夏といえば旅行でしょ③
このシリーズにしては、少し長めです。
切りどころって難しい………。
「ちょっと、琉唯君、腕痛いから」
ペチペチとどうにか動かせる手で腰のあたりを叩いて主張すれば、少し腕が緩んだ。
押し付けられていた胸から、ようやく顔を上げる。
「………葵ちゃん、知り合い?」
背後から奏君の声がして、どうにか顔だけでも振り返る。体は未だがっちりホールドされてますよ?動けません。
「そう。ゆう………お兄ちゃんの友達」
「友達………?」
奏くんの顔が、少し顰められてるけど、なんで?
と、やりとりに気づいたらしい子供たちが集まってきた。
「葵ちゃん、その人誰?」
「なんで抱き合ってるの〜〜?もしかして彼氏〜〜?!」
女の子組が少し頬を染めてキャァキャァと騒いでる。
あ、そういうお年頃だよね〜〜。
かわいい〜〜。
「さっき言ってたお兄ちゃんの友達〜〜。一緒に来てるの〜〜」
少し緩んだ腕にこれ幸いとクルリと体をひっくり返す。
「え〜〜?カッコいい〜〜」
「お兄ちゃんは?お兄ちゃん〜〜」
キャァキャァはしゃぐ女の子達に、なにやらヘニャリと琉唯君の体から力が抜ける。
「………馴染んでるね」
「うん。1人だったからって、誘ってくれたの。 いい子達だよ?」
だから心配ないよ〜と言うように見上げてニコリと笑えば、なにやらキャァッという歓声が上がる。
「突然走り出すから、何かと思えば」
と、琉唯君の肩越しに悠理の顔がのぞいた。
濡れた髪をかきあげてるからオールバックになってて、なにやら新鮮な感じ。
そうしてるとお父さんに似てるね〜〜。
ていうか、相乗効果のせいか、周囲の視線が凄いんだけど。
腕の中にいる私にまで、とばっちりで視線が飛んで来てるんだけど。
は〜な〜し〜て〜〜。
ジタバタと暴れて逃げ出すと、プールに飛び込んで女の子組の所へすすむ。
あ、ちなみに女の子2人と男の子5人のグループでした。
「え〜〜お兄ちゃんもカッコいい!」
「レベル高すぎじゃない?!」
「でしょでしょ?!(自慢の息子達ですから)」
はしゃぐ女の子は可愛いねぇ。
一緒にテンション高くはしゃいでおこう。
「兄」ですよ〜。「身内」ですよ〜。
周りのお嬢さん達に敵じゃないですよアピールはとっても大事だと思う。
てか、子供まで威嚇しようとすんな。余裕ないなぁ、肉食女子め。
あれ、そういえば。
「安達くんは?」
なにやら奏くんとやり取りしてる悠理達に声をかける。
まさか、ついに手が背後に回ったりしてないよね?
「昼ご飯の席取りしてもらってる」
琉唯君が苦笑い。
あ、心の声聞こえちゃった?
手が、もうそんな時間なのね〜〜。
「あ〜〜、うちらも集合時間だ。ね、午後からもあそべる?」
チラチラと悠理達に視線を送りながらのアピール、しかと受け止めました。
年上のお兄さんに憧れる時期ってあるよね〜〜。
「たぶん。今日一日、あそこの席予約してるし。スマホ持ってる子いるならライン交換しとく?」
「え〜、するする!ちょっと待ってて!」
何気なく提案すれば、サラサちゃんが速攻で駆け出していった。
あ、やっぱり持ってる子いたか。
「わたし、持ってないんだよね〜。良いなぁ。連絡とりたいときはママのスマホとか嫌んなる」
菜々緒ちゃんがしょんぼり肩を落とすけど、親目線で言わせてもらうと、私も菜々緒ちゃんママ派なんだよね。
まぁ、各家庭で事情は違うから、それぞれでいいと思うんだ。
その後、ライン交換した後、一時解散となりました。
お昼、なに食べよっかな〜〜。
「兄貴なら妹から目を離すなよな!変な大人の目線、集めてたぞ?」
サラサ達と合流し、2人がさり気なく葵ちゃんをガードしたのを横目で確認して、プールサイドに立つ2人を見上げる。
多分、中学生か……高校生?
背が高いし、見下ろしてくる目つきが悪いけど、ビビるもんか!
僕だって、それくらいになったら、もっとでかくなってるはずなんだからな!
ビーチチェアーで1人くつろいでる葵ちゃんを最初に見つけたのはサラサ達だった。
カラフルなパラソルの下、綺麗な色のカクテルを飲んでいる姿は、とても綺麗で大人っぽく見えた。
見た目は子供なのに、なんだか仕草や表情は子供っぽくなくて、なんだろう。妙に目を引いたんだ。
ダボダボのパーカーで隠されてるうちは、それでもまだ良かったんだ。
だけど、突然それを脱ぎ捨てて、髪をアップにしだした途端、周囲の空気が変わるのを感じた。
ざわり、と嫌な風に。
「ね、奏……」
幼馴染でもあるサラサは派手な容姿のせいで、小さな頃から変な大人によくつけまわされてたから、そういう空気には敏感だ(よく巻き込まれるせいで僕まで敏感になったけど)。
細く白いうなじが晒される。
露出の多いビキニタイプの水着と合わさって、そこには妙な色気?みたいなのが生まれてた。
アレはダメだ。
サラサに声をかけられた瞬間、考える間も無く動いてた。
大きく伸びをして無防備に晒される華奢な体に、僕の心がドクリと、変なふうに跳ねた。
12歳って、大人が考えてる程子供じゃない。
そういう衝動だってちゃんとある。
目の端に動き出そうと身じろぎした大人達の姿を捉えながらも、正面に立って、出来るだけなんでもないように装い声をかける。
少し驚いたようにこっちを見る黒目がちな大きな目の中に、ほんの少しの警戒心もないのを見とって、内心で肩を落とした。
親はどうしてるんだよ。
ちゃんと危機管理教えとかないと、こんな可愛い子、あっという間に汚い大人の餌食だ。
仲間の方に意識を向けさせれば、ここぞとばかりにサラサ達が手を振ってくれる。
ナイスだ。仲間に女の子がいるのといないのじゃ、ハードルがかなり違う。
かくして、僕たちはどうにか無邪気な子羊の確保に成功したんだ。
合流して、コッソリとサラサとハイタッチをする。
そうして一緒に遊んでみれば、葵ちゃんは可愛いだけじゃなくて少し不思議な女の子だった。
周囲の視線に無頓着で、自分が視線を集めるくらい綺麗なんだって事をよく分かってない。
ふざけて抱きつく男子メンバーにも、女の子同士と変わらない対応で、無邪気に受け止めて笑っていた。(そいつは後でこっそり殴っておいた。10歳じゃ無邪気を装ってもギルディだ)
まるで、もっと小さな女の子みたいに性差の区別がない。
かと思えば、おふざけが過ぎて危ないラインに踏み込もうとする子の事をちゃんと見てて、さり気なく止めたりしていた。
大人なのか子供なのか。
「なんか、不思議な子だね」
はしゃぎながらも観察してたらしいサラサがコソリと囁いた。激しく同意、だ。
「でも、良い子だね?」
ニッコリ笑ってそういうと、サラサは葵ちゃんと菜々緒の方に走っていった。
派手な容姿のせいで勘違いされて女の子の友達が出来にくいサラサは、嫌な目に合う事も多くて実は警戒心が強い。
なのに、楽しそうに笑うサラサは、サッカークラブの仲間といる時の素の表情のままだ。
同じ歳だけど、苦労してるのを知ってるからちょっと保護者気分の僕としては一安心。
どこから来たのかは分かんないけど、このまま仲良くなってくれないかな?
後、出来る事なら保護者に一言物申したい。
大切に箱入りに育てなら目を離すな!
そうでないなら、きちんと教育しないと危ないぞ、と。
まさか、自分とそう歳の変わらない相手に言う羽目になるとは思わなかったけど。
「脱がずに大人しくしとけって言ったのに」
黒髪の方が深々とため息をつくと、僕の頭を少し乱暴に撫でた。
「ごめんな。ありがとう。色々あってイマイチ警戒心が身につかなくってさ」
少し困ったような顔に、いつもの苦労が透けて見えてちょっと同情した。けど、子供扱いは不本意なんで、一歩後ろに下がって頭を撫でる手から逃げておく。
「わかれば良いけど、さ。今の世の中危ないんだから、気をつけた方がいいよ」
「……そうだね。友達顔して危ないのもいたりするし?」
ポソリと落ちて来た言葉にムッとする。
最初に駆けつけて来たやつだ。
最初から敵対心バリバリ。そして、葵ちゃんを我が物顔する、やたら顔の綺麗な「お兄ちゃんの友達」。
なんか気にくわないんだけど。
「大人気ないぞ、琉唯」
「お兄ちゃん」に小突かれても、無表情を崩そうともしないで、こっちをじっと見てくる。
「そうですね。「兄の友人」な立場を利用して馴れ馴れしい人間もいますし?」
ニッコリ笑顔付きの対外向けの丁寧語で答えてやる。
決めた。こいつは敵だ。
バチバチと見えない火花が散る。
「お前ら、なぁ……」
お兄さんがため息ついた時、賑やかに女子組が近づいて来た。
「奏〜〜、集合時間だし、いこ!お兄さん達も、また後で〜〜」
「ちょっ、サラサ!」
グイッと腕を引かれて体勢を崩すけど、物ともせずに引っ張られる。
「葵ちゃんも、またね〜〜」
「うん!ご飯食べたら連絡するね〜〜」
菜々緒と葵ちゃんが抱き合って別れを惜しんでる。
『連絡』?『後で』?
「ラインゲットしてるから。体勢立て直そう。作戦会議は必須っしょ?」
耳元でコソリと囁いて、サラサがニヤリと笑った。
笑顔がかなり悪どいことになってるぞ?
「ナイス、サラサ。さすがウチの司令塔」
まぁ、返した僕の笑顔も似たようなものだったとは思うけど、ね。
引きずられながらも葵ちゃんの方を振り返り、大きく手を振った。
「葵ちゃん!また後で遊ぼうね〜〜!!」
「うん。ありがとう〜〜」
うん。
約束大事。
葵ちゃんの背後であいつが盛大に顔をしかめてるけど。
し〜らね!
読んでくださり、ありがとうございました。
戻ってきたらパーカー脱ぎ捨てて居なくなってるし。
子供とはいえ知らない少年に抱きしめられてるし。
そりゃぁ、外面完璧な琉唯君でも焦るでしょう。
って事で、大人気ないけど生温かく見てあげてください。
サラサちゃんはハーフの大人っぽい女の子。
中身は姐御でクラブの子には慕われてます。




