冒険者と侍②
(飛ぶ斬撃……か)
先刻のカムラの動きから、リョウマはそれを察しエリザを庇った。
読めたのは自分も同じ事が出来るからだ。
即ち、「つむじ風」。
もちろん生身ではなく鎖帷子の部分で受けたわけだが、それでもまだ腕が痺れている。
奴との距離はおよそ四十尺程だろうか。それだけ離れてなお、この威力。
後ろにはエリザもいるし、飛ばし合いで不利なのは明白だった。
「リョウマ、せめて後ろは任せてください!」
それを悟ったエリザは、すぐに離れて、後方から来る死者共と戦い始める。
よほどこちらが気になるのかチラチラと視線を送っては来るが、物わかりがよくて助かるとリョウマはため息を吐く。
泣きながら駆け寄ってきたら、はっ倒してやろうかと思ったが、ちゃんとちびっこなりに「相棒」しているようだ。
これなら背中は、任せられる。
「なら……いくかい!」
一足にして距離を埋めるべく、リョウマは跳ぶ。
その一瞬、カムラの目が見開かれた。
身体を前傾にしながらも、滑るように右手を振り抜く。
それを追って剣閃が、リョウマを狙い放たれた。
(やはり、疾ぇ!)
文字通り、瞬く暇すらない一瞬。
リョウマはまるで走馬灯でも眺めるが如く、カムラの一連の動作を見ていた。
全神経を「視る」事に費やしての一瞬。
身体を動かす余裕などどこにもない。
だがそれは想定内。
リョウマは身体の正中線を守るように、凩を構えて跳んでいた。
ぎぃぃぃぃん!
と、鋭い金属音が響く。
カムラの刀はリョウマの凩にて、受け止められていた。
衝撃でリョウマの肌が浅く裂ける。
「ほう。我が愛刀、凪一文字を正面から受けて見せるとは、中々いい刀を使っている」
「だろォが……! 凩ってんだ。よく覚えときな」
「あぁ、しっかりと長生きして……なッ!」
力任せに振り切った刃がリョウマを弾き飛ばす。
が、リョウマは着地後即、カムラへと走る。
無論、前方に凩を構えて、である。
距離を取られれば不利なのは明白。
わざわざ離れて敵に有利をくれてやる必要はない。
「―――ちっ!」
カムラは振り切った刃を再度、鞘に収める。
そう、居合いには欠点がある。
あまりに鋭いその斬撃。
だがそれにはさやという助走台が必要なのだ。
斬撃を繰り出す度、鞘に収めなければ新たな斬撃は放てない。
「いただきだ!」
そのまま凩で斬りつけるリョウマ。
しかしカムラは動じる様子もなく再度、刀を走らせる。
またも、見えぬ斬撃なのだろうが関係ない。
既に斬撃の道筋は凩にて塞がれていた――――はずだった。
「――――ッ!?」
リョウマの背に走る、熱い痛み。
その衝撃に耐え切れず、繰り出した斬撃は勢いを失う。
膝をつかないのが精一杯。悪あがきで刀を振るうが、そんな一撃がカムラに届くはずもない。
鼻先で交わされ、どてっぱらを蹴りつけられる。
「がはっ!?」
階段を転がり落ちながらも、リョウマは現状を解すべく思考を巡らせる。
――――何が、起きた?
あり得ぬ角度からの一撃。鎖帷子を着こんでいたとはいえ、もろに受けてしまった。
背中からはうっすらと血がにじんでいるのを感じる。
よろけながらも立ち上がるリョウマを見て、カムラは呟く。
「先刻から効いていないと思えば、鎖帷子を着こんでいるか」
「ハッ……反則なんて言わねぇだろうな」
「言わぬさ。真剣な立ち合いともなればともかく、これは戦ぞ。どのような手を使おうと生き残った方が強い。それに如何に鎧を着込もうと……首を落とせば問題なかろう?」
「ちげぇねぇ」
本心からの言葉である。
全身は鎖帷子で覆ってはいるが、首元は防ぎようがない。
そこを狙われると、どうしようもなかった。
だが、ならば何故最初から狙わないのか?
単により長い時間痛めつけたい、と言う話だろうか?
いや、それならわざわざ言ったりしないだろう。
いつ来るか、いつ来るかという恐怖を与えながら戦うはずだ。
そもそもこのカムラ、そのようなタイプには見えなかった。なればただのハッタリ……いや――――
「次は、狙う」
チャリ、と鞘を傾けるカムラの目は、その言葉を真実だと語っていた。
だが、同時にリョウマは理解した。
先刻の消える斬撃、そのからくりを。
「……やってみな」
「来るがよい」
ゆるりとした動作で構えるカムラ。
リョウマは鞘を左手に、凩を右手に携えて近づいていく。
一歩、近づいたところで間合いに入ったリョウマへと放たれる、飛ぶ斬撃。
鞘にて急所を守るが、そこ以外は浅く切り裂かれる。
そして、今度はリョウマの間合いである。
鞘を投げつけ、跳んだ。
カムラは鞘を避けるとも切り落とす事もせず、そのまま微動だにせず、受けた。
見開かれたままだった眼球に、鞘の先端がずぶりと埋まる。
それでも、だ。
カムラは納刀をより疾く行う為、さらに深く前傾姿勢を取る。
確実にリョウマを仕留めるべく。
眼球が潰れる音が聞こえたが、意に介している暇などない。
――――納刀、そして、抜刀。
カムラの愛刀、凪一文字はリョウマよりほんの少し前を通り過ぎた。
空振りであろうか? 否、返す刃はまっすぐにリョウマの首を狙っていた。
一撃目を敢えて外すことで相手の目を欺き、背後から本命の刃が、討つ。
これぞカムラの秘剣、燕返し。
返す鞭の如く、音速を超えた刃がリョウマへと迫る。
がぎぃぃぃぃん!
しかし刃はリョウマの首、そのすぐ上で止まった。
構えていた凩が受け止めたのだ。
「……来る場所が分かってりゃ、馬鹿でも防げらァな」
「ふ……む……!」
「だァァァァァりゃァァァァァ!!」
ぎゃりぎゃりと火花を飛ばし、凪一文字の刃腹を凩が走る。
勢いのまま力任せに一閃、振り下ろされた刃はカムラの肩から胴を抜けた。
白装束ははだけ、鮮血が舞い上がる。
どさりと、カムラは崩れ落ちた。




