仄暗い夢現(ユメウツツ)
二作目の短編です。
夏に合わせてみましたが、実話です。
宜しくお願い致します。
あれは確か蝉の声が煩い初夏、実家での出来事だった。
当時私は大学生、一年目にして授業に嫌気を差して、大学で知り合った友人と青春だけを謳歌していた頃。
毎日大学には通うが、それは只の友人との待ち合わせの為だ。つまらない授業には出ずに、大学のロビーにある柔らかなソファーに身を沈め、友人が来るのを待つ。
友人と合流するとそのまま大学をフケて遊びへと繰り出す。
遊ばない日には地元の市場にある精肉店でバイトをして過ごしていた。
これまでの人生で一番濃密な時間だったと思う。
中でも主に深夜に行う、400ccのバイクでのツーリングや峠での走り、そのバイク仲間達とのおしゃべりは何か、明るい昼間の自分とはまた違った、アウトローな雰囲気にも酔っていたかもしれない。
そんな仲間達と夏の深夜に集まれば、自然と話題は怖い話、というやつに辿り着く。
地元には有名な怪奇スポットも多いのだ。
夜な夜な池へと引きずり込む女性。
ミラーから決して消えることの無い首なし。
数多の怨念が掴み掛かってくるトンネル。
有名な武将の首塚。
どこの場所にもあるだろうスポットの話題が挙がる度、夜な夜なそこへ行っては記念撮影し、何か写ってないかとまた話の種にしていた。
10代とはかくも怪談好きで、男はかくも度胸試しが好きな生き物だろう。
結局、思い返せば不思議な現象も、勿論怪談話に出るようなキャラクターに出会ったことも感じた事も無いのだが。
そんな平凡な日常にあって、一度だけ死を感じた事がある。
人が生きていく上で死を感じるのはどんな時だろうか?
事故、病気、くらいではないか。
私はこれまでに両方を体験しているが、死を感じることはなかった。
事故に至っては、バイクで所謂、走り屋という行為をしていたこともあり、多様な事故を目撃、体験したが、半年入院するような事故にあってもそれは感じなかった。
細かい日にちは覚えていない。
盆地特有の蒸し暑い、やたらと蝉の声が煩い初夏の日だった。
大学を辞めようと心に決めており、もうテストを受ける事もなく、市場も休みだった。
友人は勿論俺とは違い、大学でテストの真っ最中だ。
バイク仲間にも昼は昼の顔がそれぞれにあった。
午前中には何か他愛もない用事事を済ませて、昼過ぎには実家の自分の部屋で寛いでいた。
冷房をかけ、少し冷えた部屋の中で毛布を羽織りうたた寝をしてしまっていた。
それは突然だった。
何気無しに目を覚ますと俺は横向きに寝ていた。
ぼぉっとした思考の中で、視界に写るのは小学生低学年くらいの当時でも珍しいおかっぱの女の子だった。
その子がこちらに背を向けて俺と並んで同じ毛布の中に入って寝ているようだった。
俺には一人兄がいる。
それだけだ。目の前に横になっているような女の子は知らない。
親戚にも近所にもこんなおかっぱの子はいない。
誰だろう?
寝起きの頭で考えるが、当然知らない。
一先ずは起きようと考え、身を起こすが、ここでようやく異変に気付いた。
身体が1mmも動かないのだ。
どう頑張っても動かない、全く力も入らない様な感じで全身が麻痺した様な感覚、金縛りというやつだ。
声を挙げることすら出来ず焦りだけが募っていく中で、当然、目の前のいるおかっぱの女の子が只の人間とも思えなくなっていたその時、突然、本当に突然に不自然な動きで、背中を向けていた女の子がこちらに身体を回した。
まるで丸太が回るように、手を使ったり、身体を捻ったりするでもなく、クルッと回った。
突然の動きに驚いたが、身体は動かず声もでない。
唯一目には光景だけが、イヤにハッキリと写り込んでくる。
女の子の顔は日本人形の様に整っていて、鼻と口は小さく可愛らしく、閉じた目も恐らくはパッチリと円らな可愛い目をしてるのだろう事が伝わってきたが、それよりも印象的だったのは、赤みの全くない、血の気の引いた青白い肌の色だった。
見た目の可愛らしさを覆い隠すように漂う、死んだ人間の放つ冷たい気配。
駄目だ、これは駄目なやつだ
その時恐怖と共にそう思ったのを今でもハッキリと覚えている。
そう思ったその時、女の子は閉じていた瞼を、少しづつ開き始めた。
ゆっくりゆっくりと開いていくのだ。
その時に思った、いや、感じた。
開けるな、と。
なぜそう感じたかは分からない。ただあのゆっくりと開いていく目を見ているとそう感じざるを得なかった。
ゆっくりと開いていく。
ゆっくりと。
半分も開いただろうか?
瞼の奥には瞳は見えない。ただ青白い肌よりも鮮明に白い目があるだけだ。
更に開いていく。
ゆっくりとゆっくりと。
4分の3も開いただろうか?
ハッキリと白目が見えるが、それでもその白い目でこっちを見ているのがわかった。
止めろ。開けるな。開けないでくれ。
俺は心の中でずっとそう念じていたが、女の子の瞼が止まることはなく、最後には一気に見開いて、今度は閉じることも出来ない俺の目を更に間近に除き混もうと、コマ送りのように近づいて来るのだ。
この時に初めて、あぁ死んだな、これ。
人生が終わるのを感じ、瞼を閉じることが出来た。
次の瞬間に目を開けると、目の前に女の子はおらず、冷房が効いている部屋の布団の中で、全身から汗を吹き出していた。
恐らくは夢だっただろう事に心から安堵した。
恐らくと考えたのは、
目を覚ました時にはおかっぱの女の子はいなかったが、
俺の隣には毛布に子供くらいのスペースの膨らみが出来ていた……。
蝉の声を聞くと今でもハッキリと思い出す。
なぜあんなに暑い中、我が家の愛犬は俺の毛布に潜り込んでいたのかと(笑)
楽しみ、凉しんで頂けたでしょうか?
学生の頃の話ですが鮮明に覚えてます。
友人に話してみてわりかし好評だったので短編にしてみました。
こんな話ですが凉しんで頂ければ最上です。




