木洩れ日のある景色
静かな山道。左右に広がる木々のカーテンが、真夏の日差しを遮る。緑が、足元を掬おうと、こちらに手を伸ばす。
少し開けた場所に出ると、大きな木が道の中央にどっかりと腰をおろしていた。差し込む光が、葉と葉の間からこぼれ、地面に小さな欠片を落とす。絵本の中に出てくるような、空想の世界のような風景だった。物語の中なら、大きな本を抱えた子どもが、木の幹で座っているんだろう。
絵本の中の子どもの代わりに、根元にしゃがみこむ。木陰の温度が気持ちよくて、意識を空の上に投げかけた。入道雲は、眩しい水色を隠していた。
膝の上にかすかな重みを感じて目を開く。茶色い縞模様の子猫が、まるまって眠っていた。撫でてやると、ごろごろと喉を鳴らす。目を覚ました猫がこちらを向く。抱き上げようとした俺の腕をすり抜けて、光にとけてしまった。ぐっと腕を伸ばし、立ちあがる。耳元で、蝉が鳴いた。