夏といえば旅行でしょ⑥
最近めっきり涼しくなってきましたね………
青い空。青い海。白い雲にはカモメが浮かび、砂浜では人々が笑顔で戯れる。
のを、尻目に。
なんでホテルで1人カタカタお仕事してるんだろう、私。
旅行2日目です。
朝から黙々とパソコンに向かってます。
いや、正確には昨夜からだけど。
忘れてる方も多いかと思いますが、私の仕事は(一応)作家です。
自覚もしてるけど器用貧乏な職業作家ってやつで、依頼さえあればエッセイからラノベまで、なんでもやります。入りは児童文学だったんだけどね……。
大ヒットはないけれど、仕事をあまり選ばないためか、親子2人で食べていけるくらいには収入があるんだよ。エッヘン!
が。
仕事を選ばないが故に、やらかした作家さんの穴埋めなんて仕事が急に転がり込んできたりするわけで。
昨夜、のほほんと美味しいご飯に舌鼓をうってたら、電話が鳴ったんだよね。
………安達君の。
「は?え?先生ですか?確かにご一緒させてもらってますけど。ええ?はぁ……。でも、ご旅行中ですしね?」
個室だけど、食事中の電話はマナー違反だよ〜〜?
なんて、いえない空気。
と、いうか嫌な予感バリバリなんだけど。
思わず、悠理と琉唯くん、3人で顔を見合わせちゃったけど。
まぁ、逃げ場なんてないよね。
売れない作家にお仕事の拒否権なんてありません。
拝まれながらも手渡され、電話でざっくり打ち合わせ。
いつもの習慣でノートパソコン荷物に入れてた自分を褒めるべきか嘆くべきか……。
いや、たとえ持ってきてなくてもホテルから借り受けで書かされてた気がするなぁ〜〜。
って考えれば、慣れた自分のマシン持ってきてた自分を褒めておくべきだろう、やっぱり。
社畜根性染み付いてる?
はっはっは〜〜。
自覚あるから痛くも痒くも無いし。
売れない作家がわがまま言うと、あっという間に干されるんだよ?
チャンスの神様は前髪しか生えてないのさ〜〜。
うん、自分でも何言ってるのか分かんなくなってきた。
アァ、もう一ついい事あったや。
子供体になって、お酒飲んで無いから、酔い覚ましの時間がいらない!
その代わり、眠気との戦いになりそうだけど。
子供の体のせいか夜は9時過ぎると眠くなってくるんだよね。
しかも、今日はガッツリ運動したしね。
締め切りは、一応明後日。でも、早ければ早いほどいい、との事。
私的には、できれば明日の午前中にはどうにかしたい。
だって、せっかくの旅行先で缶詰状態は嫌すぎる。
頑張るぞぉ〜〜、お〜〜!!
「まぁ、しょうがない。プライベートに安達君巻き込んだツケと思っとくよ。
幸か不幸か前の連載のスピンオフ短編でいいって言うし。型枠は出来上がってるから、あとは肉付けして文字数稼げばなんとかなるし………」
自分に言い聞かすようにつぶやく母さんの目は死んでた。
まぁ、旅行先まで仕事が追っかけてくれば、こんな顔にもなるか。
「すみません。編集長が無茶ブリして本当にすみません」
肩を落として頭下げまくってる安達さんも、ある意味被害者なんだろうけど。
どうも何かの会話の中で、母さんが半ば趣味でスピンオフの短編書いて遊んでる〜〜なんてリークしちゃったのも安達さんなんでやっぱり自業自得かもしれない。
本当にブラックな仕事だよな〜〜。作家も編集者ってやつも。
「じゃ、オレは琉唯とあっちの部屋で寝るんで。頑張れ〜」
「は〜い。おやすみ〜〜」
人の気配がすると書けない母さんに一部屋あけ渡す為に、寝室移動。
安達さんは母さんに付き合って徹夜するみたいだから遠慮なくベッドを貰う。
「なんか、大変だね」
「まぁ、母さんの場合、半ば趣味みたいなもんだから。それより、徹夜明けで仕事終わった後のハイ状態の方がやばい」
「………あぁ」
ベッドに転がりスマホを弄りながら顔を合わせて、肩を竦めた。
徹夜すると変なふうにハイテンションへとギアが入るみたいで、暴走することがあるんだよな……。
目の下クマクマでゲーセンで高笑いしながらゾンビゲームやりまくった時は、我が親ながらドン引きだったし。
「宴じゃー」って昼間っから宴会始めて酔っ払って、どこからかコスプレ衣装調達して着せ替えさせられた挙句に外を連れまわされてみたり。
もう、素直に寝てくれと何度布団に押し込んだことか。
「ハッチャケてる葵さん、可愛くて楽しいよね〜〜。明日はどうなるかな?」
なぜかニコニコ笑顔の琉唯にもドン引きだけどな。
「琉唯くらいだろ、あれを「可愛い」なんて評するやつ」
「え?母さん達も楽しんでたみたいだけど?」
首を傾げる琉唯に肩を落とす。
そういえばそうだった。
あの人達が煽るお陰で、大抵被害拡大するんだよ。
そういう意味じゃ、あの人達が駆けつけられない距離がある分、マシなのか?
「…………まぁ、出先で無茶はしないだろ」
「旅の恥はかき捨て、って言葉もあるけどね〜」
「マジでやめろ。変なフラグ立てんな!」
楽しげな琉唯を蹴り飛ばしたオレは、多分きっと悪くないと思う。
そっと開いた扉の隙間から中を伺えば、パソコンに向かう小さな背中が見えた。
カタカタと淀みなくキーを打つ音が流れてくる。
人がいると書けない、って言うけれど、本当に集中しちゃえば、たとえ隣で大きな音を立てようと気づかないんだよな。
先生は、器用貧乏の何でも屋だと言うけれど、ただの器用貧乏な作家にこんなに仕事が回ってくるはずもない。
キッチリと求められたクオリティのものを仕上げてくるからこそ、だ。
結果が全ての厳しい世界だからこそ、本物しか生き残ることができない。
それは、尊敬する編集長が常々言っている言葉だ。
いつも無茶振りばかりするけど、編集長なりに応えられるギリギリの線を見極めてふっているんだ。
本当にギリギリなもんだから、精魂尽きるまで絞り出さないと届かなかったりするせいで、「鬼畜」と呼ばれてるんだけど。
そっと部屋に入り、パソコンの横に置いてあるカップを新しいものに取り替える。
気分がスッキリすると先生のお気に入りのハーブティー。持ってきてて良かった。
もうすぐ、夜が明ける。
先生のスピードなら、きっと昼前には終わるだろう。
とりあえず、僕にできることは、先生が快適に執筆できる環境を整えることだろう。
「仮眠……は、この流れだと取らないだろうから、間食を何か用意するかなぁ」
食べやすくて栄養があって、先生の好きなもの……。
幸か不幸かこのホテルには24時間営業のスーパーまで併設してあるのだ。
「ちょっと出てきまーす」
聞こえてないだろうけど、一応先生の背中に小さく呟いて僕はそっとホテルの部屋を後にした。
読んでくださり、ありがとうございました。
海ネタそろそろ締めないと寒い季節になってしまいそうですね(汗
頑張ります。




