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第52話 ★偽りの凱旋

 王都に着くやいなや、マルツェルたちは宿に寄る間もなく、王宮に呼び出された。

 慌ただしく拝謁の準備が整えられ、ほどなくして謁見の間に通される。


 玉座に国王シルヴェストルの姿が見えると、マルツェルらは膝をついた。




「よくぞ無事に戻った。勇者マルツェルとその仲間たちよ」


 抑揚のないシルヴェストルの声が、謁見の間に響いた。

 マルツェルたちは黙って、シルヴェストルの言葉を聞いている。


 だが、マルツェルの内心は、心穏やかなものではなかった。

 なにしろ、敗北同然に逃げ帰ってきたようなものだったから。


「魔族の部隊は、魔族領内まで撤退していったとの報告を受けている。本当に良くやってくれた」


 マルツェルは上目遣いで、ちらりとシルヴェストルの表情を窺った。

 シルヴェストルは、まったくの無表情。実際に何を考えているのかが、これっぽっちも読めない。


 いったいどうしたことだろうと、マルツェルの懸念は増していく。

 結果は王国にとって喜ばしい状況だ。もっとうれしさを態度に表してもいいのではないかと思ったからだ。


――ちくしょう! あの国王め、腹の内をなかなか明かしやがらないぜ。


 脅した兵士が、きちんとマルツェルの意図したとおりの報告を上げているのか、まだわかっていない。もしマルツェルの指示したとおりの報告が上がっているのであれば、もっとシルヴェストルが喜色を露わにしてもいいはずだ。


 もしかしたら、意に反して王家に真実を告げており、国王たちの勇者に対する信用が失墜しているのではないか。そのような不安感が、マルツェルに疑心暗鬼を生じさせる。


――さっさとこっちに笑顔を向けろ。俺たちの懸念を、早く吹き飛ばせ!


 マルツェルはぐっと拳を固めた。


 どいつもこいつも、なかなか自分の思いどおりに動かないと、マルツェルはむかっ腹が立つ。


 とにかく、勇者の権威を保持し続けるためにも、ヴァレンティンに手も足も出なかった事実を知られるわけにはいかない。


 マルツェルは改めて、謁見の間を見渡した。

 国王シルヴェストル以下、国の重鎮が集まっている。


――俺たちに対する監視の指示をあの脅した兵士に与えていた将軍には、さすがに報告が上がっているだろう? 何か言ってくれよ!


 軍部の主だったものが並ぶ一群に、マルツェルは鋭い視線を送った。

 誰も彼もが、直立不動のまま口をつぐんでいる。


――いったいどうなってんだ? 帰ってきて早々にここに連れてこられたから、実際に王宮へどういった報告が上げられているのかが、わからない。多分、これから俺の口で直接国王へ奏上しなくちゃならないはずだが、俺の言葉と王家に上がっている報告とに齟齬があったら、絶対に突っ込まれる。


 マルツェルの背中に、いやな汗が染み出してきた。


「さて、勇者マルツェルよ。実際に魔族と戦ってきたおぬしの口から、より詳しい当時の状況を聞かせてはもらえないかな」


 来た、とマルツェルは思った。

 すぐ脇に控えているイレナとロベルトも、身体をこわばらせている。


「どうした? さぁ、申してみよ」


 シルヴェストルが発言を促してきた。


――くそったれ。……どうする? なんて奏上すべきだ?


 マルツェルは迷った。


 自分たちに都合良く改変した嘘を報告すべきか。

 それとも、潔く、起こった事実をありのまま報告すべきか。


 それぞれに問題がある。

 前者の場合、もし脅した兵士が変心して事実を報告していた場合、苦しい状況に追い込まれる危険性がある。

 兵士とマルツェルの話に大きな食い違いが出るので、より詳しい突っ込みがされるだろうとは、容易に想像が付いた。

 そうなれば、マルツェルが嘘を言ったとバレる危険性が高くなる。

 真実を報告しない勇者だなんて、信用失墜もいいところだ。今後のマルツェルの発言に対する王家の信頼性は、大幅に低下しかねない。


 後者の場合、自ら弱みをさらすことになる。

 勇者の実力に疑問符を突きつけられる結果となるので、これからの活動にいろいろと支障が出る恐れがある。

 だが、嘘の報告をする卑劣な人物だという非難を受ける危険性は、低い。

 加えて、今回は明らかに準備不足での戦いだった。情状を酌量して、敗北同然の結果にも一定の理解は得られるかもしれない。


――オレは、どちらを選ぶべきだ?


 マルツェルは必死に思考を巡らせた。


「さぁ、勇者マルツェルよ。おぬしたちの華麗な活躍、聞かせてはもらえぬか?」


 シルヴェストルがダメを押してくる。


――くっ! オレは……。オレは……!


 マルツェルは決断し、覚悟を決めて口を開いた――。

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