夏といえば旅行でしょ②
「………暇だ」
カラフルなパラソルの下に置かれた白いビーチチェアの上で、私はズルズルと体を伸ばした。
視界の先には楽しそうにはしゃぐ、沢山の人達。
なのに、なんで私はこんな所でぼっちを極めているのか。
「………むぅ。ちびっこ体が憎い」
答えは簡単。
悠理達が行きたがっていたウォータースライダーの身長制限に、見事私が引っかかってしまったのである。
最初は交代で行くという2人の背中を押したのは私だ。
だって、あんなモノは仲間とワイワイ楽しんでなんぼなんである。
1人で淡々とやって、何が楽しいというのか。
だからと言って、安達君まで引っ張っていかれたのは予定外だった。
まぁ、息子の懸念も分からんではない。
水着姿でリビングに登場した私に、ヤツは盛大に赤面して固まったのだ。
そうして、凝視した後ポツリと何かつぶやいていた。
幸か不幸か遠すぎてわたしまでは聞こえなかったのだが、隣にいた悠理にはバッチリだったようで、反射的に安達君を蹴り飛ばし、次の瞬間には来ていたパーカーを私に頭から被せていた。
何を言ったんだ、安達君。
そして、君は真性だったんだね、安達君。
あの反応を見た後だと、私でも、少女とやつを2人きりにしようとは思わない。
けど、中身は私なんだけどなぁ。
「少女のへそ出しに萌えるやつが本当に居るとは………」
ため息と共に、私はサイドテーブルに置かれたノンアルコールカクテルに手を伸ばす。
南国を意識した花や果物が飾られたグラスは華やかだ。
かくして、私はわざわざ有料コーナーのパラソルの下で1人お留守番なのである。
まぁ、1人でプールではしゃぐのも虚しいし、そもそも部屋でゴロゴロしてようと企んでたくらいなんだか、良いといえば良いんだけど……。
「に、しても暑い」
彼シャツ状態のパーカーは、薄手とはいえうっとおしい事この上ない。
自分用の羽織物も当然あったのに「そんなヒラヒラのスケスケに防御力なんかあるか!」という悠理の昭和のお父さんのような主張の元、チェンジ却下されたのだ。
ヘルプ視線を残りの2人に向けたけど、安達君は蹴り倒された姿勢のままブツブツと何かつぶやいてどこかにトリップしてたし、琉唯君は、頑固モードに突入した悠理の面倒くささを熟知しているため、そっと首を横に振られてしまった。
役立たず共め!
「………よく考えたら、悠理いないんだし、律儀に着てなくても良いじゃん」
安達君がそうゴロゴロしてるとも思えないし、そもそもそこら中、水着の女の子だらけだ。
片隅の少女にわざわざはぁはぁする奴もいないだろう。
いそいそとパーカーを脱いで、空いている椅子へとポイっと投げる。
うーん、快適。
ついでに髪もうっとおしいから上げてしまおうと適当にポニーテールにすれば、首筋がスッとする。
ウンウン。良きかな良きかな。
ノンアルカクテルもさっきより美味しく感じるというものだ。
ご機嫌ついでに大きく仰け反って伸びをすると、不意に目の前に人影が立った。
あれ?もう帰ってきたの?随分早い……。
「ねぇ、1人なの?」
声をかけられ、上に向けた顔を戻せば、見知らぬ男の子が1人。
日に焼けた小麦色の肌に利発そうな瞳。まだ子供の柔らからを残してそうな髪は少し長めで、水で首筋に張り付いている。
綺麗な顔立ちは少し昔の琉唯君に似ていた。
けど、誰?
「僕たち、あっちで遊んでるんだけど、一緒に遊ばない?」
不思議そうな顔をしてたんだろう。
少年は、あっち、とすぐ近くにある浅いプールの方を指差した。
と、コッチを見ているグループが、指さされたのに気づいたようで手を振ってきた。男女混合の少年と同じ歳くらいの子達だ。
深くても腰くらいまでの高さしかないプールには沢山のカラフルなビニールボールが浮かんでいる。いわゆるインスタ映えを狙ったんだろう。
そこで、楽しそうに笑ってる子達がいたのにはさっきから気づいてたけど、どうやら向こうもぼっち極めてる私に気づいていたらしい。
そして同情された、と。
「………でも」
おばちゃん、子供の波に飲まれるのはちょっと恥ずかしいなぁ。と、いう戸惑いは、少年には別の方向に変換されて伝わったようだ。
「アソコなら、ここの様子も見えるし、大丈夫でしょ?」
こてん、と首を傾げられてそこまでの気遣いを見せられらると、どうにも断りづらい。
まぁ、確かに。
ボッチも飽きたし、どうせ見た目は子供だし。
「ん。まぜて!」
「いいよ。行こう!」
立ち上がった私の手を、少年が嬉しそうに引っ張ってくれた。
どこかで保護者が見てるんだろうけど、子供だけなのも心配だし、いっちょおばちゃんが一働きしましょうかね。
な〜〜んて、思ってた時もありました。
子供の体力、舐めてた。
しんどい!
新参者を気持ちよく受け入れてくれたのは、サッカークラブのお友達グループだった。
まぁ、そこ時点で、基礎体力が違う事に、気付くべきだったんだよ、私。
そして再開されたのは鬼ごっこ。
考えてほしい。
膝から腰丈とはいえ水の中。そして浮かぶ大小のビニールボール。
普通に走るより、体力使うんだよ!
さらに捕まえようと走ってくる相手が勢い余ってぶつかってくれば、水中にバチャーン!
いや、すっごい楽しいんだけどね?!
大人になっちゃうと、こんな全力で遊ぶことなんてないし。
子供できちゃうとなおさら、プールなんて来ても監視役でしかないから。
思わず童心に返って、全力ではしゃぎましたともさ!
「葵ちゃん、コッチ」
が、悲しいかな。
平素ボールを追いかけてるスポーツ少年少女の体力に敵うわけもなく、バテてきてた私を、最初に誘いに来てくれた少年がそっと手を引いて隅へと誘導してくれた。
プールの縁にもたれるようにして一息。はふぅ〜〜。
彼の名前は、奏君。12歳。
少年サッカークラブのリーダー的存在で、気遣いの出来る将来有望なイケメンでした。
「ちょっと休憩、しよう?」
ニッコリ笑顔も爽やかだ。
「うん、ありがとう」
とりあえず、お礼を言っておこう。笑顔付きで。
スマイル0円。好意には好意を、が信条です。
しかし、はしゃぎすぎて髪がグシャグシャだ。
最初が適当だったし、しょうがないかな……。
前に落ちてきた髪を気にしてたら、横から伸びてきた手がスルリとシュシュを外してしまった。
「やってあげる。僕、よくやるから上手だよ?」
パサリと落ちて水に広がる髪をまとめていく手つきは
確かに慣れた感じだった。
けど、丁寧すぎて少しくすぐったい。
首筋に触れる細い指先に首をすくめ、クックっと笑ってしまう。
「動くとやりづらいよ」
少し困ったような声と共に、グイッと腰のあたりを引き寄せられた。半身を水に浸かってたから浮力で軽くなってたせいで、予想より勢いがついてしまったのか
そのまま、奏くんの体にぶつかっていく。
少しバランスは崩したものの、私の体を抱きとめてくれた奏くんは、ビックリしたようにギュッと抱きしめてきた。
「はりゃ?ゴメンね?大丈夫?」
振り返れば、目をまん丸くした奏くんの顔が至近距離にあった。
まだ子供の滑らかさを残した頬に耳が当たり、少しのけぞるようにして見上げれば、奏くんの頬がほんのりと紅く染まった。
こくん、とまだ滑らかなノドが動くのをなんだか不思議な気持ちで見る。そっかぁ、このくらいの年だと、まだ声変わりしてないんだっけ?
「あの……「はい、そこまで」
奏くんが何かいいかけた瞬間、突然私の体がプールサイドから引き上げられた。
正面から抱きとめられ、顔が胸に押し当てられる。
突然の事にビックリしたけど、その声も抱きしめられる感触もよく知ったものだったから、私はすぐに力を抜いた。
昔に比べるとずいぶん低くなった、でも滑らかな声。
けど、なんだか不機嫌そう?
そして、抱きしめる腕が強くて、少し苦しい。
「遊んでくれてたみたいで、どうも。でも、もう返してもらうね?」
読んでくださり、ありがとうございました。
新キャラ登場。
爽やかサッカー少年、奏くん。苗字はまだない(笑
真性ショタキャラ登場。……12歳はショタで良いのでしょうか?
ちなみに安達君が呟いてたのは「………尊い」でした。
「イエスロリータノータッチ!」
あ、安達君は人目のあるところではちゃんとしてます。見知らぬ幼女にハアハアもしませんので、ご安心ください。嫁は2次元!




