心霊スポット
ソレは、いつもそこにあった。
延々と溶けていく暗闇、深く深く沈む静寂。
それらが知っている全てだった。
数分前からなのか、数年あるいは数百年前からなのか……
一体いつからここに居るのか。
自分は誰で何なのか……
まどろんでいるのか、身動ぎもせず、ただソコにあった。
某県某所。山の中腹あたりに地上2階、地下1階建ての廃墟がある。どこかの宗教団体の施設だったらしいが、詳しい事は分からない。今は、地元では知る人ぞ知る心霊スポットになっていた。
大学生活、最後の夏休み男女6人で肝試しに訪れたのは8月も1週間程過ぎた頃だった。
しばらく建物内を探索してみたが心霊現象らしい事もなく、開かずの扉が地下にあるという噂があり1人ずつ行って写メを撮って来る事にした。
「うっわ! あぶねっ!!」
朽ちかけた床板に足を取られ、危うく転びかけた。
床のそこかしこに穴が開き、大量のゴミや割れたガラスの破片、何とも形容し難い汚物の数々が散乱している。
こんな所で転んでは大怪我に加えて、そうとうな精神的ダメージも免れない。
体を支えるため、崩れた壁に手をついた時に少し深い切り傷を作ったが、この程度なら幸運だといえるだろう。
「はぁ。さっさと写メ撮って戻ろ……」
本当は、もう1秒たりともこんな所に居たくないが、写メを撮り終え建物の外で待っている仲間達にヘタレと馬鹿にされるのも癪にさわる。
地下に降り、懐中電灯の明かりを頼りにしばらく奥に進むと件の扉の前にたどり着く。
写真を撮ろうとスマホを構えた。
「……ほんとに開かないのか?」
錆びついた鉄製の扉を見つめると、ふと好奇心に駆られた。
息をのみ、ゆっくりとドアノブに手を伸ばす。ノブを掴み下におろすと、ガシャン!! と大きめの音がする。
鍵が掛かっているのか、開かない。
何となく同じ動作を繰り返した時、重たい鉄の扉がギィイと音立てて内側に開いた。
「なんだよ、開くじゃん。」
噂なんて当てにならないものだ。錆びや歪みで開きずらくなっていたのだろう。
ホッと息を吐き、扉の奥を覗いてみると中は広い空間になっていて特に変わった様子はない。一歩部屋に入り辺りを見て回ると、隅の方に小さな祭壇があった。その上に布を巻いた木箱が置かれていた。
「なんだこれ?」
吸い込まれるように木箱を手に取ろうとした瞬間、さっきケガをした手の平から血が滴り木箱に落ちた。
キィイイインと耳鳴りが響く。急激に気温が下がり、体がガタガタと震えだす。吐き出す息が白くのぼっていく。足に力が入らず、体を丸めてその場にへたり込む。寒いはずなのに、背中に冷や汗が流れ出す。
突然の事態に恐怖で体が凍り付き、頭が追い付かない。気温は増々下がっていく。
歯の根がかみ合わず、ガチガチと鳴る。肌は粟立ち、得体の知れない不安が鳩尾あたりに這い上がる。
寒さに痛みを感じるようになった頃、祭壇の木箱がバンッ!!と砕け散った。
弾かれるように顔を上げると、茫然とした。
そこには、産まれたての赤ん坊よりも1周りほど小さな真っ黒に焦げた人型の何かが大きく口を開けて浮いていた。
刹那、男の人生は幕を閉じた。
男を喰らった真っ黒い化け物は、しばし初めて感じる解放感と満たされた欲望に満足気にしていたが、何かに誘われる様にフラりと部屋を出て行った。建物の外に出ると次の獲物を見つけて歓喜した。
* * *
「次のニュースです。」
テレビの向こうからアナウンサーが真剣な面持ちで、大学生グループの行方不明事件について報道していた。大学生達は6人のグループで生存者1名を残し、5人が行方不明になっている。どうやら心霊スポットを訪れた後から足取りが掴めないようだ。5人もの人間が1度に消息不明となり痕跡もない事から、ここ数日大々的に報道されていた。
「物騒な世の中だな。」
紫苑は寝酒を片手に呟いた。
時刻も23時を回り、そろそろ寝ようかと思った時だった。祖父の哲生が日課の散歩から帰宅して来た。
「おかえり。今日は随分と早いお帰りですな。」
揶揄うように紫苑が言うと哲生はフンと鼻を鳴らす。
「依頼人を連れて来たぞ。」
哲生の肩越しから『こんばんは』と顔を覗かせたのは20歳前後の女の子だった。
マジかよ、と頭を抱える紫苑に
「取り敢えず、酒でも飲みながら話を聞いてやれ。どうせ飲んでるんだろ。」
「いや、飲んでるけど……」
何時だと思ってんだ!という言葉を飲み込んで女の子に視線を向ける。
警戒している様子の彼女は居心地が悪いようだ。紫苑は気持ちを切り替えると、人好きのする笑顔を浮かべる。
「じゃあ、飲みながらお話しますか。お酒、大丈夫ですか?」
「あ。はい。人並みには……。」
紫苑は欠伸を噛み殺し、彼女の話を聞くことにした。




