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絶滅危惧ⅠA類「ハリヨ」

作者: 山中幸盛

 本年五月十三日の朝、ラジオから次のようなニュースが流れてきた。

 滋賀県と岐阜県の一部にしか生息せず、絶滅のおそれが指摘されている淡水魚の「ハリヨ」が、主な生息地である滋賀県米原市の川では絶滅した可能性が高いことが、岐阜経済大学などの調査でわかりました。外部から持ち込まれた別の魚と交配が進んだことが原因とみられ、保護に取り組んできた地元の人たちを落胆させています。

 トゲウオ科の淡水魚のハリヨは、国が「ごく近い将来、絶滅する危険性がきわめて高い生物」に指定し、生息地として名高い滋賀県米原市の地蔵川では、条例で捕獲が禁止され、ハリヨをシンボルにした町おこしも行われてきました。しかし、このところ体の特徴に変化が見られたことから、岐阜経済大学の森誠一教授らの研究グループが調査したところ、ハリヨとはDNAが一致せず、別の魚に変わっていたことがわかりました。川にはおよそ100匹のハリヨが生息するとされていましたが、調査では数十匹の魚すべてが別の魚だったということで、ハリヨは、この川では絶滅した可能性が高いとみられています。森教授は「誰かがハリヨの仲間の別の魚を放流するなどして交配が進んだのではないか」と話しています。地元で保護活動を続けてきた岡野錦司さんは「地区をあげて保護してきただけに残念だ。近くの川にかつて移しておいたハリヨがいるので、それを増やして川に放したい」と話しています。


「おい、きょうのニュースを聞いたか。オレたちゃ純粋種じゃなくなっちまったらしいぞ」

「それがどうした」

「大変なことになっちまったな」

「なんで」

「なんで、っておまえ、なんとも思わないのか」

「べつに。生き残るためには強くならなきゃならねぇ、オレたちゃ進化してるんだよ。それを、町おこしか何だか知らねーが、人集めの道具にされちゃ迷惑だね」

「おまえ、変わってるな」

「ばかいえ、おまえたちの方が人間どもに体よく飼い慣らされてきたんだよ。オレたちはトゲウオ科イトヨ属ハリヨってことになっているらしいから、おおかた、奇特な人間がどっからかイトヨを持ってきてこの川に放したんだろうよ。オレたちゃセックスなどという原始的な生殖行為はしねーから、そりゃ、自然にイトヨと混ざるわな。だがな、オレたちが純粋でなくちゃならねー理由は何もねー。人間どもを見てみろよ、やれ白人だ黒人だ反ユダヤ主義だイスラム原理主義だのと骨の髄まで純粋主義に染まっているから殺し合いばかりやってるじゃねーか。人種も民族も宗教もごちゃごちゃに混ざればまちがいなく争いごとは減る、こんな簡単なことがわからねぇ人間は救いようがねーな」

「たしかに、岡野錦司とやらが『近くの川にかつて移しておいたハリヨがいるので、それを増やして川に放したい』と言っているというから、純粋種じゃなくなったオレたちゃ抹殺されるんだろうな。『地蔵川とハリヨを守る会』の岡野錦司や大橋邦男はヒトラーの生まれ変わりだな」

「ばーか、善人ぶりたがるのが人間という生きものだから、奴らはそこまで極悪非道なことはやりゃしねーよ。一匹残らず卵一個残さずに、手間暇かけてどっかそこらのわき水がある川にでも移してくれるさ」

「おまえ、いがいと楽観主義者なんだな」

「というより現実主義者なんだよ。たぶん、奴らは用済みのオレたちを金は使わずにボランティアを使って乱暴に扱うだろうから、移される途中でかなりの仲間が死ぬだろうよ。それはオレかも知れねーし、おまえやおまえの家族かもしれねー。運良く生き残ったとしても、オレたちゃ邪魔者扱いだ」

「オレたちゃ用済みなんだな」

「そうだ。希少価値崇拝差別主義は人間だけに与えられた特権だからな、あきらめろ」

「ちくしょう、オレたちが何をやったってんだ、何も悪いことはやってねーぞ」

「怒っても泣いてもなんにも変わりゃしねーよ。今のうちにうまいもんを死ぬほど食って、そん時を待とうぜ。おっ、久しぶりにオレの大好物が落ちてきた」


 地蔵川に七歳と五歳の兄弟がやってきた。兄は釣りザオを手にしている。

「お兄ちゃん、この川で魚釣っちゃだめなんだよ」

「わかってるよ。ハリヨはゼツメツキグシュだからな」

「だったらやめようよ」

「ところが、今日からはもう解禁になったんだ。ハリヨがハリヨでなくなったんだからな」

「それじゃあ、ハリヨはどこに行ったの? あそこの梅花藻ばいかもの横で泳いでいるのはハリヨじゃないの?」

「どこだ? おっ、おまえ目がいいなあ、そらよっと」

 兄は釣りザオをあやつって、元ハリヨの目の前にエサを落とし込んだ。 




* 文芸同人誌「北斗」第570号(平成22年9月号)に掲載 

*「妻は宇宙人」/ウェブリブログ  http://12393912.at.webry.info/ 



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