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夏といえば旅行でしょう⑤

午後からは、流れるプールの方に行ってみる事になった。

レンタルで浮き輪を借りてプカプカするの、楽しいよね〜。


アスレチックみたいなコーナーでは、巨大バケツから水が降ってきたり、設置してある大きな水鉄砲、てかパズーカーみたいのでお互いに撃ち合ってみたり。


無事合流できたサラサちゃん達とはしゃぎまわった後、再び流れるプールでプカプカ周る。一緒の浮き輪に掴まって、のんびりおしゃべりしていたら、思わぬ事実が浮上した。


「えー、じゃあ、隣町じゃん、うちら!」

「マジか〜!帰ってからも、遊ぼうよ!」


隣の県の施設だというのに、なんたる偶然。

しかし、コレは素直に喜べない。

何故なら。


「てか、どこ小?ウチら試合で結構色んなところと交流するよ?」


って、話題になるよね〜。当然。

小学校?当然行ってないし、行く予定も無いですよ〜?

だって中身はアラフォーのおばさんだもの。


「え……っと、あのね……」

マズイ。うまい言い訳が出てこない。

だって、こんな事になるなんて想定外だし!

突発事項には弱いのよ〜〜。


口籠る私に、サラサちゃん達が微妙な表情になる。

うわーん、なんか言い訳、言い訳!!


「コイツ、小学校通ってないんだよ」

「ひゃっ!!」

不意に肩に手がかかってニョっと悠理が顔を出してきた。


「ちょっと家の都合で離れて暮らしてて、最近こっちに来たばっかりなんだ」

ニッコリ笑顔。

「だから、俺たちも久しぶりで親睦を深めるための家族旅行なんだよな。最も、親の都合がつかなくてこんなメンバーなんだけどさ」


ウォーイ、悠理君!なに設定作ってくれちゃってんの?!

確かに「家の事情」なんて言われたら、それ以上突っ込めない空気になるけども。

もっと小さい子には通用しないんだろうけど、サラサちゃん達くらいに育ってたら、空気読んでくれるよね〜〜?!


そういう意味じゃ助かったけど、すっかり我が家が「ちょっと問題を抱える家庭」になっちゃったんだけど〜〜。

あ、問題ありまくりだった。


何も言えずにアワアワしてたら、サラサちゃん達が顔を見合わせた後、ニッコリと笑った。

「通りで。葵ちゃんくらい目立ってたら、隣町の小学校なら噂くらい聞こえてきそうなのに、って思ってたんだよね」

「引っ越してきたばっかりだったんだね。納得だよ」

何でもないことのように、さらりと流してウンウンと頷きあう2人にちょっとポカンとなる。


「それより、隣町ってことは、お兄さん達ってもしかして噂の「黒王子」と「白王子」ですか?」

そして、さり気なく話題が擦り変わる。

何?この捌けた感じ。

最近の子って皆んなこんななの?凄すぎる!


「ん?黒王子?白王子?」

と、意識の端に不思議な単語が引っかかったぞ?


「そう。第三中にスッゴイカッコいい人達がいるって噂なの!ウチらはクラブ忙しくってそんな暇ないけど、クラスの子でワザワザ見に行った子もいるんだよ!」


首を傾げれば、菜々緒ちゃんがテンション高く教えてくれる。

思わず首を後ろに向ければ、悠理が微妙な顔をして黙り込んでいた。


「おに〜ちゃ〜ん?」

「琉唯が王子呼びされてるのは知ってるけど」

自分まで呼ばれてるのは知らなかった、と。


「黒王子はオレ様だったりするのかしら?」

少女漫画の王道だよね。

思わずつぶやくと、悠理がスッゴイ嫌そうに顔をしかめて、思わず吹き出しちゃったけど。


「そっかぁ。黒王子……黒王子………」

どこから黒がついたのかな?

髪色?性格?どっちもありそう。思春期入ってから特に対応がツンツンしてるもんね〜、悠理。

琉唯くんの「白王子」はなんか納得だけど。


「やめろ、ほんとに」

笑いが止められなくなって、ケタケタ笑い転げてたら、浮き輪から体を離されて放り投げられた。

一瞬水に沈むけど、そんな事で私の笑いは止められない。


「いやぁ〜〜。黒王子が乱暴する〜〜。さすが、黒!」

「この!待て!」

笑いながら泳いで逃げる私を追いかける悠理。

あわや捕まりそうになると、何処からか援軍の支援が入るため、突如始まった2人きりの鬼ごっこはなかなか終わりを見せなかった、とか。


身内の二つ名、楽しすぎ、だね。






「いやぁ、青春ですねぇ」

ひとしきり悠理と追いかけっこを楽しんで体力使い果たした私が、ふらふらと拠点のパラソルへ戻ると、寝椅子に長々と体を伸ばした安達君がのんびり寛いでいた。

ちなみに子供達は私をここまで送り届けた後、水上アスレチックの方へ去って行った。元気だねぇ。


「安達君、姿が見えないと思ったら、なんてオヤジ臭い事を。君もまだ20代でしょうに」

呆れながらも、空いてる椅子に座り、買ってきた飲み物をすする。

あ〜、冷たい炭酸が美味しい。


「いやぁ、10代にはついて行けないですよ。しかもローティーン、とか。アオハル真っ只中!生活に追われた社会人には眩しすぎです」

「………安達君、なんか病んでない?仕事大変なの?」


うつ伏せのまま顔もあげない様子に、少し心配になって、ズルズルと椅子ごと安達君のそばに近寄る。


「新しくついた担当が面倒な人で……。結果もろくに出してないくせに………態度だけは一人前で……もう……もう……」

ブツブツとつぶやく様子は本当に病んでる風味だ。

あらら。


「ごめんね〜〜疲れてるのに、せっかくのお休みに連れまわしちゃって。愚痴なら後で聞くから、少し寝てくる?」

無防備にさらされた後頭部をそっと撫でるとふわふわの髪が気持ちいい。

本人は大変だって愚痴るけど、猫っ毛の天パだから触ると癒されるんだよね〜〜。


「………ココで良いです。けど、迎えくるまで葵さんも動かないでくださいね」

「はぁ〜〜い。大人しくここに居るから寝てくださいな」

良い子のお返事と共にフワフワと髪を撫でていると直ぐに寝息が聞こえてきた。


テーブルの上にはビアグラス。


「弱いくせに飲んだな〜〜」

まぁ、息抜きできてるなら良かった。

くたりと力の抜けた体に笑いながら、背中をポンポンと叩いて、私も椅子のリクライニングを倒すとカバンの中から読みかけの本を取り出した。


大型屋内施設は、適度に日差しも遮られて心地いいし、有料コーナーは適度にスタッフが回って注文を取ってくれる。

誠に、贅沢で快適。

昼寝するにもまったりするにも最適だ。




「まぁ、大人的にはこういう楽しみ方もあり、でしょ」


惜しむべきはアルコールが飲めない事、か。

まぁ、この体になってから美味しくないんだけどね………。





読んでくださり、ありがとうございました。



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