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第21話 追放宣告

『コーシェ王国第三王女エディタ・ス・コーシェの王籍を抹消する。また、同者のコーシェ王国からの追放を宣告する――』


 一枚の紙が俺たちにもたらした衝撃。

 眠気が一気に吹っ飛んだ。


「まさか、本当に……。父様……」


 エディタは顔面蒼白になりながら、手にした紙に目を落とす。


「こりゃ参ったね。あの勇者、動きが速いじゃないか」


 父さんは肩をすくめ、ため息をついた。


「もう、ヴィートったら! 敵を褒めちゃだめじゃない! ……とは言っても、確かに良くない状況ね」


 母さんの言うとおりだった。

 お触れがこの辺境の村まで出回っているとなると、もう王国中どこへ行ったとしても、エディタの身は危険にさらされるだろう。


 幸いにして、まだこの村の人たちにエディタの姿は見られていない。実家に身を寄せている間は、なんとか時間稼ぎができる。

 だが、それもいつまで持つことか。


 それに、家に引きこもったままでは冒険に出られやしない。

 俺もエディタも、そんな状況は困る。


「エディタ様とこの村とを結びつけるものは、何もないはずだ。デニスと遭遇したのだって、ただの偶然だったようだし」

「そうね。王家の追跡がこの村へ伸びるまでには、かなり時間がありそう」


 両親は腕を組みながら、ああだこうだと意見をぶつけ合っている。


 一方で、エディタは相変わらず血の気を失った顔のまま、震える手でお触れの紙を握りしめていた。


「エディタ……」

「だ、大丈夫ですわ、デニス。覚悟はできております。古竜から助けていただいた時にも申しましたが、父様がマルツェルの言葉を受け入れてこのような事態になるやもしれないとは、薄々感づいておりました」

「心中察するよ……」


 俺と同じような境遇だ。

 どうにかしてやりたい……。


 長年所属していた場所から追放されるってのは、なかなか心に来るものがある。

 勇者パーティーから追放されたあの日の痛みは、今も決して忘れられない。

 見下すマルツェルたちの下卑た笑い顔だけは、決して、決して……。


 俺は服の胸元をくしゃっと握りしめた。


 それに、エディタの心痛は、おそらく俺以上だろう。

 何せ身内からの追放宣言だ。俺がマルツェルから追い出されたのとは、訳が違う。


 小刻みに震えるエディタの手を、そっと包むように握りしめた。


 ……エディタに一人で抱え込ませるわけにはいかない。


 気づいたら、勝手に手が動いていた。


「あっ……」

「ごめん、迷惑だったか? 初めて会ったあの日、君は村の礼拝堂で、鬱ぎ込んでいた俺を慰めてくれただろう? 頬に感じた君の手のひらの温かみに、すごく勇気づけられたから。その、あの時のお礼というか、何というか……」


 顔が熱い。

 らしくない行動なのはわかっている。

 でも、やらずにはいられなかった。


「ふふっ、ありがとう、デニス。なんだか力をもらえた気がしますわ」

「あぁ……」


 照れくさくなり、俺はぶっきらぼうに答える。

 気付けばエディタの顔色も、幾分かはマシになっていた。


「なんだか、あなたには助けられてばかりですわ。お恥ずかしいです。わたくしから返せるものが何もないのが、口惜しいですわ……」


 エディタの視線が一瞬だけ揺れ、すぐにまっすぐ俺を見てきた。


 しばらく見つめ合った後、エディタは小さく息を整え、しとやかに微笑んだ。


「気にするなって。困った時はお互い様。だって、俺たちは――」

「旅の仲間、でしたわね」


 エディタがうれしそうに答えると、俺も釣られて頬が緩んだ。


 そんなやりとりをしている間に、両親の言い合いも終わったようだ。

 父さんが俺に声をかけてきた。


「デニス、これからのことなんだけど」


 真剣な表情の父さんを見て、背筋を正した。


「一時、隣国へ逃れるってのはどうだ?」


 俺はエディタと顔を見合わせた――。

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