第61話 捜索
「手分けして、エディタの行方を捜してくれないか!」
俺はティーエに頭を下げた。
下した結論は……俺たちの手でエディタを見つけ出す、だ。
「そう言うと思ったよ、お兄ちゃん」
ティーエはにかっと笑い、俺の肩に手を置いた。
「心当たりの場所は、あるのかい?」
「可能性が高そうなのは、冒険者ギルドだと踏んでいるんだけど……」
「妥当だねぇ。じゃ、そっちはお兄ちゃんお願い。わたしはそれ以外の場所で、聞き込みをしてみるよ」
「頼む!」
方針は決まった。
パトリクの言葉を信じれば、エディタに身体的な危険は及んでいないはず。だが、敵の言うことを素直に信じるほど、俺もバカじゃない。
急いで、居場所を見つけ出さないとな!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ティーエと別れた俺は、早足で冒険者ギルドに向かった。
「さて、どこから調べるか……」
候補は、二階にあるギルド長室周りだと思う。
ただ、パトリクがそこまで、俺の侵入を許すかどうかがわからない。
「ま、行くだけ行ってみようか」
扉に手をかけ、ギルドの中に入ろうとした。だが――。
「待ちなっ!」
俺は背後から何者かに肩を掴まれ、地面に引きずり倒された。
「いってぇ……。なんだよ、なにすんだよ!」
何者かに向かって、俺は怒声を上げた。
顔を上げて相手を見ると、どうやらギルド職員のようだった。
「なにすんだ、じゃねぇよ。デニス、おまえはギルド出禁だ」
「はぁ?」
なにを言われたのか、一瞬わからなかった。
「おまえ、パトリクさんに何をしたんだ? とにかく、デニスが来たら、決してギルドには入れるなって言い渡されている」
「マジかよ……」
「残念ながら、マジだ」
俺は服についた埃を払いながら、立ち上がる。
「どうしても、中には入れてもらえないのか?」
「……くどいな」
「クソッ!」
俺は諦めて、入口から離れた。
ここで揉めては、今度は官憲を相手にしなくちゃならなくなる。
首を伸ばし、内部の様子を遠目からのぞき見た。
受付にモニカさんは不在のようだ。
……これじゃ、ギルド内に頼れる人がいないな。
「わかったわかった。退散するよ」
俺は両手を挙げて降参の仕草を見せ、ギルドから離れた。
「さて、困ったぞ……」
大本命のギルド内部に入れなくなった。
エディタの捜索に、いきなり暗雲が立ちこめる。
「こうなったら、ギルドから出てくる冒険者たちを掴まえて、地道に情報を収集するしかないかぁ」
俺はため息をつきながら、物陰に隠れた。
ギルド入口を注視しながら、適当な冒険者が出てくるのを見張る。
あまりギルドの傍でうろちょろしていては、ギルド職員に追い払われる恐れがあるからな。身を潜めておいたほうが無難だろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ギルドから出てきた冒険者たちから、あれこれと個別に情報を聞こうとした。
だが、俺の思惑は、見事なまでに外れた。誰も彼も、まともに取り合ってくれなかったからだ。
「まいったなぁ。エディタのありがたみを感じる……」
これまで、ギルドの冒険者とうまいことやってきたのは、主にエディタだ。俺はあくまでおまけ。添え物扱いだった。
会話のとっかかりから、スムーズな話題の転換、相手からのさりげない情報収集、すべてエディタの功績だ。
いざ、俺自身が同じようにやってみようと思っても、簡単に真似できる技術ではなかった。
「しかも、俺たちに関して、ギルド長から冒険者たちへ余計な情報が流されているっぽいぞ。きっついな……」
なんとか聞き出した話を元に考えると、どうやら俺が悪者にされている様子なのは間違いない。非常によくない状況だ。
「くそっ! どうしたらいい?」
拉致されたエディタの安否が気になる。
こうしている間にも、パトリクたちの魔の手が……。
「ダメだダメだ! しっかりしろ!」
俺は両手で頬を叩き、気合いを入れ直す。
パトリクから答えを出すように言われた期日まで、それほど時間はない。
まごまごしている余裕なんて、俺にはなかった。
こうなれば、もう一度ヨゼフを頼るべきだろうか……。
でも、オレクとの騒動の解決を、直近にお願いしたばかりだ。さすがに、少し気が引ける。
いくら相手から懇意にしようと言われているとはいえ、貴族相手にそう何度も頼みごとをするのは、さすがに図々しすぎやしないか?
しかも、相手は木っ端貴族ではない。辺境の防衛を任されている大貴族だ。
「どうするべきだ……。ちくしょうっ、考えがまとまらない」
焦りが身体に影響を及ぼしているのか、息苦しかった。ぎゅっと胸を締め付けられる。
そのとき、ふと、左腕になにやら熱を感じた。
「……腕輪?」
手首がほのかな温かさに包まれている。エディタが魔石にため込んだ、微弱な魔力のせいだろうか。
俺は左腕を空に掲げ、腕輪を陽光に晒した。
ちりばめられた小さな魔石たちが、キラキラと煌めいている。
「エディタ……」
見上げる空に、ぼんやりとエディタの顔が浮かんだ……。
「そうだよな……。図々しいだのなんだの、言っていられる状況じゃないよな」
エディタを救い出すためには、使える伝手はすべて使う。
なにを迷う必要があるんだ?
もう、ためらいはない。
俺は、ヨゼフの屋敷に向かう!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ギルドを離れ、街のメインストリートに戻った。
この通りをまっすぐ進めば、突きあたりにヤナーク邸がある。
「……なんだ?」
再び視線を感じた。
俺は立ち止まり、周囲を警戒する。
「間違いなく、ギルド長側の監視だな。俺がヤナーク邸に行くのを、妨害するつもりか?」
用心のため、腰に下げた剣の柄にそっと手を添えておく。
だが、ここは街で一番賑やかな通りだ。そう無茶な手段に訴えてくるとは、さすがに思えない……。
あくまで、見張りだろう。
「俺は、こんな場所で立ち止まってなんか、いられないんだよ……!」
自分に言い聞かせるように、俺は何度も何度も、繰り返しつぶやいた。決心が鈍らないようにと。
胸の奥にくすぶる焦りを振り払って、一歩一歩、確実に前へと進んでいく。
噴水公園を抜ける頃合いで、視線は消えた。
ホッと胸をなで下ろし、剣に添えていた手を放す。
「とはいえ、油断は禁物だよな」
警戒は怠らず、周囲を確認しながら歩を進めた。
「……あれ?」
ふと、露店の建ち並ぶ一角に、見覚えのある少女の後ろ姿があるのに、気がついた。
俺は気になり、近くまで寄って声をかける。
「君は、もしかして……」
「えっ?」
振り返った少女は、俺の姿を見て大きく目を見開いた。
少女は、ヤナーク家の長女、ミルシェだった――。




