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紫苑のお仕事

「ちょっと! 紫苑(しおん)!! 聞いてるの!?」

「! もちろん聞いてるよ?」


 慌てて返事をする。

 ちらりと時計を見ると、そろそろ午前2時を迎えようとしていた。


「寝てたな。」


 紫苑の祖父、哲生(てっしょう)がボソッと呟く。


(……じじぃ。余計な事を。)


 チッと舌打ちが漏れる。

 テーブルを挟み向かい側のソファに座って訝しげな視線を向ける彼女は、胸元まである明るめの茶髪を緩く巻き、甘く垂れぎみの大きな瞳、ふっくらとした唇に大変肉感的なスタイルを持つ艶のある美女。

 初めのうちこそしおらい態度だったが、酔いが進むにつれ本性が出て来た。かれこれ2時間程、止まらない愚痴をBGMに酒盛りに付き合わされている。

 それはもう、船も漕ぎたくなるというものだ。

 愚痴の大半は、彼女が生前に付き合っていた男の事。


 そう【()()()】だ。


 篠田 伶花(しのだ れいか)と名乗った彼女は幽霊で紫苑のお客様である。

 2年前、大学2年生の時に不慮の事故で命を落とした。


 紫苑の仕事は、所謂霊能者と呼ばれるものだ。生きている人の心霊相談はもちろん、今回のように霊からの相談も受け付けている。というよりも守護霊である哲生が霊からの相談を持ち込んでくる。

 哲生は存命中、やはり霊能者をしていたが、ある時から何をとち狂ったのか宗教団体の教祖をしていた。らしい。

 というのも紫苑は哲生の5人目の娘の末っ子長女で、親戚の中でも末っ子である。紫苑誕生の年に、祖父は儚くなっていた。さらに祖父と祖母は母が小さい頃に離婚した。紫苑の母は、祖父についてあまり話したがらないので、敢えて尋ねる事もしなかった。そのため、一族の中でも哲生の資質を色濃く受け継いだ紫苑に降りかかった、とある霊障をきっかけに祖父が守護霊となるまで顔も知らなかった。

 その後、まぁ色々あって霊能者を生業としている。


 そして、先程ふらっと出かけた哲生が伶花を伴い帰宅。なんでも、以前に相談に乗った事がある霊から紹介されたとか。


健吾(けんご)が心配なの……」


 伶花の声音が揺れる。

 ついさっきまで、愚痴とも惚気ともつかない話を垂れ流していたが、漸く本題に入った。

 多少は信用してくれたのだろう。

 伶花はきちんと成仏しているがお盆がやって来たので、現世うつしよに降りて残してしまった両親の元で過ごしていた。亡くなる少し前に別れてしまったが、僅かに未練を残していた元彼が気にかかり様子を見に行くと、元彼がおかしくなっていたと言う。


「部屋に引きこもって、ずっと何か怖がってるみたいだった……隈もすごいし眠れてない感じで。カーテン閉めっぱなしだし、電気は常に点けてて。あと……」


 伶花は顔を顰め、薄っすらと涙が浮かんでいる。


「健吾から焦げ臭い匂いと……死臭がしたの。霊障の類だと思う。でも、あたしには何があったのかまでは分からなくて……。お願い、紫苑。健吾に何が起きてるのか霊視して欲しいの。……あたし心配でお盆過ぎたのに幽世かくりよに戻る気になれなくて……っ健吾っを、助けて!」


 絞り出すように発した言葉は、最後は嗚咽に変わっていた。 


「分かった。引き受けるよ。ただ、本人が引きこもってるとなると、どうやってコンタクト取るかな?」


 紫苑が首を傾げる。急に訪ねたりしたら、間違いなく詐欺師扱いされるだろう。


「ふむ。そこはワシと伶花ちゃんに任せるといい。」



 数日後、紫苑の自宅兼事務所を訪れたのは健吾の両親だった。


 出迎えたのは、身長170cm程のスラッとしたモデルのような人物で、20代前半くらいだろうか。透き通る白い肌、前下がりにしたショートヘアの髪はサラサラとした艶のある黒髪、瞳は灰色で不思議な色合いをしている。人形のように整った中性的な顔立ちに見惚れてしまう。


「どうぞ。中へお入りください。」


 紫苑は、微笑みながら声を掛けた。





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