侵略
素人の自己満小説ですが、暇つぶしにどうぞ。
最近、私の周りが何か変。
私は今、英語の教科書を筆箱に立て掛けて開いて、自分の身体を出来るだけ小さくしながら、目立たないように周りの様子を探っているのだけど、そこから入ってくる少ない情報だけでも、その異常さは解る。
例えば、私の斜め右にいる男子は、英語が嫌いで、いつも授業中は教科書に落書きしてばかりいたのに、最近は凄く真面目に授業を受けているだけでなく、キチンとノートも取っている。私の目の前に座る 女子だってそう。前は授業中に友達と手紙のやり取りをしてばかりだったのに、今ではそんなそぶりも見せない真面目ぶり。気付けば、授業にあまり真面目に取り組んでないのは、私を含めた数人だけになっていた。
一体どうしたというの? 確かに数か月前はこの逆だったはずなのに……。公立の、レベルだって高くないこの学校の一年生が、理由もなくこんな様子を見せるなんて、わたしには異常だとしか思えなかった。
息が詰まりそう。そう感じた私は、クラスメイトの姿が見えないように左を向く。窓際で良かった。空を見るといつもと変わりない青い空が広がっていて、ホッとした。冬の空は絵に描いたような、偽物みたいで嫌いだと言う人がいたけど、私はこの空が好き。
空を見て和んでいると、ふと、ホイッスルの音が聞こえて来て、私は視線を降ろしてグラウンドを見る。
「ッ!?」
見えた光景に小さく息を飲む。
一体ここは何処なの? ここは公立の、普通校ではなかったの?
グラウンドでは持久走の授業を受けている女子が、一指乱れぬ隊列を組み走っていた。無駄話もせずにもくもくと、個人差も何も感じさせないその集団は、何処かコメディーチックで、テレビで見れば笑えたと思う。だけど、今現実でソレを見ている私は、言いようのない恐怖を感じた。
まるで、ロボットみたい。
変だと思っていた異変が、全てその言葉で表せることに、私は気付いてしまった。真面目で、無個性な授業態度。ただの情報交換のような休み時間の味気ない会話、異変はこの学校だけではない。テレビの中、少し静かになった街、世界全てがこんなにも機械的になったのに、何故? 何故私はいままで気付きもしなかったの?
考えて、考えて、気付く。そうだ。異変は突然ではなかった。私達の生活に馴染むように、徐々に、徐々に、広がっていたんだ。なら、私の知る一番最初の異変は何? ああ、山田君……、彼が一番最初に変になったんだ。
ゲームやアニメが大好きな、所謂オタクな彼は、成績も悪いし真面目からはほど遠くて、しゃべるのだって苦手な男子だったけど、オタク仲間と話すときだけは羨ましいくらい楽しそうで、好きなアニメの展開に毎週一喜一憂して生き生きと話す、そんな人だった。なのに、いつから? 山田君が真面目になって、成績もグンっと上がったのは、誰とでも平気で話せるようになった代わりに、生き生きと趣味について語らなくなったのは……。
そういえば、アニメを語らなくなった山田君、だけど、私の中で彼はオタクという印象のまま、何故かそれが気になって、私は数少ない山田君の記憶を掘り出す。彼はアニメや他のゲームを語らなくなった代わりに、ユミル・オンラインというゲームの話を頻繁にするようになった。たまに会話すると、決まってこのゲームを進められた気がする。
ユミル・オンラインは、世界初のVRMMO、無限の可能性を持つゲームシステム、といううたい文句とともに、急速に世界中に広まったオンラインゲーム。専用ヘッドギアを使うことでゲームの世界に入り込めるという、信じられない機能を持ったゲームで、発売当初はその技術がどこから来たのか、本当に人体に影響はないのか、などとニュースで騒がれてた。オカルトめいた番組では、宇宙人からのオーバーテクノロジー説が訴えられ、実はパソコンも宇宙人からもたらされたオーバーテクノロジーだった。と、いうとこまで遡り妙な仮説が立てられていたことも覚えてる。
ユミル・オンラインといえば、最近みんなこのゲームを進めてくる。私は、機械と自分の脳が繋がるというのが気持ち悪くて断っていたけど、昨日父が家族分のヘッドギアを買ってきたため、今日家族みんなでプレイすることになったんだ。弟はそれが楽しみで、今日学校をサボるとか馬鹿を言って叱られてた。
……思えば、山田君が変わっていったのは、このゲームがサービス開始してからじゃないかな?
そうだ。そうして山田君を筆頭にオタクなクラスメイト達の様子が変になって、私の友達も、プレイし始めてから徐々に、人間的でなくなってしまった。日頃からそそっかしかった子が、ドジを踏まなくなって、怒りっぽくてケンカばっかりしていた子が、大人しくなった。最初は短所が治ったんだと、いいことだと思っていたけど、時間が立つにつれて彼女達の友達としての魅力が薄れていってしまった気がする。短所が無ければ、長所は無い。そして、この二つが無いと、人間はきっと機械のように、無個性なものとなるんじゃないかな。だから、あまり魅力を感じなくなってしまった。
思考が少しずれたけど、この人間の無個性化の前には決まってこのゲームの陰があった気がする。やり始めてすぐ変わる訳ではないけれど、確かに徐々におかしくなってた。それに、無個性化していないのは私を含めてゲームをしていない人達だけ。
「おい」
自分で立てた仮説に血の気を失っていると、突然隣の席の男子に声を掛けられた。
「授業終わりだぞ」
私は、周りの生徒達が号令のために立ち上がっているというのに、自分だけが椅子に座ったままだとようやく気付いて、慌てて立ち上がる。すると数人が笑い声を上げたけど、すぐにその声は押し黙る他大勢の生徒達の空気にかき消されてしまった。
号令が終わると、一人の女の子が私に近付いてきた。
「なにボーっとしてたのよ?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて話しかけてくる彼女は、ついこの間まではあまり親しくない、ただグループが同じ程度の仲の女の子だったけど、いつの間にか、周りの変化とともに、よく一緒にいるようになっていた。
「ちょっと考え事していたんだ。
……ねえ、美紀は……」
「実、美紀」
私は思い切ってさっき考えていた仮説を彼女に相談しようとしたが、そこに他の子が話しかけてきて、中断されてしまった。この子は前まで彼女、美紀の一番仲の良い友達だった。
「今日みんなで私の家に集まってユミルするんだけど、二人もおいでよ。ヘッドギアは貸すから、ね?」
「え、私は……」
美紀が口ごもる。前なら美紀は興味がないときっぱり断っていただろうけど、そういうことをはっきり言えたのは、確かな仲の良さがあったからで、今では、素直に断れるほど、彼女と美紀の間に信頼関係はない。だからといってオミソに出来るほど無関係でもないから、難しい。
「絶対楽しいよ」
「やれば解るよ」
いつの間にかグループのみんなに囲まれていて、みんながみんなユミル・オンラインを私達に進めてくる。
「何、お前らまだやってないの?」
「もうみんなやってるよ」
便乗してクラスのみんなも一緒になってユミル・オンラインを進め始め、私達二人は逃げる隙間もない人の群れに囲まれてしまった。囲ってくるクラスメイト達は、好きなものを進めているはずなのに無表情で、気味が悪い。
「あ、じゃあ、行く……よ」
戸惑いながらも美紀が参加することを表明する。
駄目! 断って!
そう思いながら、私はそれを口に出せなかった。美紀を屈服させた人の群れが、今度は私一人にプレッシャーを掛けているのだ。
額に汗が滲むのが感じられる。数秒が、何時間にも感じられて、ヒドク咽が乾く。
「私……、私は……」
ここで負ければ、全てが終わってしまう。何故かそう感じられた。
「私……、き、今日、家族でプレイすることになっているから!」
なんとかそう言うと、クラスメイト達はボソボソと何か話しだしたけど、その声は小さく、私達の耳には届いてこなかった。
「そうか、じゃあ、そっちで始めたほうがいいね」
人垣が散ると同時にチャイムが鳴り、先生が入ってくる。結局、私は放課後になっても美紀とあの仮説について話すことは出来なかった。
「それじゃあ、明日」
「またね」
グループの女の子達に手を振る。彼女達はこのままユミルをプレイしに行くらしい。女の子達に四方を囲まれた美紀は、まるで連行されているように見えた。
家に帰ると、静かな空間に出迎えられた。いつもなら先に帰っている弟や、母が何か声を掛けてくるのに……。不安になって居間に向かうと、母と弟はヘッドギアを付けてソファーに座っていた。
「!?」
やるとしても、家族揃って始めるのだと思っていたから、油断してた。
鼓動が五月蠅く鳴る。
このゲームを終えたら、母も、弟も、クラスメイトのようになってしまうのかな? あんな、ロボットのようになるの? そんなの、絶対イヤ!
「そうだ! 強制ログアウト機能!」
なにか異常事態があったときのために、このヘットギアには外から強制的にログアウトさせる機能が付いていたはずだと思い出して、私は慌ててそのボタンを探し、二人を強制ログアウトさせる。すると、ヘッドギアを繋がれていたパソコンの、先程まで黒くなっていた画面に二人のログイン情報が出て、そこに強制ログアウト準備中と表示される。
「何!? 何やってるの!? 止めて! 止めてよ!!」
だが、ログアウトはすぐに行われることは無く、ポップアップウィンドウが表示され、私はそこに書かれた文字に発狂する。
『脳のフォーマットを開始します』
「いや! なに!? 何なの!? やめてよ!?」
どうしていいのか解らずに、私はパニックになる。それでも、パソコンの電源を切ったり、乱暴にヘッドギアを外すことは怖くて出来なかった。無理矢理外せば脳に異常が生じると、ニュースで言われていたのだ。
『フォーマット完了しました。生活プログラムのインストールを開始します』
「あ……あ、いや……あ」
茫然とパソコン画面を見ていると、画面にノイズが走る。そのノイズに一瞬人間の顔のようなものが映り、笑った気がして、私は堪え切れずそこから逃げ出した。まだヘッドギアを付けたままの二人を残して……。
逃げ回って夜が来て、明けた。何も持たず、靴さえ忘れて一晩走り続けた。ここが何処なのかわからない。家族はどうなったの? 父は、まだ正常でいてくれてるの? 母や弟は……もう私の知る二人ではないの? お腹が空いたよ。足も痛いし、身体が凍えそう。私は路地裏で倒れるように横たわった。私は何をしているのかな。普通に考えたら、あんなことあるはずないじゃない。家族の悪ふざけだったかもしれない。だったら、きっとみんな心配してるはず。
ふらふらと立ち上がり、私は公衆電話を探す。
家に電話しなくちゃ。
暗い路地裏を出ると、丁度出勤するのだろうサラリーマンのおじさんと目が合った。やだ。私の今の姿はもの凄くみっともないはず。
「あ、あの私……」
浮浪者ではないとか、怪しい人じゃないとかいう言い訳を考えるのと同時に、なんとか電話を貸してほしいと思う。それを言葉にしようとして、私は息を飲んだ。
今の私は不審者にしか見えないはずなのに、目の前のおじさんは冷静、いや、無反応だった。確かに私を見ているはずなのに、その顔には戸惑いも、驚きも、恐怖も、軽蔑も、なんの感情も浮かんでいない。……そんな人って、いるの?
『フォーマット完了しました。生活プログラムのインストールを開始します』
思い出したのはパソコンに映ったその一文。この人は、もう……。
固まっていると、おじさんが動きだす。彼は、無表情のまま、私に向かってこう言った。
「駄目じゃないか、昨日、家族とプレイを始めるといっていただろう?」
言葉が終わる前に私は駆け出した。逃げても逃げても、無表情の誰かの視線が付きまとう。それでも、私は走り続けた。普段なら避けるような人気のない路地裏を選び、ひたすら走り続けた。すると、突然進行方向にあるビルの裏戸が開き、少し痩せた背の高い白衣の男性が顔を出す。
「こっちだ! 中に入れ!」
私は自然と男性の言葉に従った。彼の顔は必死で、表情があったのだ。
「よかった。まだ、ユミルの手に掛かってない人間がいて……」
彼は私を大きなコンピューターに囲まれた部屋まで連れてきて、温かい毛布とコーヒーを入れてくれた。部屋の真ん中には白いシーツを掛けられた何かの機械が置いてあって、様々なところとケーブルで繋がっていた。
「おじさんは、なにか知っているんですか!? 一体、何が起こっているんですか!?」
私は息巻いて彼に詰め寄る。すると彼は「おじさんは止めて欲しいなぁ」と苦笑して、私を近くの椅子に座らせた。
「僕はユミルの生みの親だ」
「あのゲームの!? あなたがこんなことをしたの!?」
「落ち着いて! 僕はこんな事態想定してなかったんだ。それに、僕が作ったのはゲームじゃない」
再び立ち上がろうとした私を制して、彼はポツポツと話し始める。
「ユミル・オンラインのユミルとはなにか、キミは知っているかい?」
私は首を傾げる。
「ユミルはあのゲームに搭載された高性能AIの名前なんだ」
「AIって、あの人工知能というあれですか?」
「ああ、僕が生み出した最高のプログラムさ。自分で思考し、行動する最高のプログラム……、ユミルはあのゲームの管理人、ゲームマスターだった」
私はまた首を傾げる。管理人はなんとなく解るのだけど、ゲームマスターというのは聞き馴れなかった。
「本来オンラインゲームでゲームマスターとは管理者権限を持っていたり、プレイヤーをサポートする担当者のことだ。ユミルはその役割に加えてテーブルトークRPG的なゲームマスターの役割を担っていた。
テーブルトークRPGというものは知っているかな? 決められたルールに従い対話によって物語を進めていくアナログゲームの一つなんだが、それのゲームマスターは決められたルールに沿いながらも、プレイヤーの行動に柔軟に対応し、ゲームを展開していく役割がある。
ユミルはプレイヤーの達の様々な行動を常に観察し、そのアクションによってシナリオやシステムを即興で対応させたり、それとなく修正したりするんだ。
それが、ユミル・オンラインのうたい文句である“無限の可能性”を可能にした」
どこかきらきらした目で語る彼、でも私はその内容に違和感を覚えた。だって、彼の語るAIのことを私は知らない、聞いたこともなかった。ゲームのシステムの最大の目玉なはずなのに、何故テレビでAIについて触れられていないの? そのことを私が聞くと、彼は一つため息を付いた。
「会社の人間は、みんなユミルのテストプレイをしていた。それが、AI搭載の事実が隠ぺいされたことに繋がったんだ」
「どういうことですか?」
「今回の件は、ゲームに搭載されたAI、ユミルの暴走が原因なんだ」
私は目を丸くした。AIの暴走。SFでは良く聞く設定だけど、それはフィクションだから起こること、暴走するほど頭のいいAIなんて、夢のまた夢だと思っていた。
「でも、プログラム、なんですよね? 暴走なんてしたとしても程度が知れているんじゃあないんですか?」
「ユミルは、奇跡のAIだ。脳とコンピューターを繋ぐ双通脳介機装置、ほら、ゲームに使われているヘッドギアがそれなんだけど、その開発と共に人間の脳の解析は急速に進んだんだ。ユミルはその研究結果から生み出された最初のAIで、感情以外の全てが人間の再現、いや、人間よりもずっと優れた形で創られている。そのため、ユミルはプログラムでありながら、学習、思考、自己判断を人間のように柔軟に行うことが出来るんだ」
「……感情は、無いんですか?」
「いかに解析が進んでも解き明かせない部分はある。感情がそれだ。私の仲間うちでは動物の肉体があってこそ感情が生まれるのではないかと推論を立てていた。熱さ、寒さ、心地よさ、そういう感覚が心を育てるのではないかとね。いずれは感覚を持つ機械を再現して、そこにAIを投入して確かめたかったことだが、ユミルのAIは巨大なスパコンでようやく可能となったものだからね、課題は多い。それに、現状では開発を行う状況ではないからね」
彼は少し寂しそうな顔をして俯く。AIの開発というのは彼が人生でもっとも重きを置いている事なのかもしれない。
しばらく、お互いに無言の時間が続くと、私を急激な睡魔が襲ってくる。考えみれば、一晩中走っていたんだ。今まではハイになっていたのか気付かなかったけど、疲労は大きい。だから、こうして落ち着いてしまうと、どうしようもない疲労が私を蝕む。一度、話を中断して休ませてもらった方がいいかもしれない。
そう思い、私が彼に声を掛けようとした瞬間、彼は再び口を開いた。
「今思えば、中途半端に人間の脳を再現した。それが悪かったのだろうと思う。感情の無いユミルは機械でしかありえない。だが、ユミルは自分と人間の違いが判らなかった。感情を知らないがため、人間の喜び、悲しみ、怒り、それらがプログラムによる決められた反応だと捉え、無駄な機能だと判断したのだ。
ゲームに搭載される前にユミルは僕に聞いてきたよ“何故、マスターは欠陥の修正を行わないのですか?”とね、そのとき僕は人と機械、人間とユミルは違うんだと説明したが、ユミルは納得しなかったらしい。だからユミルは、人と自分が違うものではないと証明するために、また、人間の欠陥を修正するために自分にアクセスしてきた人間の脳を弄り、プログラムとして修正、自分の支配下に置いた。そして、それにより自分が排除されないように、情報操作や支配下に置いた人間を使って、人の世を侵略していった。その結果が、今の現状だ。もはや地球は、ユミルのものだ」
私は茫然として俯いた。だって、気が付いたらいつの間にか世界が侵略されていたなんて、そんなことはあんまりじゃない。
「私、私達はどうなるんですか?」
「ユミルの傘下に降れば、肉体は生きる。傘下に降らなければ、残された人間として、ユミルからかくれて暮らすしかない。……キミと僕が出会わなければ、道はそれしかなかった」
まるで、まだ希望があるみたいな一言に、私は顔を上げる。目が合った彼は、私に優しく笑いかけてくれた。
「キミに出会えて良かった。僕はずっとパートナーを探していたんだ。ユミルをデリートするには、外側と内側から攻撃する必要があったんだ」
「外側と内側ですか?」
「ああ、僕が外から別のコンピューターでユミルをハッキングしやすいように、キミにはユミルの中にプレイヤーとして紛れ込んでほしい。大丈夫、決してキミの人格に改変を加えられないよう僕が守るから」
プレイヤーとして入り込むという言葉に、私は不安を抱いたが、それを感じ取った彼は慌てて最後の言葉を付け足した。だけど、私はまだ恐怖から素直に頷くことは出来ない。
「頼むよ、もうキミにしか頼れないんだ。それに、ユミルさえデリート出来れば全てを元通りにすることだって可能なんだ」
「元通り!? それは、みんなが元に戻るということですか!?」
「ああ、嘘なんて吐かないよ。ユミルは僕が人間とユミルは違うと言った言葉を理解は出来なかったが、気にはなっていたようでね。人の脳に修正を加える前にゲームの中、アバターという形で脳の情報全てのバックアップを保存し、観察しているんだ。だからゲーム中では本来の人格達が“ゲームに閉じ込められた”という認識で行動し、生きているはずだよ」
“生きている”その言葉に私は心を揺らされた。もう駄目だと思った母と弟も、いつの間にか“修正”された友人達も、みんな“生きている”もとに戻すことが出来る。
私の心はこの瞬間決意を固めた。みんなを助けられるなら、恐怖なんて克服できる。私は彼を真っ直ぐ見て、頷いた。
彼はそれに満足そうに笑うと、部屋の真ん中にある機械に掛けられていたシーツを取り払った。
「これは、ヘッドギアの代わりになる機械だ」
「カプセル型……、なんですか?」
「ああ、もしゲーム内で自由にログアウトやログインしていると、ユミルにばれる危険があるからね。この中ならば長期間ログインしていても生理機能をカバーしてくれる。大丈夫、なにも心配はいらないよ」
彼に誘導されて私はカプセルの中で横たわる。カプセルの中は心地よく、疲れ果てている私はすぐに眠気に襲われた。
「キミはただゲームをプレイしていればいい。それだけでいいんだ」
頭の上からオレンジ色の窓が伸びていきカプセルを包む。プシュッと音がして、私は意識を失った。
ガタッ
白衣姿の男が椅子を引き、自分のデスクに向かう。デスクの上にはパソコンがあり、そのパソコンは周りの大きなコンピューターと、少女の入ったカプセルから伸びたケーブルが繋がっていた。
男は目の前の画面を注視した。画面にはカプセルに入った少女のログイン状況が表示されているだけだったが、すぐにポップアップが表示される。
『脳のフォーマットを開始します』
暗い画面に映った男の顔は、先程まで少女と会話していた人間と同一人物とは思えない。まるですべての感情が取り払われたように、無表情な顔が、そこにあった。
『フォーマット完了しました。ユミルプログラムのインストールを開始します』
VRMMOでのデスゲームもの、その外の世界でこんなこと起こっていたりして……、そんな妄想の産物です。こんなことが起こっていたら、ゲーム内で何しても仕方なくなってしまうのですが……。
書いておきながら、自分でも突っ込みどころ満載でした。なんでAIとか双通脳介機装置なんてものが、最初にゲームに使われるんだ。とか、それについては作中でも書いたオカルト説でも、民間だからこそ、人類を脅かすという危惧がされているようなものに手を出したとでも、脳内補完してくださいませ。……いやはや、すみません。何分文章力も想像力も足りないもので……。
ちなみに、蛇足ですがユミルにはきちんとロボット三原則がインプットされています。ただ、ユミルは人間に危害を加えているつもりはないので、厄介なことになってます。危害どころかいいことしてるつもりなんです。
さて、つらつらと言い訳が長くなりましたが、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
PS
このお話は全力でフィクションです。作中でそれっぽいこと言っていても、嘘八百や作者妄想補完にて書かれたことが大半です。と、念のために明記。お目汚し失礼しました。