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第20話 故郷への帰還

「デニスッ!」


 実家に帰るや、俺は母マリカにぎゅうっと抱きしめられた。


「く、苦しい……。放してくれ、母さん」

「あ、あら……。私ったら」


 母さんは慌てて俺を放すと、苦笑いを浮かべる。


 まったく、馬鹿力で締め付けられて、死ぬかと思った。

 俺を相手に、高ランク冒険者だった実力を遺憾なく発揮されても困るぞ。


「ふふっ、素敵なお母様ですね」


 俺の後ろでエディタが忍び笑いを漏らしている。

 ったく、勘弁してくれ……。


「よく戻った、デニス。勇者様はどこだ? それに、そちらのお嬢さんは……」


 父ヴィートはキョロキョロと辺りを見回したあと、エディタに視線を向けた。


「あー、それは……」


 俺が言いよどむと、エディタがさっと前に出て――。


「初めまして、エディタと申します。……デニスの、婚約者になる予定ですわ」


 深々と淑女の礼をとりつつ、とんでもないことを言い出した。


「あらあら」

「おぉー!」


 両親は目を丸くし、俺とエディタの顔を交互に見比べている。


「おい、デニス! 成人そうそう、なかなかやるじゃないか! こんなにきれいなお嬢さんを」

「あらあらあらあらっ、まあまあまあまあっ! 今夜はお祝いね!」


 父さんは俺の首に手を回してニヤっと笑い、母さんは手を叩きながらキャッキャと飛び跳ねる。


 ……相変わらず、子供っぽい両親だった。昔からちっとも変わらない。


「うふふ。熱烈な歓迎、大変感謝いたしますわ」


 エディタもまんざらでもない様子で、頬を緩めていた。


「だーっ、勝手に話を進めないでくれ! きちんと紹介するから!」


 俺は堪らず、父さんの腕を外して声を少し荒げた。


 俺の反応が面白いのか、両親もエディタもクスクス笑っている。

 まったく、初対面のはずなのに、どうして両親とエディタが結託して俺をからかうんだよ。

 ま、悪気がないのはわかっているから、いいけれど……。


「いろいろ報告したい。話が長くなるけど、いいか?」


 両親は真顔に戻り、うなずく。

 そのまま、父さんのあとについて家の中に入った。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「ってーと、おまえは勇者様に捨てられたって、そういうことか?」

「あぁ……」


 これまでの一部始終を話し終えるや、両親は一気に不機嫌になった。


「ひっどーいっ! 私たちからかわいいデニスちゃんを奪っていったくせに、いらなくなったからってえん罪をなすりつけて捨てるって、そんなの許せないわ!」

「まったくだな……。今度勇者に会ったら、俺たちの手でボッコボコに制裁してやる!」


 両親は鼻の穴を膨らませ、テーブルを叩いて憤る。


 二年前のあの日、両親は俺の勇者パーティーへの参加を散々反対した。そんな中、俺は無理を押して家を出た。

 両親も最後には折れたとはいえ、心の内では俺にあきれているのではないか。そう不安に思っていた。

 だが、どうやら杞憂だったようだ。


 胸の中に、じんわりと暖かいものが広がっていく。


「とにかく、デニスが無事で良かった。これからしばらくは、我が家でゆっくりしていくといい」

「そうそう、ヴィートの言うとおりよ。焦らずじっくり、今後のことを考えるといいわ」

「ありがとう、父さん、母さん」


 当面は、レドニツを中心に冒険者として活動すればいいだろう。

 いずれは村を出るべきだとは思うが、今はティーエムちゃんの力を失ったばかりで、俺のステータスも軒並み下がっている。

 両親からの《信頼》補正を得ながら、じっくりとレベルアップをしつつ、新たな仲間を探す。これが目標になる。


 エディタには悪いが、真の勇者うんぬんは、今は考えられない。

 まずは冒険者としての立ち位置を、しっかりと確保しないとな。


「もちろん、エディタ様もね」

「ありがとうございます、マリカ様」


 エディタは少し恐縮したように背筋を伸ばし、そっと俺から半歩だけ下がった。


 ……エディタ、無理はしてないかな。不慣れな環境だし、こういう時ぐらいは、俺が横に立って支えてやらないとな──。


 ちらりとエディタを見遣った。遠慮したような動きのエディタに合わせるように、俺も半歩下がり、脇に並び直す。


「まさか、デニスが王女様を連れてくるとはな……。さすがに俺も、度肝を抜かれたぞ」


 両親にはエディタの事情を話していた。


 下手に隠し立てをしたところで、エディタは王族だ。村の中にも、エディタの顔を見てピンと来る人間がいるおそれもある。

 何かトラブルに遭遇した際に、もし両親に事情を話していなければ、面倒な事態になりかねないだろう。


「それにしても、あの勇者は本当にクズだな。なぜそんな人間が、王家の後押しを受けて勇者なんて大任を請け負っているんだか」

「わたくしといたしましても、このままあの男をのさばらせておくつもりはありませんわ。ですが、今のわたくしには、抗うだけの力がありません……」


 エディタは顔をうつむけ、弱々しく頭を振った。


「大丈夫よ、エディタ様。うちの子は、やる時はやるんだから!」


 母さんが俺の背中をバンバンと叩きながら、エディタに微笑みかける。


「ちょっ! 母さん、なに勝手なこと言ってるんだよ!」

「あら、デニス。こんなに素敵なお嬢さんの頼みを、無視するって言うの? 私、そんな薄情な男の子に育てたつもり、ないんだけどな」

「うぅ……」


 反論できなかった。

 まぁ、俺の力を買っているからこその、母さんの言葉だ。決して悪い気はしない。


「わたくしも、デニスが喜んで力を貸してくれるよう、一緒に冒険をする中できちんと覚悟を示したいと思っておりますわ」


 エディタは服の胸元をぎゅっと握りしめ、俺の顔を注視した。


 俺は気恥ずかしくなり、思わず目線をそらす。


 エディタや両親がなんと言おうと、今の俺はうなずけない。


 ティーエムちゃんの加護を失った今、勇者と呼べるだけの力は持っていない。

 それに、再びマルツェルたちと関わろうと思えるほど、あの追放騒動を割り切れてもいない。

 半端な覚悟でエディタの願いを聞き入れたところで、お互いに不幸な結果になると俺は思う。


 あくまで、冒険者仲間として身の安全を守ってやる。

 今の俺にできることは、ここまでだ。


「まぁ、さっきも言ったが、そう結論を焦る必要はない。夜には帰還の歓迎パーティーをやるから、今はイヤなことは忘れて、これまでの疲れを癒やして欲しいな」


 父さんは場を和ませるように、俺たちに笑顔を振りまいた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ささやかながらも心温まる歓迎パーティーを楽しんだ翌日。

 俺はティーエムちゃんとの約束を果たそうと、村の礼拝堂に向かうことにした。


 着替えて一階の居間に向かうと、両親が深刻な顔をして椅子に座っていた。


「あぁ、デニスか……」


 昨晩のニコニコとした父さんからは別人のように見える。

 いったい、なにがあった……。


「どうしたの、父さん、母さん?」

「デニス、落ち着いてこれを見て欲しいの」


 母さんはテーブルに置かれた一枚の紙を手に取り、俺に示す。


 何だろうといぶかしく思いつつ、俺は書かれた内容に目を通した。


「なっ!?」


 あまりの衝撃に、俺は紙を取り落とした。


「まさか、うそだろっ!」


 信じがたい内容が、紙には書かれていた――。

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