔剣と悠長にこんなやりとりを行うなど、不可能なはずだ。本来なら、ヴァレンティンの手によって、身体を貫かれとっくに絶命していてもおかしくないからだ。

 どういった理由かわからないが、時の流れが遅くなっているようだとマルツェルは感じた。


 だが、シュピルベルグが言うとおり、迷っている時間がないのも確かだ。今この瞬間にも、とどめを刺されようとしているのは、疑いようもない事実……。


――オレはシュピルベルグの声を、このまま受け入れるべきか?


 マルツェルは必死に考えを巡らせた。


 前回受け入れた時は、刀身が紫に明滅するとともに、瞬く間に全身の傷が修復され、動けるようになった。

 おそらくは今回も、この動けなくなった身体を動かせるようになるに違いない。


 しかし、今さら動けるようになったところで、あのヴァレンティンに対して勝ち目はあるのかと不安になる。

 回復以外のシュピルベルグの力を、マルツェルはまだ見ていない。


――とは言っても、他に手がないのも現実だ。受け入れる以外に、生き延びられる可能性は、万に一つもないだろうな……。


 腹をくくるべきかと、マルツェルは諦観した。

 そのとき――。


 マルツェルは頬に風を感じ、目を開いた。

 眼前には、鋭く光るヴァレンティンの槍の穂先が突きつけられている。


――時間が、動き出した!?


 ヴァレンティンの手によって、今まさに、マルツェルの首元に槍が突き落とされようかという状況だった。


 もう、迷っている間はない。


「受け入れる! シュピルベルグ、頼む!」


 マルツェルは叫んだ。

 刹那、マルツェルの意識は真っ暗闇へと突き落とされた――。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「き、貴様っ! まさか!」


 ヴァレンティンは槍を引き、後方に跳んだ。


 マルツェルはゆっくりと立ち上がり、シュピルベルグを構える。

 刀身は紫色に明滅し、軽く振動していた。


「ヤツに身を委ねたのか!? 愚かなっ!」


 ヴァレンティンは目を見開き、マルツェルを注視する。

 一方で、マルツェルはうつろな瞳でヴァレンティンを見遣った。


「やめろ! そいつの言うこと聞くな、人族の勇者っ! 後悔するぞ!」


 ヴァレンティンは叫んだ。

 だが、マルツェルは聞く耳を持たない。


「シュッ!」


 マルツェルは気味の悪いかけ声を発すると、地面を蹴った。


「な、なんだとっ!? 確かに骨を折ったはずだ!」


 マルツェルのあまりにも滑らかな動きに、ヴァレンティンは驚愕の表情を浮かべ、叫んだ。


 マルツェルは一気にヴァレンティンの懐まで迫る。


「しまっ!」


 ヴァレンティンは慌てて槍を構えた。身体の正面で迎撃しようと試みる。


 マルツェルはお構いなしに突っ込んでいき、魔剣を振り上げた。

 そのまま勢いに任せ、ヴァレンティンの頭上めがけて、一気にシュピルベルグを振り下ろした――。

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