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第56話 すれ違い

 エディタを護るのは、俺の役目――。


 両親の前でも宣言した、俺の誓い。


 表向きオレクからのちょっかいがなくなって以後も、俺は脅された件についてはエディタにひた隠しにしていた。


 時折、俺の態度に思うところがあるのか、エディタがいろいろと俺に詰問してくる。だが、俺は適当にはぐらかした。

 脅迫を受けていると伝えた結果、エディタを不安にさせたりはしたくない。


 その都度、エディタは不満げな表情を浮かべる。

 だが俺は、これもエディタのためだと、ぐっとこらえた。


 ヨゼフから打診された、冒険者ギルドの内部改革に関する責任者の地位――。

 今、ヨゼフとパトリクとの間で具体的に話が進められているそうだ。予定どおり俺たちがこの役目に就けば、ギルド内でもより強固な立場を手にできる。

 そうなれば、オレクのちょっとした脅迫なんて、ものともせずに活動できるようになるだろう。


 エディタに事実を告白するのはそれからで十分だと、俺は考えていた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ある日の夕方。

 依頼をすべて済ませた俺たちは、三人連れ立って宿に戻ってきた。


「デニス、ティーエ。わたくしは先に湯をいただきますわ」

「あぁ、ごゆっくり」


 入口で分かれて、俺とティーエは自分たちの部屋へ、エディタは食堂の奥の湯殿へと向かう。


 部屋へと戻る道すがら、ティーエが声をかけてきた。


「ねぇ、お兄ちゃん。お姉ちゃんと何かあったのかい?」

「……なぜそう思う?」

「なんだか、お兄ちゃんの態度によそよそしさを感じる時があるんだよねぇ」

「そ、そうか……」


 やはり、ティーエにも気付かれていた。

 俺も演技が下手だな。


「その反応、やっぱ何かあるねぇ」

「ティーエに隠し立ては無理かぁ」

「そりゃあ、()は――」


 創造神様、だもんなぁ。

 とりあえず、ティーエにだけは事情を教えておくか。


 部屋に戻った俺とティーエは、お互いのベッドに腰を下ろしながら、話を続けた。


「じゃあ、あのめんどくさそうな中年冒険者が、お姉ちゃんの秘密をだしに脅迫をしてきたって話かい?」

「まぁ、そんなところだ」


 ティーエは足をぶらぶらと揺らしながら、面倒な事態になったなと言わんばかりにため息をついている。


「で、お兄ちゃんとしては、お姉ちゃんに余計な心労をかけさせたくないから、脅された事実は黙っている、と」


 俺はうなずいた。


「はぁ……。本気かい、お兄ちゃん」


 ティーエがジト目を向けてきた。


 な、なんだなんだ。

 俺、何か間違ったことでもしているか?


「それって、あまりにもお兄ちゃんの独りよがりな判断って気がするんだけれど……」

「でも、俺はエディタを護るって宣言したし……」

「お姉ちゃんは、そんなの望んでいないような気がするんだけどなぁ」


 ティーエは肩をすくめ、首を横に振った。


 俺としては、これが最善だと思って行動に移した。

 だが、こうしてティーエに面と向かって否定されると、ちょっと心がぐらつく。


「それにねぇ、このまま今の関係を続けていくと、お姉ちゃんの『親密度』が下がりかねないよ?」

「うっ……。言われてみれば」


 失念していた。

 確かに、現在のちょっと微妙な関係が続けば、《信頼》スキルの根幹を支える『親密度』に変化が現れる恐れがある。……もちろん、悪い方向に。


《信頼》を考えると、このままエディタに脅迫の事実を黙っていては、ダメなのか?


 俺は自問自答する。


『親密度』が下がれば、俺がエディタから受けているステータス補正が下がる。一部のスキルが使えなくなるかもしれない。

 ただ、逆に俺からエディタへの支援は、俺のエディタへの『親密度』が下がるわけではないから、その点ではそこまでの不安はない。


 …………俺は。

 俺はやっぱり、仲間を護ることすらできない、力のない男だなんて思われたくない。ティーエがなんと言おうと、俺は一人での対処にこだわりたい!


 俺は顔を上げ、ティーエに決断を伝えようとした。

 とそこに、タイミングがいいのか悪いのか、湯浴みを終えたエディタが戻ってきた。


 俺は慌てて口をつぐみ、何食わぬ顔で視線を泳がせた。


「あら、お二人で内緒話ですか?」


 エディタは頬を膨らませている。ちょっと怒っているようだ。


「わたくしだけのけ者だなんて、あんまりですわ」


 エディタはつぶやきながら、ティーエの前に立った。


「ねぇ、ティーエ。最近デニスがおかしいんですの。何かご存じではありませんか?」


 俺が何度もはぐらかしてきたためか、エディタは俺から聞き出そうとするのを諦めたのだろうか。狙いをティーエに変えたようだ。


「え? わたし?」


 ティーエが困ったようなそぶりで、俺に視線を送ってきた。「どうするの、お兄ちゃん」、と。

 心の中で「悪いな、ティーエ」と謝りながら、俺は頭を横に振った。


 ティーエは少しあきれた様子で、「頑固だねぇ」とつぶやき、肩をすくめる。だが、俺の意思を尊重してくれたのか、脅迫の件についてはだんまりを決め込んでくれた。


 それ以後も、この日はずいぶんとしつこく、エディタは俺やティーエにぐいぐいと踏み込んでくる。

 その都度はぐらかし続けるも、エディタの示す不満は、徐々に大きなものになっていった。


「もうっ! もう、もう、もうっ! デニスもティーエも、分からず屋ですわ!!」


 とうとう、エディタは大声を張り上げて、部屋の外に飛び出した。

 普段は所作の丁寧なエディタだが、このときばかりは大きな音を立てて扉を閉める。それだけ、不満がたまっているのだろう。


 後で買い物なりなんなり、なにかしらのご機嫌取りをしないとな……。


 乱暴に閉められた扉を見つめながら、俺は大きくため息をついた――。

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