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第25話 冒険者ギルド

 俺たちは宿に荷物を置くと、さっそく冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドは世界中に存在しているが、国ごとに別個の組織となっており、基本的には国をまたいだ横のつながりはない。

 全世界での共通点といえるものは、冒険者カードの仕組みと、冒険者パーティーの評価を決めるランク制度くらいのものだ。


 ただ、俺たちもそれ以上の詳しい仕組みまでは理解していない。今持っているコーシェ王国の冒険者ギルドが発行した冒険者カードを、そのままアリストリア王国内の冒険者ギルドで使えるかどうか、確認する必要がある。

 発行し直す必要があるとなれば、ちょいと面倒だ。


「さて、ここか……」

「さすがに賑やかだねぇ。ちょ、ちょっと緊張するよ」


 ティーエが俺の服の裾をつかんだ。


「そんなことを言われると、お……俺も、緊張するな」


 足がすくむ。

 正直言って、俺は交渉ごとが苦手だ。


 ……それに、ネサルドの冒険者連中、なんだか空気がピリピリしてる。コーシェから来たってだけで、変に勘ぐられなきゃいいけれど。


 この街の人のコーシェ王国民に対する冷たい仕打ちを考えると、今から気が重い。

 うぅ……喉がカラカラに渇いてきた。


 マルツェルに雑用を押しつけられていた時は、背後に勇者の威光があったから、これといって交渉する必要もなかった。

 でも、今回はそんなものはない。むしろ、今の俺たちは、相手から侮られる要素が満載だ。


 それでも――ここで怯んでたら話にならない。情報を取りに行くのも、道をこじ開けるのも、今は俺の役目だ。


 背後にいるエディタとティーエの姿を一瞥して、ふぅっと息を大きく吐き出した。


「ここで冒険者にならなきゃ、話は始まらないんだ。やるしか、ないか……!」


 意を決し、ギルドの扉を開いた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 午前中のまだ早い時間ということもあり、ギルド内は今日の依頼内容を確認すべく集まった冒険者で、ごった返していた。


 人混みをかき分け、俺たちは受付へと向かう。


 バラトやレドニツにある冒険者ギルドでは、受付は物腰柔らかそうな女性が担当していた。

 ネサルドでもそうかと思ってキョロキョロと周囲を窺うも、残念ながら期待は裏切られた。


「おう、おまえら新人か?」


 がっちりとした筋肉質の厳つい中年の男が、カウンター越しに声を駆けてきた。

 どうやらこの男が、ギルドの受付担当のようだ。


 ……正直、がっかりだよ。


「あぁ、登録をしたいと思って……」

「んじゃ、この紙に必要事項を書きな」


 男はひょいっと俺に紙とペンを投げてよこした。


「念のために聞いておくが、おまえら字は書けるよな?」


 コーシェとアリストリアの文字は共通だ。問題ないのでうなずいた。


「そっちの空いている机で書いてこい」


 受付の男が顎で示す先に、一台の古びた机が置いてあった。


 必要事項を書き上げ、俺たちは再び受付の男の元へと戻った。


「ちなみに、コーシェの冒険者カードは持っているんだが、これってそのまま使えるのか?」

「あぁん? おまえら、コーシェの人間なのか?」


 受付の男は凄みをきかせた目で、俺たちをじろじろと眺め回した。


 ……今の目つき。単なる「よそ者」への警戒って感じじゃないな。『コーシェ』って言葉を出した瞬間、露骨に色が変わった。

 この調子じゃ、やっぱコーシェの人間ってだけで、いい扱いはされなさそうだ。

 まったく、頭が痛いよ。


「わりぃな。今は登録ができねぇ」

「えっ?」

「だから、今はできねぇって言ってんだよ。ほら、後ろがつかえているから、さっさと帰りな」


 受付の男は手をひらひらと振って、場所を空けろと示した。


 理由も説明せずに「今はできねぇ」か……。


 機嫌が悪いだけ、って顔じゃない。単なる嫌がらせって感じでもない。裏で何かを吹き込まれている目にも見える。


 ギルドに、“コーシェ出身は受け入れるな”ってお達しでも回ってるのか?

 勇者か、王家か、それとも別の誰かの差し金……。一度、きちんと状況を整理しておく必要があるな。


「おい、いい加減邪魔だ」

「痛っ!」


 後ろに並んでいた戦士風の男に突き飛ばされた。

 俺はたたらを踏み、そばに立っていたエディタにぶつかる。


「きゃっ!」

「う、ゴメン」


 エディタに謝りつつ、体勢を整えた。

 ……みっともないな。顔が熱いぞ。


 俺はいたたまれなくなり、エディタとティーエの手を引いて、そそくさとギルドから出た。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「何ですか、あの態度は!」


 珍しく、エディタが眉間にしわを寄せながら声を荒げた。


「あれはないよねぇ。よっぽど、コーシェ王国民は見下されているんだなぁ」


 ティーエも肩をすくめ、大きなため息をついている。


「まるで、誰かが“わたしたちを悪く見せる筋書き”を作ってるように感じたね。まずは、その筋書きを壊そうよ」


 ティーエも俺と同じような結論に達したようだ。いつもの子供っぽい調子のままなのに、言っている内容だけは妙に鋭い。

 創造神としての勘、ってやつなんだろう。


 それにしても、薄々覚悟はしていたけれど、想定以上にひどい結果だ。まさか、登録すらさせてもらえないとは……。


「参ったなぁ。これじゃ身分証が手に入らない」


 とにかく、十日以内になんらかの収入源を確保しなければ、宿を追い出されてしまう。

 猶予はあまりない。さて、どうしたらいいだろうか……。


「わたくし、納得がいきませんわ! もう一度、今度はわたくしがあの受付と話をしてきます!」


 エディタは意気込んで、ギルドの中に戻ろうとした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、エディタ!」


 俺はエディタの腕をつかみ、慌てて止めた。

 さすがに一人で暴走させられない。


 とはいっても、現状をどうにかしなければいけないのは間違いない。


 どうすればいい?

 あえてエディタに交渉を任せてみる?


 エディタは少なくとも、俺よりも対人交渉がうまそうだ。

 王族として、貴族を相手にしたときのあれやこれやも学んでいるだろう。貴族なんて、王族を利用しようとする狸が多そうだしな。


 でも、今回の相手は貴族じゃない。荒くれ者を相手にする冒険者ギルドの受付だ。さすがに勝手が違うはず。

 それに、万が一にもエディタがコーシェ王国の王族だった事実を、知られるわけにはいかない。やはり、エディタに任せるのは無謀だと思えた。


「駄目だ、エディタ」

「なっ……! ど、どうしてですか、デニス! わたくし、交渉ごとなら自信がありますわ!」


 エディタは食い下がり、俺の手を振り払おうとする。


「言いたかないけれど、自分の立場を考えてくれ。ここで君の素性がばれたら、大変なことになる」

「お兄ちゃんの言うとおりだねぇ。エディタお姉ちゃん、思い出してみてよ。国境を越えてからも、何度かお兄ちゃんが王家の追跡かもしれない視線を感じていたって事実を」

「あっ……」

「とにかく、慎重に事は進めたほうがいい。一旦宿に戻って、作戦を練り直そう?」

「はい……」


 俺の説得に応じ、エディタは落ち着きを取り戻した。


 意気消沈気味のエディタの表情を見ると、ちょっぴり胸が苦しくなる。


 せっかく名乗り出てくれたのに、悪いことをしたな……。

 でも、正体がばれる危険性を考えれば、ここは我慢をしてもらうしかない。


「わたくし、やっぱり皆様の重荷になっておりますわね……」


 ぼそりとつぶやくエディタの言葉が、俺の心に重くのしかかった――。

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