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第13話 古竜をぶっ倒せ!

 少女を拾った開けた場所まで戻ってきた。

 相変わらず古竜は興奮しているようで、地響きとともにあちらこちらから土埃が舞い上がっている。


 難敵を前にして、いやでも気分は高揚する。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ。


 いよいよ、過去、人族の誰もが敵わなかった古竜を相手にする。


 力を失い、マルツェルに虐げられ苦しんだ日々。

 散々利用され捨てられ、それでもヤツにあらがえなかった己の無力さ。


 時折ふっと思い出しては、胸を締め付けられた。


 だが……。

 だが、今、そのすべてを払拭する!


 俺は……。

 俺は、強くならなくちゃいけないんだっ!!


 暴れ回る古竜をキッとにらみつけた。

 準備していた《身体能力向上・超級》の詠唱を完成させ、スキルを発動する。


「俺の……冒険者デニスの、新たな出発にふさわしい相手だ! やってやるぜ!」


 ググッと身体を沈め、地面を思いっきり蹴った。

 古竜の顔面目指して大きく跳躍する。


「おらぁぁぁっっっ!!!! おまえをぶっ倒して、俺は、失った自信を、取り戻すんだぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」


 声を限りに叫んだ。


 分厚い胴体を狙っても効果は薄いはず。狙うは頭部。


 気づいた古竜は、俺に向かって大口を開けた。


 ちっ! ブレスを吐く気だな。


 すかさず俺は自分の背を押すように風魔法を放ち、突進の速度を増した。


「食らいやがれっっっっっ!!!!」


 両拳を固めると、体重をかけて古竜の脳天に向かって一気に振り下ろした。


『グギャアァァァァァッッッッ!!!!』


 古竜は叫び声を上げた。

 瞬間、俺が拳を叩きつけた勢いで古竜の口は強制的に閉じられ、隙間からもうもうと煙が漏れ出す。

 喉にため込んでいた炎が消し飛んだようだ。


 よしっ、ブレスは防いだ。一気にヤツを吹っ飛ばすぞ!


 いったん地面に着地すると、すぐさま跳躍し直した。

 再び古竜の顔面まで上昇する。


 古竜はブレス後のディレイのために、身体が硬直していた。


 好機到来!


「ほぅらっ! おまえの狩り場はここじゃないぞっ! とっとと山に帰りなっ!」


 再び背に風魔法をかけて前方への推進力を得ると、長い首に向けて勢いに任せた回し蹴りを食らわす。

 筋力ステータス800 越えの体術だ。いくら頑丈な古竜とはいえ、ただではすまないだろう。


 蹴りつけた俺のかかとが、古竜の首筋に大きくめり込んだ。

 古竜は硬直で動けず、声も上げられない。


 時間制限が気になる。

 俺は手を緩めずに連続攻撃をお見舞いした。打撃を与えた首筋だけを狙い、ひたすら殴る蹴る。

 古竜に反撃の隙を与えるわけにはいかない。


「オラオラオラオラオラァァァァァァァッッッッッ!!!!」


 風魔法も駆使して上空での体勢を維持しながら、ひたすら攻撃を繰り返した。


 やがて、古竜の硬直が解けた。


『ぐるるるるるるっっっっ…………』


 古竜は痛みのためか、うなり声を上げている。


 手応えありだっ!

 もう無能なデニスだなんて、呼ばせやしないっ!


 俺は力が通用したことに喜びつつも、油断せずに古竜の動きを目で追った。


 首へかなりのダメージを与えたはずだ。

 反撃するだけの気力を奪えていれば成功だ。


 古竜ほどの魔獣なら、生涯でこれほどの大ダメージを受けた経験はないはず。

 意外と打たれ弱いのではないかと踏んでいるんだが……。


「いい感じだ、明らかにおびえの色が見えるよ」


 胸元に潜り込んでいたティーエムちゃんが、ひょっこりと首を出して俺を激励した。


「よし、もう一押しを決めちまうぞっ!」


 古竜はブレスを諦めたのか、今度は腕を大きく振り回して、首元にまとわりついている俺をはじき飛ばそう試みる。

 だが、焦りで冷静な判断ができなくなっているようだ。

 敏捷性が大幅に増している俺を捉えきれず、逆に自らの腕で自分の首を傷つける始末だった。


 ティーエムちゃんが言ったとおり、確かにこの身体能力なら、複数の古竜すら相手にできそうだ。圧倒的だった。

 でも、慢心しちゃいけない。それじゃあ、あのマルツェルと同じだ。


 俺はひたすらに首の一点を叩き続ける。拳を打ち付けるたびに、古竜の硬い皮膚がぼっこりと潰れた。

 改めて、今の俺の筋力の異常さを実感する。


『グギュルルルルッッッッ……!!』


 とうとう古竜は情けない悲鳴を上げはじめた。

 瞬間、古竜の巨大な尻尾がしなり、風を切る轟音とともに襲いかかる。


「うわっ、と!」


 攻撃の手を止め、慌てて回避した。


 次の攻撃に備えようと身構えると、古竜はそのまま俺に背を向けた。

 畳んでいた翼を大きく広げると、一気に大空へと舞い上がる。


「よぉし、うまくいったようだよ。諦めて逃げていく。やったねデニス!」


 ティーエムちゃんが嬉々とした声を上げた。


 やった、のか……?


 どうやら尻尾の一撃は、俺から逃げる隙を作るための最後の抵抗だったようだ。


 俺は地面に着地すると、激しく動いて乱れた息を整える。


 古竜は山頂に向かって飛んでいった。

 しばらく様子を見ていたが、どうやらおとなしく住処へと帰って行ったようだ。


「勝った……」


 俺は自らの両手をじいっと見つめた。


 マルツェルでも逃げ出したあの古竜を相手にして、ここまでやれた。

 無能とさげすまれた俺が、伝説の古竜を圧倒できたんだ……。


 感無量だった。全身が震える。

 ティーエムちゃんの助力があったとはいえ、その助力を生かすためのスキル《信頼》自体は、あくまでも俺の力だ。


 これで、忌まわしい過去とは決別できた。

 俺は、新しい未来を、この手にした力で切り開くっ!


 ぎゅっと両拳を固めると、天に向かって突き上げた。

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