覚醒する能力
秋庭に連れられ駄菓子屋へと同行した。最近は、コンビニなどが多く駄菓子屋はあまり見かけなくなったのが現状だ。古びた家屋が建ち並ぶ道を通り、整備されていない歩道や錆びた歩道橋を渡りさらに進んだ田んぼ道の先にポツンと遥か遠くに建物らしき物が見えてきた。近づくと建物は古き良き時代を感じさせる、これぞ駄菓子屋と呼ぶべきであろう店構えだった。
秋庭「ここでござるよ。」
旬「だろうね。それより話し方キモいよ。」
秋庭「拙者に口答えするなでござる。今からお師匠様を、御紹介するでござるから心しておれ。」
みんな「…。」
秋庭「お師匠様!秋庭でござります。」
秋庭が話しかけた、お師匠様と言う人物を見て唖然とした。ガチャガチャの前にあぐらをかき、駄菓子を食べている小さな少年であった。多分、小学校低学年くらいであろうその少年からはなんとも言えない雰囲気をかもしだしてはいた。
杏奈さん「お師匠様ってガキじゃん。坊や、お名前は?」
秋庭「なんと!その口の聞き方は失礼でござるよ。お師匠様のお名前は斗真様でござる。」
斗真「秋庭、うるせぇ。それと女!人に名前聞く時は自分の名前言ってから聞くのが常識
だろ。そんな事も分かんねぇなんて底が知れてるな。」
杏奈さん「何こいつ!まじでムカつくんだけど!」
孝之「杏奈さん落ち着いて。斗真君、僕は孝之でこっちにいるのが旬。んで、怒ってたのが杏奈さん。」
斗真「で?なんかよう?」
こちらを一切見ずガチャガチャを見たまま話している。ケースの反射越しに見ているのだろうか、実に横柄な態度であった。
秋庭「実はここにいる者達は皆、能力者なのでござるよ。しかし、能力の使い方をまだ理解出来ていないのが現状でござる。そこでお師匠様の御力を借りに来た次第なのでござるよ。」
斗真「なるほどね。興味深い話しだな。なら一人づつ能力が現状どこまで可能かきかせろよ。」
旬「おぉ。俺は、サイコキネシス。集中すれば物体の移動・破壊が可能かな。動かせるのは自分の体重程度が限界。」
孝之「俺は、テレパシー。自然体でいると人の考えが分かるし、こっちから直接話しかける事も可能だよ。でも、自分の耳で聞こえる距離じゃないと聞こえないかな。」
杏奈さん「私はマインドコントロール。相手の目を見ながら話せば思いのまま操れる。けど、直接目を見ないと無理だし、効かない人も中にはいるかな。」
斗真「へぇ。馬鹿なりに分析は出来てるね。だけど、能力の本質が分かってないな。」
旬「本質?どういう事か説明してくれよ。」
斗真「まぁ秋庭の紹介だから教えてやるよ。お前らなんで能力が身に付いたと思う?たまたまか?違う。必然だ。人には多くの欲がある俺が食べているのも欲が原因だ。」
旬「あぁ。食欲ね。」
斗真「そぉ。人は欲によって生かされ、そして欲によって死ぬ。人間は欲の塊だ。大抵の人間は欲を抑制出来る。出来ない人間がいわゆる犯罪者になる。自分の欲に負けたクズって事だ。能力も欲により構成されていると言っても良い。簡単に言えばお前らに足りないのは欲だ。」
圧倒された。こんな小さな少年にどこからこんな考えが生まれるのか不思議で仕方ない。反論したいが全てが正論であり話しに無駄も無い。どこかの大学の教授の講義を受けている様な錯覚に陥る程だ。
孝之「ならどうやれば良いんだよ。」
斗真「簡単だ。能力を使わず生活してみろ。それと、欲求を満たすな。旬は毎日能力は使わず手当たり次第喧嘩しろ。孝之は音楽プレーヤーを爆音で聞いて一切聞かず話さず過ごせ。杏奈は欲しい物があっても何も買うな。
一カ月今言った生活を続けてまたここに集まれ。鍛えるのはそれからだ。」
みんな「…はい。」
それから一カ月、各自は与えられた課題をこなした。旬は毎日の慣れない喧嘩でボロボロになり、孝之は人間不信に陥り始め、杏奈さんは毎日苛立ちと闘っていた。
一か月後、秋庭が各自の家に無断でテレポートしてきてあの駄菓子屋へと呼ばれた。
斗真「よく来たな。どうだ調子は?」
旬「見ての通りだよ。」
斗真「お?表情が前と違って凄みが増したなぁ。良い兆候だぞ。各自、言いたい事はあるだろうが聞く気は無い。自分で処理しろ。なぜ課題を与えたか分かるか?」
杏奈さん「知るかよ!それより早く鍛えろ。」
斗真「旬。喧嘩で負けてどんな気分だ?孝之は人と会話出来ない苦しみはどうだ?杏奈、自分の思い通りにならない生活への苛立ちはどうだった?全てお前達の根本にある欲を断ってもらった。能力は欲と深い繋がりがあるからだ。まずは、旬からだな。ここにいる全員を浮かせてみろ。」
旬「は?無理だよ。自分の体重程度が限界なのは俺が一番良く知ってるし。」
斗真「お前の力には人への執着が足りない。怒り・憎しみ・怨み・殺意。全て爆発させるイメージで能力を使え。」
旬「…。」
周囲の砂利がコロコロと動き出す。駄菓子屋がギシギシと音を立て始めた。次の瞬間、旬以外の全員が空高くへと飛ばされた。
斗真「おい!やり過ぎだ!そのまま支えて降ろせ!」
旬「ははははは!すげぇ!」
地面に手をかざす旬。空気を掴むかのように拳を握る。地面がえぐり取られ半径一メートル程の穴が開いた。一キロ程先にある廃屋であろう建物に手をかざし、跡形もなく吹き飛ばした。
旬「凄い!病みつきになりそうだ。」
斗真「能力の解放が始まれば、今まで出来なかった事が出来る。イメージ次第で変化し成長する。俺が与えたのはきっかけに過ぎない程度だ。次は孝之だな。」
一カ月振りに孝之とは対面した。孝之は学校へ来ず、部屋に引きこもっていたからだ。秋庭の話しだと部屋の片隅で丸くなりヘッドホンを付けていたらしい。音を聞くと音楽では無く、ただの雑音が鳴り響いていたと言う。要するに孝之はこの一カ月もの間、誰とも会話する事なく、声を聞く事すらしなかったのだ。何がそこまでさせたのか分からないが孝之なりの考えなのだろう。孝之の表情は虚ろで、メトロノームの様に頭を揺らしている。あのふざけた孝之の面影は全く無かった。
斗真「ここまで自分を追い込むとはな。しばらく孝之と二人だけで話しさせてもらうぞ。」
斗真は孝之の側に寄り添い諭す様にずっと語りかけていた。はたから見れば異様な光景だったが、斗真ならどうにか出来るとなぜか分かった。二、三時間した所で孝之の揺れがピタリと止まった。っと同時に泣き出し杏奈さん目掛けて走り寄った。
孝之「杏奈さん…。杏奈さん。」
杏奈さんは状況を読んだのか、孝之を強く抱きしめた。孝之は人目を気にせず号泣した。
誰かと話したかったのだろう。人の温かみを感じたかったのだろう。そう思った。
杏奈さん「大丈夫。もう大丈夫だからね。」
孝之「ありがとう…みんなに会いたかったよぉ。俺、もうどうしたら良いのか分からなくなって引き返せなくなって、でも諦めたくなくて…」
旬「分かった。大丈夫だから。みんないるから心配するな。孝之は一人じゃない。」
孝之「旬…。」
しばらくすると孝之は落ち着き以前の孝之に戻りつつあった。表情も柔らかくなり安心した。
斗真「孝之。良く耐えたな。早速で悪いんだが、能力の確認をさせて欲しい。まずみんなの心、頭の中の声は認識出来るか?」
孝之「うん。手に取るように鮮明に聞こえるよ。」
斗真「じゃあ、みんなにも聞こえる様にイメージしてみて欲しい。電話をスピーカーに切り替える様にさ。」
孝之「…。これでどう?」
その場にいる全員の声が聞こえた。誰も口は動いてないが確かに聞こえた。
斗真「良いね。次は難しいがこの写真見てくれるか?秋庭の友達なんだが、地図上でいうと、岡崎市のこの辺りだ。」
孝之「やってみるよ。…。」
友達『スーパーエンジェルかわゆすぅ。にゃんにゃん光線発射。』
孝之「あぁ…。痛い人だな。聞こえたよ。でも、凄いね!聞きたいって思ったら、聞こえてきたよ。」
斗真「半信半疑だったけど、出来て正直驚きだよ。じゃあ最後は杏奈だな。秋庭、これかけろ。」
秋庭がサングラスをかけ杏奈さんに近寄る。
杏奈さん「近いって。じゃあ試すよ。秋庭、歩きなさい!」
秋庭「嫌なり。」
杏奈さん「え?歩きなさいって!」
秋庭「嫌なりよ。」
杏奈さん「斗真!どういう事よ。全然効かないじゃん。」
斗真「そうだよ。二人を見てみろよ。自分だけ楽過ぎるだろ。俺をなめたお仕置きだよ。」
杏奈さん「だって新作のバックも靴も我慢したのよ。限定品だってあったのに…。でも、二人をみたら確かに…。」
斗真「杏奈の能力は充分強力だ。相手の目が見えないなら、見える様に誘導すれば良い。無理矢理外したって能力を使えばこっちのもんだろ?能力の効かない人間は自我が強い人間だな。そこは断念するしかない。諦めろ。」
杏奈さん「…分かったわよ。」
旬「でも、たった一カ月でここまで成長出来るなんて夢のようだよ。さすが師匠だな。斗真も能力者なんだろ?こんな凄い知識持ってるなんて、有り得ないしさ。」
斗真「お前達になら話しても良いか…俺の能力は超頭脳。見た物は全て記憶し、全ての理が理解出来る。現状、世の中の事なら全て読み漁ったから分からない事はあまり無いな。
この能力の発端は両親の死だ。」
旬「え?じゃあどうやって暮らしてるんだよ?」
斗真「この駄菓子屋、ばあちゃんの店なんだよ。幼稚園の頃、両親は殺されてばあちゃんが面倒見てくれてるんだよ。あの時の光景は今でも忘れない。」
旬「差支えなかったら話してくれよ。」
斗真「今のお前達なら利用できそうだから話すよ。」
影山 斗真 年齢 9歳 性格 なまいき
能力 超頭脳