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第14話 「わたくしの勇者様」

 場の安全を確認した俺は、すぐさま少女の元に取って返した。

 回復魔法で傷を治しておいたとはいえ、少女は意識を失ったままだ。他の魔獣に襲われでもしたら危ない。

 そう思っていたが……。


「あなたが……」


 どうやら、いつの間にか少女は目を覚ましていたようだ。木の幹に寄りかかりながら、俺をじいっと見つめている。


 もしかしたら、戦闘の一部始終を見られたかもしれない。

 神の力を借りている現状の俺を知られるのは、あまり得策ではない気がする。


「あなたがっ!」


 唐突に少女は叫ぶと、俺に駆け寄ってきて、飛びかからんまでの勢いで抱きついてきた。


「おわっ!?」


 少女のいきなりの行動に対処できず、俺はそのまま押し倒された。


「あなたが……、あなたこそが、わたくしの勇者様!!」


 少女は涙をこぼし、俺の胸に顔を埋める。


 ちょっ、なんだなんだ! 『わたくしの勇者様』って、いったい何の話だよ!?


 動揺のあまり、俺は少女のなすがままにされる。


「待ってくれ。説明してくれないと、わからない!」

「あっ!?」


 少女はハッと口に手を当て、すぐさま立ち上がった。だが、まだ傷が痛むのか、顔をしかめて倒れ込みそうになる。


「おっとと、危ない」


 俺は慌てて手を差し伸べ、少女の身体を抱き留めた。


「も、申し訳ございません。助けていただいた方に、このような非礼を……」

「いや、気にするな――しないでください」


 ゆっくりと優しく、少女を立たせてやった。


 相手はおそらく王女様だ。身なりやこれまでの所作を考えれば、たとえ見込み違いだったとしても、丁寧に接すべき相手なのは間違いないだろう。


「申し遅れましたわ。わたくし、コーシェ王国第三王女、エディタ・ス・コーシェと申します」


 少女――エディタはローブの裾をつかみながら一礼する。

 やっぱり、睨んだとおり王女様だった。


「デニス……です。以前、村の礼拝堂でお目にかかりましたよね?」


 王族とはっきりした以上は、これまで以上に言動を注意する。


「やはり、あの時の殿方でしたか……。今はすっきりしたお顔をなさっておりますね。悩みは解消されましたか?」

「えぇ、おかげさまで」


 俺がうなずくと、エディタは満足げに微笑んだ。


「しかし、いったいどうして王女様がこのような場所に?」


 俺の問いかけを聞くや、エディタは一転してさっと表情をゆがませる。


「王女、ですか……。ふふっ、わたくしはもうすぐにでも、ただのエディタになるやもしれませんね」


 エディタは弱々しく頭を振りながら、自嘲気味に笑いだした。


「どういう意味です?」


 エディタの態度の変化を見て、やはりマルツェルたちと何かがあったんだろうと当たりをつける。


「実はわたくし、勇者マルツェルのパーティーに所属をしておりまして――」

「そのあたりは存じております、姫様。俺……私も、マルツェルのパーティーにいましたから」

「えっ!? ……あっ、もしかしてデニスって」

「追放されたメンバーの話を、勇者からお聞きになっていますよね? 不本意ながら、それは私のことです」


 エディタは大きく目を見開き、俺の顔をじいっと見つめている。


「あなたがとんでもない悪漢だなんて……。信じられませんわ」

「そりゃそうですよ。濡れ衣ですから」

「やはり……」


 俺の答えに、エディタはさも納得がいったとばかりに首肯する。

 この様子から見て、どうやらエディタもマルツェルの裏の一面を知っているようだ。


「実はわたくし、あなたと別れて以降このような目に――」


 エディタは淡々と、勇者マルツェルとの間に何があったのか説明しだした。


 次々と語られるマルツェルの非道な行為に、俺はいらだちを隠しきれない。


 ひでぇな……。

 王族にここまでの仕打ちをするなんて、マジかよ。

 たかが一回、夜の相手を拒否られただけだろう? 意味がわからない。


 俺は頭を振りながら、深くため息をついた。


「マルツェルの言動から、おそらくはわたくしに関する嘘の情報が王家に報告されるはずです。父様の性格を鑑みれば、わたくしの立場は相当に微妙な状況に追い込まれると推測されますわ。最悪、王族の資格を剥奪される可能性も……」


 エディタは再びはらはらと涙を流した。


 なるほど、それですぐにでも『ただのエディタ』になるかもしれないって口にしたのか。


 エディタと俺の境遇が重なる。マルツェル一派にいいように使われ、捨てられた……。

 思わず、握りこぶしでそばに立つ木の幹を叩きつけた。


「わたくしは父様に、なんとしても勇者の真実を伝えねばなりません。ですが、無事に王都まで……王宮にまでたどり着けるかどうか、自信が持てないのです」

「マルツェルに姫様が存命な事実がばれたら、狙われかねないですしね」


 エディタはこくりと頷くと、俺にぐっと顔を近づけてきた。

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