旅立ちの風と4人の英傑
俺は宮崎晃輝。青春だとかいう暑苦しい日々の中で、窓の外を眺めるなんてことない18歳。の、はずだったのだが...
ある日、ひょんなことから異世界に転送されてしまい、気づくと森の中で倒れていた。それからその世界で、3年もの歳月を過ごした。はじめは言葉も文字も分からず、下級の魔物にだって敵わなかった。しかし、今では剣術の腕も魔法の技術も熟達して、大陸第3の魔法商業都市"マカアル"で、トップギルド"キザヤミ=ショテウン"を率いるまでになった。
そんな俺は、今ギルドの依頼、最高難度
"破滅絶望級"の魔道書の探査に向かおうとしていた。
待ち合わせ場所の関所の前で剣を磨いて待っていると、ひとりの少女がやってきた。
「おまたせ!今日も準備万端なんだから!頑張ろうね、晃輝!」
「おう、まぁほどほどに張り切ってくれよな」
この元気はつらつな長い金髪の少女は、俺が2年前の"焔の悪魔"に壊滅させられた村で助けた、ミサという少女だ。幼い顔ながら、スラっとした長身で、雪のように白い肌に青い瞳をしている。両耳に魔法石のイヤリングをして、首にはロザリオを掛け、ノースリーブで胸のひらけた薄い生地の青い服を着ており、同じ色のミニスカートを履いている。白のニーハイソックスで革のヒールの高いブーツを履いていて、いつも世界樹の枝を使った杖を持っている。ちなみに、この世界で取れる桃のような植物に似た、さわやかな匂いがする。
そして、その後ろからもう一人、黒髪のショートヘアの女の子が顔をのぞかせた。
「こ、晃樹、今日の依頼はがんばるから!絶対に足引っ張ったりしないよ!」
「あぁ、期待しないはしないが了解した」
この張り切った幼い顔の女の子は、2年前の"煉獄の修練場"で、俺の剣の腕に惚れ込んでついてきた、拳法家のハルミ。俺に懐いているようで、いつでも俺の後ろをぴょこぴょことついてくる。薄い黄緑の、七分袖の上下の武道着を黒帯で締め、その下にはピンクの下着が覗いている。手首と足首には魔導繊維と、魔力の高い俺の髪の毛が織り込まれたミサンガをつけており、革の武道靴を履いている。近づくと、柑橘系の果物のような、涼やかな匂いがする。
2人の相手をして適当にあしらっているあいだに、もう一人の仲間が急ぎ足でやってきた。
「すみませんマスター!また遅刻しちゃいました...」
「別にこっちだってはじめから時間通りにくるなんて期待してないっての。それより、スカートがめくれ上がってるぞ」
「はわわわわ!!」
このうっかり屋の白と紺のボーダーのパンツの少女は、一年前の"極限の剣会"の決勝で俺の剣の腕にほれてギルドに入ってきた、ヒーラーのエミコだ。青い髪をポニーテールにして、赤い髪留めをしている。魔法石のネックレスを掛けて、白のワンピースの上からベルトをして、魔法獣の毛皮のマントを羽織っている。黒いニーハイソックスを履いて、白い魔法獣の毛皮のブーツを履いている。そして、彼女の髪からはさくらんぼに似た見た目の、バナナに似た味の魔界の植物に似た甘い匂いが漂う。
「さてと、いつもどおり予定よりはだいぶ遅れちまったが、早速出発するとしますか」
俺たちは、このあと待ち受ける数々の試練、大きな出会いのことも知らずに、星屑の洞窟へとむかうのであった。
街を出た俺と3人の少女は、馬に似た魔導生物が引く、馬車のような乗り物に乗って"星屑の洞窟"へと向かった。俺は、スマートフォンでグーグルマップに似た魔導アプリを駆使して、魔導位置情報を見ながら、馬に似た魔導生物を操り、平原を走った。
「マスター、今日の星屑の洞窟で探す魔導書には、一体何が記されているんですか?」
エミコが袖をチョンチョンと引っ張って訊いてきた。
「それも含めて謎が多い。しかし、一説によれば、"最終預言"の失われし一節、"星刻の時代の章"についての記述があるだとか、あの禁断の"誓約の禁呪詠唱"の秘法が書かれているだとか...まぁいずれにしろ、大陸...いや、世界を揺るがす大事実が明らかになるだろう」
「そんなに凄い依頼だったの!わー大変だぁ...」
ハルミはうなだれて、こちらにもたれかかってきた。やれやれ、いつも隙あらば俺にくっついていようとする。
「ミサはどんな依頼でも全力だよ!ね!晃輝!」
ミサは俺の片腕に胸を押し付けて抱きつきながら、目を輝かせて同意を求めてきた。
「まぁそれが功を奏すかどうかは置いておいて、そうかもな」
やれやれ、ミサは隙あらば俺に抱きつこうとする。
そんなやりとりをしているうちに、目的地まで1キロほどになった。俺は、牛に近い魔界生物の革で作られている皮袋のような入れ物に詰まった、ワインに似たような葡萄に似た魔界植物から作った飲み物を飲み、麻に似た魔界植物で編んだTシャツに近い服で口をぬぐい、コルクに似た魔界樹の皮でつくったコルク栓に似たもので牛に近い魔界生物の革で作られている皮袋のような入れ物に栓をした。
と、次の瞬間、禍々しい重たい空気がブワッと押し寄せ、空の色も怪しく変わった。馬に似た魔導生物は馬に近いようないななきを上げて、馬に似た驚き足を上げる仕草をした。俺は馬に似た魔導生物を、馬をなだめるときににた方法でなだめた。
「いよいよ...だな」
3人の少女は同時に身震いした。ミサは俺の右腕にぎゅっとしがみつき、ハルミは俺の背中に身体をくっつけ、エミコはポテトチップスに似た魔導スナックを頬張っていた。
そして、運命の冒険の幕が開けた。
洞窟の入り口の前に立つと、あたりには重たい空気と血の匂いが立ち込めていた。
「ここから先は死地だ。いつどこから魔物や魔導トラップが顔を出そうともおかしくない。つっても、俺たちは何回もも経験した程度の苦境だ。俺の剣術のレベルからすればウォーミングアップにもならねぇさ。しかし、依頼の報酬のあのド派手さからして、こんなもんで終わりとは思えねぇような気もするがな...まぁいい、こんなところでゴチャゴチャ言ってる暇があったら前に進むぞ!」
俺は怖気付く3人を鼓舞してやった。
洞窟の中は真っ暗で嫌な湿気があって、四方から水の滴る音が響いた。俺は、スマートフォンから魔導ライトをだして、洞窟内を照らしながら歩いた。
「晃樹、その神器はずっと使ってても大丈夫なの?」
ハルミは腕を引っ張って訊ねてきた。少しだけ柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
「やれやれ、前も説明したじゃないか。このスマートフォンは俺の魔導改装でドラゴンの牙の芯を組み込んだから、俺のほぼ無尽蔵の魔力エネルギーを変換してスマートフォンの動力にできるんだ。だから、俺が手にしている限りは電池切れしたりすることはないんだって」
「ひょえ〜!この神器はマスターが自分で改装したんですか!す、凄いです!やっぱり剣の腕だけじゃないんですね!」
エミコは感心して声をあげた。
「やれやれ、俺を見くびっちゃ困るぜ」
そんな話をしながらしばらく歩くと、ドーム状に広がったところに突き当たった。
「ねぇ晃輝、ここ、なんだか空気が余計に重たいし、なんだか血みたいな匂いがする...」
ミサは顔を青くして俺の右腕に抱きついてきた。
「あぁ、分かってる。こりゃなにかくるぞ...!」
次の瞬間、爆音が鳴り響くのと同時に、洞窟の中が大きく揺れ、地面の岩が飛び散った。
「下からだっ!」
砂煙の向こうに、明らかに人間のそれの何倍もある、怪物のような体躯の影が見えた。
「先手必勝!」
ハルミは、飛び蹴り一閃、煙の向こうに消えて行った。
「待て、まだ危ない!」
しかし、俺が声をあげた時にはすでに遅かった。
「晃輝、助けて...」
ハルミは人外の怪物に抱きかかえられていた。
「くっ、だから言ったじゃねえか...」
俺の中で、思考がぐるぐると交錯した。まず、容貌から見るに、トロールとオーガの魔導合成で産まれた生き物...そう推測できる。つまり、そこから導き出される弱点はその鈍さ。しかし、あのハルミの飛び蹴りをいなして捕まえるとなると、俊敏さも持ち合わせているのかもしれない。となると、やはり魔導書の影響なのか、外部からの強化が施されているに違いない。
「晃輝っ!」
俺が策を講じているその間に、ハルミの服は魔物の唾の酸で溶け、ピンクの下着ももはやはだけてしまいそうな状況だった。魔物は息を荒げ、ハルミの全身をベロンと舐め上げ、不気味な笑いを浮かべた。
「待ってろ!今助ける!」
しかし、俺はここで焦らずに策を練った。まず、あの俊敏さ。あれは俺の剣でもギリギリのところだ。だったら、魔法で様子を見たほうがいいだろうか。しかし、魔力はスマートフォンの動力に使っていて、残りも限られている。微塵とも無駄にはできない。はじめに相手の魔導強化をはがしにかかるのが良いかもしれない。いや、それとも力を奪う魔法を使っても...
「晃輝っ!晃輝!!」
ハルミの服も下着も、もうほとんど布切れ同然になってしまい、深夜帯のテレビアニメでぎりぎり放送できるほどの布の面積だけを残していた。そして、トロールは怪しい腰つきでどんどん呼吸を荒げていった。
「あぁ、今すぐ助ける!」
それでも俺は冷静だった。
そして、あの怪物の動きを観察して、対策を万全にしなければならないということを導き出した。
俺は思考力を総動員して、まずは魔物の行動パターンを把握することに勤めるのが最善の策だと考えた。そして、今度は集中力を総動員して魔物の動きを伺った。
「いやぁぁぁ!晃輝!晃輝!」
ハルミは魔物に押し倒されて、泣きじゃくりながらこちらに助けを求めていた。衣服はもう溶け切ったが、謎の光がその要所要所をカバーしていた。魔物は興奮した様子で腰を振り、快楽にもとれるような雄叫びを上げていた。
「ハルミがピンチだ...!」
俺はハルミを助けるべく、血眼になって魔物の動きを観察した。
魔物の腰は激しく前後しており、完全に理性が感じられなかった。そして、その身体はハルミに全身全霊を集中させていて、明らかに臨戦態勢ではないように見えた。
「晃輝いいぃぃ!晃輝っ!もうダメ!晃輝!晃輝晃きあああああああああああああ」
しかし、冷静沈着な俺は観察を止めようとはしなかった。
魔物は腰の動きを一段と早め、その速さはもはや最高到達点に達しているようだった。荒々しい腰つきに合わせて、魔物の吐息と声が出てもれ、洞窟内に響き渡っていた。
「ぁぁぁあああぁあぁあああぁぁぁああ」
ハルミの心と体はもう壊れていた。
俺は、観察に一層の集中力を注いだ。魔物の腰が不規則にビクンビクンと波打ち、魔物は洞窟を揺るがすほどの雄叫びを上げた。その声の中には、達成感や快楽、疲労、とても言いあらわせる限りではないほどの感情がこもっていた。
「あ.........」
ハルミの瞳にはもう輝きが宿っておらず、口からは無力に唾液が垂れていた。
「よし、今だっ!」
俺は決死の決断をして魔物の懐に飛び込んだ。そして、剣を一閃、無防備な魔物の背中に浴びせた。
鋭い切り口からは、禍々しい血飛沫が、まるでシャワーのように降り注いだ。
「マスター、ハルミは無事ですか?」
エミコが心配そうに近寄ってきた。
「だい...じょ...うぶ......ありがと、こ、うき...」
ハルミは白目をむきながらも、両手でピースをしてこちらに笑みを見せた。
「よかった、なんともないみたいね」
ミサは、ハルミの言葉を聞いてホッとして、ハルミの片腕を掴んで肩を貸してやった。
「おい、なにこんなとこで躓いてんだ!まだまだ洞窟は奥まで続いてる!!こんなやつは序の口だっ!!」
俺は、ホッと一息つく一向に喝を入れてやった。
そして、その言葉通り、戦いでひらけた洞窟のつづきの奥からは、一段と強い魔力が立ち込めていた。