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御名物召置かるるの事其拾参

 春日山城の主である上杉謙信に対面した星一族の鏡子は、噂に聞いていた巨躯とは程遠い小柄な謙信を見て拍子抜けしていました。


(やはりあれはあくまで噂。あるいは謙信自身が流させたものか)


「忍びが何用だ?」


 小男の謙信がぶっきら棒に尋ねました。


「小男言うな!」


 一番気にしている身長の話題を臆する事なく言い放つ地の文に切れる謙信です。


「織田が越前だけでは飽き足らず、能登も狙っております」


 鏡子は額突いて告げました。


「其方はこの謙信に何をさせたいのだ?」


 謙信が目を細めて鏡子を睨みつけると、彼女はビクッとしました。


「何も知らぬと思っておるな? 其方らの仲間が、北条にも遣わされていると聞いておるぞ」


 謙信の思ってもみない言葉に、鏡子は顔を引きつらせました。


「関東を北条に獲らせたいのか?」


 謙信はいきなり立ち上がり、鏡子に詰め寄りました。


「滅相もありませぬ。北条様にも織田を攻めて欲しいのです」


 鏡子は咄嗟に嘘を吐きました。

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