お話し合いをしました。
遅くなりました(-.-;)
手を引かれてやって来たのは、高級エステでした。
何故に?
「元々の素材は良いと思ってたのよ〜。なのに、手入れしないしさせてくれないから。せっかく若返って肌状態もリセットされたんだし、この肌質は保っていきましょうね」
まぁ、子供だしね。
毛穴どこ?シミって何?乾燥?それって美味しいの?
な、ツルツルプルプルの真っ白お肌だよね。
紫外線のダメージで、蓄積されるものなんだなぁ、って、私も思ったもん。
だからって、全身丸っと剥かれた挙句、なんか揉まれて刷り込まれて、整えられてる意味が分かんない。
擽ったいし痛いし恥ずかしいし。
助けて、ドラ○もーん!
という叫びは心の中だけだった為、誰にも届くわけもなく。だって、ゴネた時の報復コワイし。
最後に白いノースリーブAラインのシンプルなワンピースをつけられて、桜色のグロスを塗られて、全てが終わった頃には精魂尽き果ててましたが、なにか?
「で、なにが始まるのでしょうか?」
クタリとローテーブルの上に突っ伏しながら、どうにか目線だけあげて正面で優雅にカップを傾けている京花さんを見つめてみる。
「あら、良い質問ね?私のことをよくわかってくれてて嬉しいわ」
ニッコリと紅に染められた唇が弧を描く。
うん。麗しい。そして、悪魔チック。
そして、私自身はなにも望んでないのに、魂をかられかけてるこの理不尽さ。どうしてこうなった?
「今ね〜、橘コーポレーションの新しいイメージCMを作ろうとしてるんだけど、なかなかイメージに合う人が居なくってね〜〜」
魂吐き出しかけの私に構わず、京花さんはサッサと話を進める。
気遣いとかないんか〜い!
あれ?なんで仲いいんだったっけ、私?
「しょうがないからウチの末っ子に協力願ったんだけど、つれなくって」
「琉唯君、見た目が良いから、学校でも周りから騒がれて大変そうですもんね〜〜」
整った目鼻立ちに手足が長くスラリとした抜群のスタイル。丁寧な言葉遣いに柔らかな表情。生来の色素の薄さも相まって正しくリアル王子様、な、感じなんだよね。
よってくる子達にも丁寧な対応してるみたいだしね(←情報源息子。「自分にはできない」と呆れてた。息子はぶった切ってる模様……)
CMなんて出たら、ファンが全国区に広がって、さらに大変なことになりそう。
あと一年とはいえ、中学も普通の公立だし、パニックになったら対応もできなさそう……。
「う〜〜ん、考えれば考えるほど、今の生活が破綻しそう。少なくとも転校は必須でしょうね」
まぁ、そもそも琉唯君が未だに公立の学校通ってるのが不思議な状況ではあるんだけど。
「まぁ、そこはどうとでもなるんだけど、本人のやる気が著しく低くって。半ば、あきらめてたんだけどね〜」
「はぁ」
それと、私の現状とどう関係が。
「そこに、葵ちゃん登場でしょ!もう、これしかない!って」
「はぁ?!」
パチンと手を叩いて、嬉しそうに宣言されたけど、意味わかんないんですが!?
「どこの手垢も付いてない素人で〜〜、正体不明の美少女、とか。求めてたミステリアスさもピッタリ!」
「イヤイヤイヤ、意味わかんないですから!」
大事なことなので、声を大にして言いますよ?
そりゃぁ、正体不明にもなるでしょうけどね!?
現在のこの体だけ見ると戸籍不明の人間になりますし!
でも、問題点そこじゃないよね?!
「だって、仕事は外に出ることもなく済ませれる職業だし、ご近所との付き合いも希薄だから、顔バレもほぼなさそうだし。そうなると、騒がれないから、日常に支障はないでしょ?」
ヒドイ!人を引きこもりみたいに!
確かに煮詰まったら余裕でひと月くらい外に出ないけど。
だって、日常の買い物はできた息子がしてくれるし、資料は頼んだら持ってきてもらえるし……。
アレ?コレって引きこもり?
「ハッ!!違う!誤魔化されるところだった!問題はそこじゃないでしょ?!なんで私がCMなんて出なきゃいけないの?!演技なんてできません!!」
「チッ」
今、舌打ちしたよ、この人〜〜。
確信犯だよ〜〜丸め込む気満々だったよ〜〜!?
「だって、子供バージョン葵ちゃん見たら私の中にイメージが降りてきたんだもの!リアル映像で見たい!絶対受ける自信ある!」
拳を握って力説されたけど、イヤです!無理です!
そもそもたくさんの人の前で演技なんて出来る気がしない。
小学校の学芸会以来、そんなものとは縁遠い世界だったし、そもそも学芸会も村人Bだったし!
と、口に出しても負けるので、私は口を引き結び、プイッと目をそらした。
「沈黙は金」作戦決行です。
しばし、場に沈黙が満ちる。
たまたまその場にいて巻き込まれてしまった不幸なエステ会社のスタッフさん達の顔色がジワジワと悪くなってるけど、何も見えないもんね!
そもそも高級エステも橘コーポレーションのモノだし、自社の社長の暴走なんだし、甘んじて受けてもらおう。
「………じゃぁ、真面目に行きましょう?葵さん?」
と、沈黙を破ったのは、京花さんの落ち着いた声だった。
あ、滅多に見れないビジネスモードだ、これ。
「私達は、貴女がこちらの望みに協力してもらえるなら、代償として、貴女の現状に対する解析と保護を提供しましょう」
隣に座って力説モードから、いつのまにか正面のソファーに座った京花さんのいかにも「出来る女」な、表情。
プライベートの暴走列車を知っていてもつい騙されてしまいそうになる程、そこには強い意志と包容力があった。
思わず、全てを委ねて甘えたくなる。けど。
スッと背筋を伸ばして、表情を改める。
見た目がお子ちゃまになったとしても、中身はアハフォーのいい大人だ。
そちらがその気ならば、こちらも、締めるべきところは締めるのだ。
「詳しいお話をお聞きします」
ニッコリと微笑みながらも目だけは真剣に。
長年身近に|良いお手本(京花さん)がいたのだから、ソレくらいの芸当は出来る。
京花さんの目がわずかに見張られた後、面白い、と言うように微かに微笑んだ。
読んでくださり、ありがとうございました。