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第35話 冒険者ギルドにリベンジ!

「よし、いざ冒険者ギルドへ!」


 俺は気合いを入れると、エディタとティーエを引き連れ、ネサルドの街の冒険者ギルドに向かった。

 ヨゼフからもらった紹介状も、しっかりと懐に収めてある。

 あの話のわからないギルドの受付の中年男が、この紹介状を見てあたふたする姿を見るのが、今から楽しみだった。


 あの時はちょっと恥を掻いたからな。少しぐらい、やり返したっていいだろう。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 冒険者ギルドに入ると、今日も多くの冒険者でごった返していた。


 しまったな。朝一番に来たのは失敗だったか。

 ヨゼフの紹介状があるから登録に問題はないだろうけど、あの受付のおっさんと何か揉めたりしたら面倒だ。注目を集めるのはイヤだぞ……。


 俺は閉口しながら、人混みをかき分けつつ、受付に向かった。


「あれ?」


 受付のカウンターには誰もいない。

 拍子抜けだ。何か別件で席を外しているのかな。


 カウンターに呼び出しのベルがあるので、鳴らしてみた。


「はいはぁーい。ちょっと待ってねー」


 ベルの音に応えて、若い女性の声が奥の柱の裏から聞こえる。


「あれ? 女の人? 前に来た時のおっさんは??」


 周囲を見回してみたが、俺を追い返した男の職員の姿はない。


「おっ待たせー。お、もしかして新人君かな?」


 二十代前半くらいのお姉さんが、俺の顔を見ながらニコニコと微笑んでいる。


「ええっと、その……」


 やばい。おっさん相手のつもりだったので、心の準備が。

 女の人と話すのに慣れていないんだ。いきなりは勘弁してくれよぉ……。


「あらあらあら? もしかして、緊張しているのかなぁ?」

「えっ? あ、いや……」


 自分でも挙動不審になっているのはわかっている。わかってはいるんだけれど……。


「ねぇ、デニス。どういたしましたの?」


 見かねたのか、エディタが声をかけてきた。


 ギルドに入る前に、俺はエディタに宣言していた。素性がばれるのを防ぐために、交渉は俺がやると。なので、今の状況はちょっとみっともない。


「あぁ。てっきりおっさん職員が出てくるかと思っていたから、少し驚いただけだよ」

「……それだけですの?」

「うっ……」


 相手がお姉さんだったからドギマギしていました、なんて言えない……。


「もう、デニスったら……。いいですわ、わたくしが代わります」

「えぇ!? それはマズいよ、エディタ」

「いいえ、代わります。今のデニスは、鼻の下を伸ばしたダメダメな男の子。なら、わたくしがやらねば!」

「ちょっ」


 エディタは俺の脇に立ち、受付のお姉さんと対峙する。


 俺たちの様子を、お姉さんは微笑ましそうに見ていた……。いったいどう思われているんだか。


「それに、デニスったら、肝心の紹介状の存在すら、頭から抜け落ちておりませんか? それほどに動揺しているデニスには、とても任せられませんわ」


 図星だったので言い返せなかった。


 まぁ、ギルドの受付のお姉さん相手だったら、さすがに危険はないよな。

 ……ないよな?


 若干不安だったが、ここはエディタに任せることにした。手に持っていたヨゼフからの紹介状も渡す。


「ふふ、わたくしにお任せあれ」


 エディタはにっこりと微笑むと、受付のお姉さんに向き直り、用件を伝え始めた。


 紹介状を渡すと、お姉さんは目を丸くし、俺たちをなめるように見回した。


「これ、領主様からのお手紙じゃない……。あなたたち、いったい何者?」

「少し縁がありまして。以前こちらに伺った際に、男性の職員に登録を断られた経緯がありましたの。その件をヨゼフ様に相談したところ、こちらの紹介状をいただきまして……」

「あらあら……。もしかして、あなたたちこの国の住人じゃないのかしら。たぶん、あなたたちが以前ここに来た際には、ギルド長が不在だったんでしょうね。他国の人間を冒険者登録するには、ギルド長の許可が必要なのよ」

「あら、そうでしたの……。その点をきちんと説明していただけたなら、ここまで面倒な話にはならなかったのですが……」

「あいつにはきっちり言っとくわ。相手が子供に見えるからって、横柄な対応をしやがって。まったくー」


 お姉さんは眉間にしわを寄せ、同僚のギルド職員への文句をブツブツとつぶやいている。

 良かった。このお姉さんはいい人そうだ。


 どうやら、以前ギルドの受付のおっさんに感じた違和感も、俺やティーエの杞憂だったみたいだ。あの男に特段の裏があったわけでもなく、単にギルド長の許可が必要だっただけ。

 それまでの街の住人たちのコーシェ王国民に対する態度から、疑心暗鬼に陥っていたんだろう。


 この調子なら、無事に登録も済ませられそうだった――。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ギルド長の許可や新カードの作成には時間がかかるらしい。その間、受付のお姉さんと、ちょっとした世間話に花を咲かせた。お姉さんはどうやら、俺たちに興味津々らしい。


 しばらくすると、別の冒険者がカウンターに現れたので、俺たちは話を切り上げてギルド一階の酒場で待つことにした。


 お姉さんの言葉を信じれば、ヨゼフの紹介状がある以上、ギルド長の許可が下りないといった事態は心配しなくてもいいようだ。

 ギルドには領主家からの多額の援助が入っているので、よほどのことがない限り、ギルド側が領主の意向に逆らったりはしないらしい。


 偶然とはいえ、あの時馬車を見捨てなくて良かったと、心から思う。


「ねぇ、お兄ちゃん……」

「あぁ、なんだか見られているな」

「少々居心地が悪いですわね……」


 俺たちは声を潜めつつ、周囲の状況を窺った。

 あの新人の男、女を二人も引き連れているくせに、モニカちゃんの気まで惹こうだなんてふてぇ野郎だ、などと俺を非難する声が聞こえてくる。


 ……あのお姉さん、モニカって言うのか。


 それにしても、俺はお姉さんの気を惹こうだなんて、これっぽっちも思っていないぞ。

 どうしてそういう評価になるんだかなぁ……。めんどくさい。

 目の前でドギマギしていたのが、ちょいとマズったかな?


「わたくしたちが領主様とお知り合いっていうのも、反発を招いている一因かもしれませんわね」

「それもありそうだねぇ。さしずめ、『俺たちよりも低ランクのくせに、領主様と懇意にしているなんてふざけんな』って感じかな。……まぁ、ただの嫉妬だよね」

「ったく、冗談じゃないよな」


 ため息をつきつつ、もめ事を起こすわけにもいかないので、黙ってカードができあがるのを待った。


 しばらくして、受付で俺たちの名前が呼ばれた。

 どうやらカードができあがったようだ。


 コソコソと文句を言っていた冒険者たちが、一斉に俺たちを見た。


 うーん……。あまり良くは思われていないっぽい。

 コーシェの人間だっていうのは、この前のおっさん受付とのやりとりである程度バレてしまっているから、致し方ない部分もあるか……。

 加えて、どうやら男性冒険者たちのアイドルっぽい立場のお姉さんと仲良く話をしていたせいで、余計に反感を買ったってところだろう。

 無いとは思うけれど、絡まれないことを祈っておくか。


「さっさとカードをもらって、何か依頼を受けよう。じろじろ見られるのも面白くない」

「まったくだねぇ」

「それに、はやくお金も稼ぎたいですしね」


 ちらりとエディタの横顔をうかがった。


 ――領主とのコネも、ギルドの登録も。気づけば俺だけじゃなく、エディタの采配にも、だいぶ助けられている。


 俺の視線に気付いたのか、エディタが微笑んだ。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。行こうか」


 俺たちは、席を立ってカウンターに向かった――。

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