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第22話 礼拝堂での選択

 俺は単身、村のすぐ近くにある隣国との国境検問所に向かっていた。

 警備状況を確認したかったからだ。


「かなり厳重だ。強引に突破は、正直言って厳しそうだな……」


 エディタを連れての正面からの国境通過は、あまりにも危険すぎる。絶対に国境警備兵に止められる。

 エディタは国外追放宣告を受けているので、隣国に行くこと自体はできるだろう。ただ、その際に警備兵からどんな不利益を課されるかがわからない。

 罪人の証だと肌に墨を入れられたり、枷をはめられたりしたら大変だ。できれば警備兵に接触したくはない。


 そもそも、それ以前に俺は迷っていた。


 父さん母さんからは、エディタを連れて隣国へ逃げてはどうかと勧められた。

 だが、今の俺はティーエムちゃんの力を失い、あの人外じみた力を持っていない。


 エディタを連れて二人で見知らぬ国へ落ち延びるのは、結構な賭けになるかもしれない。隣国アリストリア王国はコーシェ王国との関係があまりよくない点も、気がかりだった。


 一方で、王家の追跡の可能性を考えると、父さんたちからの《信頼》補正を得られるまでこの村にとどまり続けるってのも、それはそれで危険だ。


 俺は、どうするべきなんだ?


 悩みつつ、一旦村に戻ることにした。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 村の礼拝堂にやってきた。


 朝の追放宣告騒ぎで後回しになったけれど、ティーエムちゃんとの約束を果たさないとな。


 村の礼拝堂を訪れるのは、二年ぶりだ。

 すこしかび臭さのする、木造の礼拝堂。記憶の中の礼拝堂と、ちっとも変わっていない。


 お昼を少しすぎた時間帯。

 礼拝堂は人っ子一人おらず、静寂が支配していた。


 神像の前でひざまずき、創造神――ティーエムちゃんに祈りを捧げる。


 最後の啓示って言っていたけれど、何を伝えたいんだろう……。


 ティーエムちゃんが顕現するまで、目をつむり静かに待った。


 しばらくすると、全身がぽかぽかと暖かくなってきた。薄目を開けば、いつの間にか身体が白い光で覆われていた。


 瞬間、脳裏にティーエムちゃんの声が響き渡る。


『やぁ、二日ぶりだねぇ、デニス』

「無事、天界には帰れたのか?」

『おかげさまで、ね。いやぁ、他の神々に叱られて、僕も参っちゃったよ』

「……本当に怒られたんだ」

『だから言ったじゃないかぁ』


 ティーエムちゃんは不満げな声を上げた。

 いやだって、創造神って一番偉い神なんだろ? その創造神が叱られるなんて言われて、信じられるかって。


『まぁ、時間がもったいない。本題に入らせてもらうよ』

「最後の啓示って言っていたけど、何を伝えたいんだ?」

『その前に一点。なんだか面倒な事態に巻き込まれているようだね』

「そうなんだよ。……俺、どうしたらいいんだろ」

『最後の啓示が、もしかしたら君に新たな選択肢を与えられるかもしれないな』


 ティーエムちゃんの意味深な発言に、俺は首をかしげた。

 新たな選択肢? なにか、現状を打破できるような情報でもくれるんだろうか。


『もう少しの間、僕が力を貸せることになった……って言ったら、どうする?』

「そりゃ助かるけれど……。いいのか?」

『他の神は説得してきた。ただし、前みたいな全力支援は無理だよ』

「今は少しでも力が欲しい。すごくありがたいよ」


 もしエディタと二人で国を出るのであれば、当てにしていた両親からの《信頼》補正が使えない。事情があって両親は村から一歩も出られないらしく、一緒に隣国に来てもらうのは不可能だからだ。


 そんな中での、ティーエムちゃんからの支援は相当に助かる。


『デニスは二つの僕から、一つを選べる』

「へっ?」


 俺は目を見開いた。


 おいおい、二つの僕ってなんだ?

 まったく、人身売買ってわけじゃないんだから……。


 あまりにも唐突なティーエムちゃんからのフリに、頭が混乱する。


『一つは、旅には同行できないけれど、一回限りで以前のような強大な支援を与えられる僕』


 そこでティーエムちゃんは一旦言葉を句切り、ふうっと大きく息を継ぐ。


『そしてもう一つは、デニスたちと一緒に旅をして、以前には遠く及ばないけれど、《信頼》の補正を与えられる僕』

「そのどちらかを選べってことか?」

『うん』


 これは、もしかしたら重要な選択なんじゃないか?

 今後の俺を大きく左右するような……。


『ちなみにだけど、いずれの僕を選んでも、君の希望どおり『妹』として下界に顕現させてもらうからね』

「……はぁっ?」


 またまたティーエムちゃんが意味のわからないことをのたまう。

 まさかこのために、あの最後の晩に、姉がいいか妹がいいかと聞いてきたのか。


『前者を選べば、病弱で実家から出られないけれど、けなげにお兄ちゃんの旅の無事を願う妹。後者を選べば、お兄ちゃんといつか旅をしたくて身体を鍛えてきた元気いっぱいな妹。このような結果になります』

「あ、はい……」


 この設定、ティーエムちゃんの趣味だろうか……。

 うーん、よくわからん。


『さぁどうする、デニス』

「ちょ、ちょっと待ってくれ、質問いいか?」


 一方的に話を進められて、どうにもついていけない。

 ティーエムちゃんからの諾の意が返ってきたので、さっそく疑問点をぶつけた。


「まず、俺には妹はいないはずなんだが、どうするんだ?」

『そりゃあ、簡単さ。世界の理をこう、ちょいちょいって改変して、君に妹がいたことにする。あ、ちゃんとヴィートとマリカの実子にするから、安心してほしいな』

「マジかよ……」

『マジです』


 うーん、さすが創造神だ。


『……ま、こんな真似は、僕でもそうやたらとできるって訳じゃないんだけどね』


 ティーエムちゃんは苦笑いを浮かべている。


「次に、病弱のほうの妹を選んだ場合、俺が力を願ったあとに、どうなる?」

『別にどうにもならないよ。ただ単に、もう力を分け与えられなくなるだけさ。死んだりするわけじゃない。……わざわざ君の妹になるのは、僕が人の姿で下界を直に見続けたいって理由もあるんだ』


 力を願ったら死んじゃうっていうんじゃ、さすがに困るからな。罪悪感から力を使えなくなる。


「最後に、旅に同行できる妹を選んだ場合に得られる力ってのは、どの程度になるんだ?」

『以前の僕と比較して、おおむね十分の一ってところかな』

「ってーと、だいたい各能力値五十ほど支援してもらえる程度か……」

『うん、そんな感じだね』

「十分だな。それだけ補正があれば、俺の元のステータスとエディタからの補正分を合わせれば、高ランク冒険者並みになりそうだ」

『ただし、妹自身は戦力としてみないでね。ステータス支援はできるけれど、僕自身は戦えない。これは、他の神々との約束なんだ』

「いいよ、問題ない」


 どちらのティーエムちゃんを選んでも、すごく頼りになりそうだ。

 一回限りだけれど、あの古竜すら圧倒できる力を得られる前者。

 爆発的な力はないけれど、継続して高水準の冒険者に匹敵する力を得られる後者。


『あらためて聞こう。どっちがいい、デニス?』


 ティーエムちゃんは俺に問う。


 さて、今の俺に必要なのは――。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ティーエムちゃんに希望を伝えるや、背後に人の気配を感じた。


 俺が立ち上がろうとしたところで、その何者かに両手で目を塞がれた。


「だーれだ?」


 少し幼げな少女の声が、礼拝堂に響き渡る。


「ティーエム……ちゃん?」


 このタイミングでこんな質問をしてくる人物は、他に考えられない。


「ぶっぶー。ハズレー」


 少女はぷっと吹き出し、俺の目を遮っていた手を放した。

 振り返るとそこには、十二、三歳くらいの女の子が立っていた。


 ……どこか、幼女のティーエムちゃんの面影がある。

 けれど、以前のティーエムちゃんは金髪だったのに、この少女は俺や両親と同じ黒髪だ。

 これなら、俺との血縁者だと言っても、不思議がられはしないだろう。

 うん、この子は確かに、俺の『妹』だ。


「正解は、デニスの妹の『ティーエ』ちゃんでしたー!」

「……ティーエ?」


 ティーエムちゃんじゃないのか?

 聞き間違え?


「ほらほら、お兄ちゃん。立って立って!」


 ティーエと名乗る少女に手を引かれ、俺は立ち上がった。

 するとその瞬間、ティーエは俺の耳に口を寄せてささやいた。


「創造神と同じ名前じゃ、さすがにマズいだろう? これからは、『ティーエ』って呼んで欲しいな」

「わ、わかったよ……」

「それと、今後は元気いっぱいの『お兄ちゃんっ子』って設定でいくから、そのつもりでね」


 ティーエは白い歯をニッと出しながら微笑んだ。


「はぁ……、了解了解」

「さっすがお兄ちゃん、話が早いっ!」


 ティーエは俺を一度ぎゅうっと抱きしめてから、パッと離れた。


「これからよろしく、デニスお兄ちゃん。そして、僕――()()()の秘密は、必ず守ってほしいな」


 人差し指を突き立てながら、ティーエは俺に念押しをした。

 もちろん、そのつもりだ。

 ティーエが創造神だなんて、誰にも言えやしないじゃないか。


 抱きついてきた細い腕の感触を確かめながら、ふと胸の奥に引っかかりが生まれる。


 ……ティーエは、ほんとに妹って感じなんだよな。じゃあ、エディタは……?

 あいつの前だと、どうしても気楽には振る舞えない。理由はまだよくわからないけど。


 自分でもうまく言葉にできない違和感に、思わず小さく息を吐いた。とはいえ、今はあれこれ考えすぎても仕方がないだろう。


 俺はあらためて自分のステータスを確認した。

 ティーエムちゃんの言ったとおり、ティーエのおかげで能力がだいぶ底上げされていた。


 これなら、父さん母さん無しでも戦えそうだ。


 俺は両拳をぎゅっと固めた。

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