むすこ+1をピックアップしました。
息子が大魔神化しました。
マジで怖いです。
何気なくイタズラ心で校門前までお迎えに行ったら、逆鱗に触れた模様。
「だから大人しく車で待ちましょうって言ったのに……」
「最後は安達くんだってノリノリだったじゃない」
コソコソと隣同士で責任を押し付けあってるけど、後ろからの冷気が半端ない。
「ご飯、外で食べるつもりで迎えに来たんだよな?個室のある、行ったことのない店でよろしく。焼肉食べたい」
「「はい、喜んで〜〜」」
後部席から飛んで来た声に、どこぞの居酒屋も真っ青の良い返事をして車が出発する。
「で「ごめんなさい、その前に。葵さんで良いんですよね?」
早速始まりそうな説教を遮るように柔らかな声が響く。
悠理の幼馴染の琉唯君だ。
一緒にいたのを、勢いで引っ張ってきてしまったらしい。
巻き込んでごめんね〜〜。
「そう。なんか朝起きたらこうなっててね、って、琉唯君まで連れて来ちゃったけど、お家の方は大丈夫?なにか約束とかなかった?」
体を捻って後ろを振り返ると、ニッコリと笑顔が返ってきた。
女の子のように優しげな容貌と急に伸びたせいで横幅がついてきてないから頼りなく見えるけど、実はしっかり者の将来イケメン確実な少年だ。
私の周りイケメン率高いよなぁ〜。
悠理と2人でモテモテらしいし。
バレンタインのお返し、大変なんだよね〜。
「特に用事もなくて帰るだけでしたから、大丈夫です」
「そう。じゃぁ、一緒にご飯食べに行こう!お家に連絡してあげる」
幼稚園の頃からの家族ぐるみのお付き合いで、琉唯君とのお母さんとも仲良しだ。
いそいそと携帯を取り出してメールする。
だから、一緒に来て怒れる大魔神を鎮めておくれ。
「ありがとうございます。1人でご飯食べなきゃだったから、嬉しいです」
琉唯君のお家は大きな会社の社長さんだからご夫婦そろって忙しいんだよね。
お兄ちゃん達ももう成人して働いてるから、必然的に家政婦さんと2人な時間が多いみたいで、寂しいからとよくうちでお預かりしてるんだ。
私は基本お家仕事だからいつでも家にいるし、旦那が亡くなった後はなんだか家がガランとしたみたいで寂しかったから、お互い様だったしね。
喧嘩して仲直りして、いつでも仲良く戯れている2人を見てる時間は、私の大事な癒しだ。
「………もう、さぁ。なにやってんのさ母さん。大人しくしとくって言ってたじゃん」
気が抜けたのか深々とため息ついて、呆れたような声が車内に響いた。
「ごめん、ごめん。必要なものを安達君に付き合ってもらって買いに出てたんだけど、時間がちょうどお昼になったし、つい勢いで。変なアドレナリン出てたんだと思うけど……」
視線を向ければ眉を下げた悠理の顔。
「………本当に反省してます。ごめんなさい」
「………もう、良いよ。母さんの暴走癖を甘く見てた俺も悪いし」
真剣に謝れば、しょうがないというように矛を収めてくれた。
うちの子、ほんといい子だな〜。
「お詫びに美味しいお肉食べに行こう!なんでも頼んでいいよ〜」
手を伸ばして、自分とは違う黒い艶のある髪を撫でる。
ムッとした顔で払われるけど、これは何時も事だから気にしない。
思春期はとんがりたくなるものさ〜〜。
と、宙に浮いた手にサラサラの髪が押し付けられて来た。
「撫でて?」と言わんばかりの上目遣いがあざと可愛いなぁ、オイ。
こっちは思春期のとんがりってなに?とばかりに懐いてくるニャンコだ。
「母さん、あんまり後ろ向いてると気持ち悪くなるぞ。前向く!」
悠理とは違う手触りのそれを愛でていると、今度こそはっきり呆れ顔の息子から声が飛んで来た。
「は〜い」
たしかに少しムカムカして来たところだったので素直に返事して前を向く。
運転席では安達君がそのやりとりにクスクス笑っていた。
うん。冷気が消えて良かったね。
でも、油断大敵だよ、安達君。
悠理意外としつこいから時間差で説教が飛んでくることもあるんだからね。
とりあえず、成長期の少年の食欲から懐柔しよう。
横目でアイコンタクトの元、車は一路焼肉屋を目指すのであった。
…………ビール飲んじゃ、ダメだよね、やっぱり。
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「君達のその細い体のどこにその量が入ってくんだろうね〜〜」
「中学生男子の食事は見てて気持ちいいなぁ」
「安達君だってまだ20代でしょ?発言が年寄りみたいよ?」
「………イヤ〜最近脂身が胃に堪えるんですよね」
「「安達さん、おっさん臭い」」
「………みんな酷い」
読んでくださり、ありがとうございました。