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第36話 冒険者たちの嫉妬

 カウンターに戻ると、受付のお姉さん――モニカさんが紙に包まれた何かを持って、俺たちを待っていた。


「お待たせー。はい、これがあなたたちの冒険者カード。まぁ、あなたたちが今持っているコーシェ王国の冒険者ギルドのものと、大して変わらないけれどね」


 モニカさんは紙を破り、中からカードを取り出した。


「はいっ、これねー。……て、なにこれ!?」


 俺たちのカードのステータス欄を見て、モニカさんは目を丸くしている。


「ちょっとちょっと、あなたたち、本当に何者? その年齢でこのステータスって、あり得なくない!?」


 カードと俺たちの顔を見比べながら、モニカさんは声を張り上げた。


 おいおい、待ってくれよ。

 これじゃまた、不用意に注目を浴びちまうぞ。


 俺は慌てて、口元に人差し指を当て、声を抑えるようにモニカさんに示した。

 モニカさんもハッとして、すぐさま声を落とす。


「ご、ごめんごめん。ちょっと興奮しちゃって」

「いえ、かまわないですけど……」

「でも、驚いちゃったのも当然って思わない? だって、このステータスって、高ランクのベテラン冒険者並みよ?」

「まぁ、そこは……。いろいろあるんですよ」

「領主様とお知り合いで、この能力の高さ……。ギルドの下っ端の私が、あまり深入りしちゃ駄目な話なのかなぁ」


 モニカさんは不満げに口をとがらせた。


「領主様とは、本当に偶然の出会いでしたの。あなた様が想像なさるような、特別な事情などありませんわ」


 マズいと思ったのか、すかさずエディタがフォローを入れる。


 あまり詮索されるのも、ちょっと困るしな。

 モニカさんに悪意はなさそうだけれど、周囲の冒険者たちが俺たちのことを良く思っていなさそうなのが問題だ。こんな状況の中で、エディタの秘密がばれそうな方向に話が進むと、具合が良くない。


「うーん、ちょっと残念だけど……。ま、いっか。あまり個人の事情に立ち入るのも、ギルド職員としてマナー違反よね」


 モニカさんはあっけらかんとした様子で、あっさり引き下がった。


 俺たちはカードを受け取り、モニカさんに礼を述べ、カウンターを離れた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「これからどうしますの」

「とりあえず、すぐにお金になりそうな依頼を受けたいところだけど……」


 冒険者登録を済ませたことで、アリストリア王国の身分証は確保できた。これで、両替やら物品の売買で不利益を被ることはないだろう。


 ただ、所持金が心許ない現状は、変わっていない。予想外にポーションを使ってしまい、早急に補給をしたい事情もある。

 とにかく、現金が欲しかった。


「お兄ちゃん、あそこが依頼を貼り付けてある掲示板っぽいよ。見ていくかい?」


 ティーエが階段側の壁際を指さした。


「だな。即金になりそうな、手近で済ませられる採集依頼でも受けとくか」

「野営が必要なほどの遠出は、今のポーションの在庫なども含めて、リスクが高そうですものね」


 俺たちはうなずき合うと、ティーエの示した依頼書がベタベタと貼り付けてある掲示板へ向かった。


「うーん、カードを作っている間に、うま味のありそうな依頼はあらかたとられちゃった感じだなぁ」

「あら……。困りましたわね。魔獣の討伐系は、今はちょっと避けたいですわ」


 完全に出遅れてしまった。

 冒険者登録をしていない状況では依頼を受けられないので、仕方がないといえば仕方がないが……。


「おい、そこの色男」


 さて、どうするか。


「おいっ! そこの色男!」


 ……うるさいな。

 誰だ、喚いているのは。

 人が悩んでいるっていうのに、はた迷惑なヤツだ。


「無視するんじゃねぇよ!」


 俺は突然、右肩を捕まれた。


「いてっ! 何するんだ!」


 俺は振り返り、怒声を浴びせた。

 眼前に、革鎧を着込んだ中年の男が立っていた。なぜだか顔を真っ赤にしている。


「てめぇが無視するからだろうが!」

「はぁ? あんた、俺を呼んでいたのか? なんか背後で騒いでいる奴がいるなぁって思っていたら」

「くっ! 生意気なガキだな!」


 男は右手を振り上げた。


 ちっ、面倒だ。ここで問題は起こしたくないんだけどな……。

 俺のことを呼んでいたんなら、もっとわかりやすく呼べよ。色男だなんだって言われたって、わかるかっての。


「で、デニス……」

「適当にあしらっておくよ」


 エディタが不安げに声をかけてきたが、俺は大丈夫だと左手を挙げる。

 同時に右手を前方に差し出し、振り下ろされる男の腕をとった。


「おぉ?」


 男が間抜けな声を上げる。

 俺は無視してそのまま腕をひねり、男を地面に転がした。《上級体術》のスキルを持っている俺には、この程度の男、相手にもならない。


「ぐべっ」


 男は派手な音を立てながら、仰向けに倒れた。


「まったく、いきなり殴りかかってくるなって。危ないだろうが」

「デニス……」

「あぁ、問題ない」


 改めて左手を挙げ、エディタを安心させる。


「ってて。くそっ、何しやがる!」


 男は頭をさすりながら立ち上がると、俺を鋭く睨みつけた。


「何しやがるって……そりゃこっちの台詞だろうに」

「新人のくせに、先輩に口答えするたぁ、許せねぇぜ!」


 男は怒気をはらんだ声で凄むと、そばのテーブルに置いてあった剣を手に取り、鞘から引き抜いた。

 窓から漏れる光に照らされ、切っ先が鈍く光る。


 場が、一瞬にして緊張感に包まれた――。

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