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ユメの神  作者: 栗山秋
就職活動、または、就活
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 携帯に表示される送信中の文字をぼーっと見ていると、突然受話器の模様が表示される。誰かからの着信が来たのである。誰からの着信なのか、名前は表示されていない。どこかで見た番号だと由衣は考えた。


「あ、さっきの求人……? 履歴見てかけ直してきたのかな」


 電話が苦手な由衣は心構えが出来ていないと焦りながらも、出なければいけないと思い、通話ボタンを押す。携帯を耳に当てると、少し間を置いて声が聞こえた。


「もしもし、××大学の渡辺由衣さんでしょうか」


 留守電メッセージとは違う、若くて少し幼さの残る男性の声だった。


「はい、そうですが」


「ゆめの館の者です。正社員就職希望でお電話いただいた、ということですね?」


「はい」


「まず履歴書をお送りいただいて、書類選考の後に面接を経て採用、不採用の通知をする形でよろしいですか?」


「はい、よろしくお願いします!」


「では、履歴書の準備が出来次第送って下さい。こちらの住所は分かりますか?」


 由衣は求人情報誌を手にとって求人欄を見る。ゆめの館の住所が書いてあることを確認する。


「はい。求人情報誌に書いてある住所で良いんですよね?」


「はい、そこにお願いします。では、書類が届きましたらこちらからお電話しますね」


「分かりました。宜しくお願いします。失礼します」


 由衣は小さく頭を下げて電話を切る。通話履歴から電話番号を選択すると、ゆめの館と入力してアドレス帳に保存する。


 在学中の就職活動の時に使っていた履歴書の余りを出し、見本に書いていた紙を見ながらサラサラと書いていく。由衣の字は規則正しく並び、美しい字が書かれていく。書類審査で落とされたことのない由衣にとっては、就職活動の中で一番得意な作業だ。


 郵送してから数日後、由衣は自室で寝転がり、山積みにした本を隣に置いて熱心に読書をしていた。熱心、とはいっても、読んでいる本は漫画だったり、ファンタジー小説であり、勉強をしていた訳ではなかったが。


 次の漫画を手にとって読もうとして手を伸ばしていると、マナーモードにしていた携帯が光っている事に気付く。手に取ろうとすると振るえているのが分かった。着信している最中だった。携帯の画面を覗くとゆめの館と表示されていた。由衣は一呼吸置いて通話ボタンを押す。


「もしもし」


「私、ゆめの館の店主、砂咲と申しますが、渡辺由衣さんでしょうか」


 由衣は緊張する様子もなく、寝転がりながら電話を続けた。


「はい、そうです」


「履歴書、ありがとうございます。本日は面接の日時の件で電話しました。早速ですが、明日はどうでしょうか」


「はい、大丈夫です」


「そうですか。午後二時頃にこちらにこれますか?」


「はい!」


「持ち物は特にありませんので。では、宜しくお願いします」


「はい。明日の午後二時にお伺いさせていただきます。失礼します」


「あっ! すいません、あと一つ言い忘れたんですが……」


 由衣が電話を切ろうと耳から離しかけた時に声が聞こえ、また耳に携帯をあてる。


「はい、なんでしょうか?」


「ゆめの館の最寄り駅、どう行くか分かります?」


「はい、××線で○○駅まで行って、そこから○○線に乗り換えるつもりです」


 由衣は大学の通学途中にあったゆめの館の最寄り駅を頭に浮かべる。多くの路線の停車駅であるそこへ行くには、様々なルートが存在した。


「あー……申し訳ないんですが」


「はい?」


 由衣は何か間違えたかな、と考える。


「○○線ではなくて×××線に乗り換えて来てもらえませんか? 交通費が高くなってしまうようなら差額分はお支払いしますので」



 由衣はその路線を思い浮かべる。一度も使ったことのない路線だと少し不安だと思いながらも、向こうが指定するのは何か意図もがあるのだろうと考える。行く路線で変わる物は何かあったか考えても答えにはたどり着かない。


「もしもし?」


 ゆめの館の人の声だ。心配そうに問いかけてきた。由衣は返事をし、焦って声を出す。


「あっ、すいません。×××線でも大丈夫です。そちらから行きますね」


「良かった。すみません、では明日宜しくお願いします」


「はい、宜しくお願いします。失礼します」


 今度は相手も「はーい」と言うだけだったので由衣はそのまま電話を切った。


 由衣の家の最寄り駅から、どの路線を使ってゆめの館の最寄り駅まで行っても、料金や時間は対して変わらない。それなのに路線を指定してくる事に違和感を感じはするが、就職難という大きな壁にあたってしまった由衣はとりあえず面接を受けに行くことにするしかなかった。

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