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絶望5日目、世界はクソゲーにアップデートされた  作者: パラレル・ゲーマー


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第11話

 『ダンジョン:翠緑の塔(推奨Lv.30)』。

 代々木公園の中心部に突如として隆起したその巨塔は、異様な威圧感を放っていた。

 コンクリートと巨大な植物の根が融合したような外観。

 入り口である大穴からは、湿った空気と濃厚な腐臭が漂ってくる。


 その前に集結したのは、警視庁特務部隊――といっても、生き残った機動隊員と志願した刑事たちによる混成部隊――約50名。

 そして門番G-Kが声をかけて集めた、実力あるソロプレイヤーや小規模パーティの有志約20名。


 計70名の攻略隊レイド・パーティ


「……なるほど、壮観だな」


 俺、橋場洋太は集団の後方で腕を組んでいた。

 装備はフルセットだ。

 強化されたサバイバルナイフ、影操作による防御壁、そして腰には新兵器である『火炎魔石』を加工した触媒を提げている。


「よう、橋場。来てくれたか」


 G-Kが歩み寄ってくる。

 彼もまた重厚なライオットシールド(暴徒鎮圧用盾)を装備し、完全にタンク役の出で立ちだ。


「報酬が良いって聞いたんでね。

 それに、ここを放置してモンスターが溢れ出したら、俺の安眠も妨害される」


「違いない。……紹介する。

 今回の指揮を執る、堂門どうもん警部だ」


 紹介されたのは、白髪交じりの短髪に鋭い眼光を宿した初老の男だった。

 制服ではなく、動きやすいタクティカルベストを着用し、手にはアサルトライフルを持っている。


「協力感謝する。

 民間人を巻き込むのは本意ではないが……背に腹は代えられん」


 堂門警部は短く頭を下げた。

 プライドよりも実利、そして市民の安全を優先するタイプか。悪くない。


「ソロの『NoName(俺のことだ)』です。

 足手まといにはならないよう、立ち回りますよ」


「うむ。

 君の『影』の噂は聞いている。遊撃を頼む」


 簡単なブリーフィングの後、作戦が開始された。

 目的は塔の最上階にあるとされる『コア』の制圧。

 そして、イオン・ギルドより先に攻略すること。


「突入ッ!」


 号令と共に、俺たちは「緑の地獄」へと足を踏み入れた。


経験値の養殖場(XPファーム)


 塔の内部は外見以上に広大だった。

 螺旋状の通路と広大なフロアが交互に現れる構造。

 そして何より、敵の密度が異常だった。


「グルルァァァァッ!」


 壁から床から、植物に寄生されたゾンビ『プラント・デッド』が湧き出してくる。

 体から蔦を生やし、胞子を撒き散らす厄介な敵だ。


「盾隊構え!

 後衛射撃開始!」


 堂門警部の指示が飛ぶ。

 機動隊員たちが隙間なく盾を並べ、バリケードを作る。

 その隙間から、正確な射撃と魔法攻撃が放たれる。

 統率された集団戦闘。

 さすが、警察訓練度が違う。


 だが、俺の戦い方は違う。


「影展開!」


 俺は壁を走り、敵の側面へと回り込む。

 プラント・デッドの弱点は火だ。

 だが植物の皮が厚く、生半可な火力では燃えない。

 だから内側からやる。


 俺は影を鋭利な針状に変形させ、ゾンビの口や傷口に突き刺す。

 そして腰の『火炎魔石』に魔力を流し込む。


「燃えろ!」


 影を伝導体にして、熱エネルギーを直接送り込む。

 新技『影熱伝導シャドウ・ヒート』。


 ボッ!


 ゾンビの体内から炎が噴き出す。

 「ギャアアアッ!」

 断末魔と共に、敵が炭化して崩れ落ちる。


【討伐完了】

【ダンジョンボーナス:経験値1.5倍】

【獲得経験値:680 XP】


「……美味い!」


 俺は思わず口元を緩めた。

 敵は多い。

 だが閉鎖空間ゆえに逃げ場がなく、密集している。

 範囲攻撃や貫通攻撃を持つ俺にとっては、ここは危険地帯ではなく、最高効率の「養殖場」だ。


 次々と流れ込んでくる経験値。

 レベルが上がる感覚が脳を痺れさせる。


「おいおい、あの兄ちゃん凄えぞ……」

「一人で、一個小隊分のキルスコア叩き出してないか?」


 警察の隊員たちが驚きの声を上げるが、気にしている暇はない。

 俺は踊るように影を操り、死の塔を駆け上がっていった。


競合他社イオンとの遭遇


 中層階、広大な吹き抜けホールに差し掛かった時だ。

 先行していたG-Kが警告を発した。


「止まれ!

 先客がいるぞ!」


 ホールの反対側。

 そこに見覚えのある黄色い腕章をつけた集団がいた。

 イオン・ギルドだ。

 数は30人ほど。

 彼らもまた精鋭部隊を送り込んできたらしい。

 中心にいるのは、スキンヘッドのリーダー。


「チッ、警察の犬共か。嗅ぎつけるのが早えな」


 リーダーが忌々しそうに唾を吐く。

 彼らの足元には無数のゾンビの死体と共に、数名の「プレイヤーの死体」も転がっていた。

 おそらく囮に使われた「奴隷」たちだ。


「貴様ら!

 民間人を盾にしたのか!」


 堂門警部が激昂する。


「ハッ!

 資源の有効活用と言えよ。……ここから先は俺達のモンだ。引き返しな」


 リーダーが合図をすると、イオンのメンバーが一斉に銃口をこちらに向けた。

 モンスターだらけのダンジョン内で、人間同士の撃ち合い。

 正気の沙汰ではない。


 だが、その膠着状態を破ったのは、どちらの陣営でもなかった。


 ズズズズズ……!


 ホールの天井が崩落し、巨大な影が降ってきたのだ。


「グルオオオオオオオオッ!」


 全長10メートル。

 巨大な古木が人型を成し、その表面に無数の人間の顔が埋め込まれた怪物。


【ダンジョンボス:エルダー・トレント・ゾンビ(Lv.45)】


 いきなりのお出ましだ。

 ボスの出現に、イオン側も警察側もパニックになる。


「撃て!

 撃てェ!」


 イオンの連中が無秩序に発砲する。

 だが、ボスの樹皮は鋼鉄のように硬く、弾丸を弾き返す。

 ボスが巨大な枝を振り回す。


 ドォォン!


 イオンの前衛部隊が紙屑のように吹き飛ばされた。

 一撃でHPがゼロになる、即死級の攻撃力。


「ひひいいっ!

 無理だ! 逃げろ!」


 リーダーが真っ先に背を向けた。

 烏合の衆。逆境には脆い。

 イオン・ギルドは我先にと出口へ殺到し、そして追撃してきたボスの根に捕まり、次々と養分として吸収されていった。


「……哀れな末路だな」


 俺は冷静にそれを見届けた。

 さて、邪魔者は消えた。

 だが、この化け物をどうする?


「総員散開!

 盾で防ぐな、回避しろ!」


 堂門警部が叫ぶ。

 警察部隊も必死に応戦するが、ジリ貧だ。

 火炎放射器を持った隊員が炎を浴びせるが、ボスの再生能力が高く、すぐに鎮火してしまう。


「火力が足りない……!」


 G-Kが歯ぎしりする。

 このままでは全滅だ。

 俺がやるしかない。


「堂門さん!

 一分間、奴の動きを止めてくれ!

 トドメの一撃を準備する!」


 俺は通信機越しに叫んだ。

 堂門警部は一瞬俺の方を見て、すぐに頷いた。


「分かった!

 全員、NoNameを援護しろ!

 命に代えても時間を稼げ!」


 警察の覚悟。

 彼らは捨て身でボスに突っ込んでいく。

 閃光弾、氷結魔法、ありったけのスキルを使ってボスの足止めをする。


 その間に俺は影の中に沈んだ。

 全MPをこの一撃に注ぎ込む。


 イメージしろ。

 ただの炎じゃない。

 影の圧力で圧縮し、爆発的な指向性を持たせた「成形炸薬弾(HEAT弾)」のような炎を。


 俺の影がドス黒い赤色に変色し、沸騰する。

 頭痛がする。鼻血が出る。限界だ。


「……今だッ!」


 俺は影から飛び出した。

 警部たちが作った一瞬の隙。

 ボスの胸部、無数の顔が埋め込まれた中心にある、巨大な魔石のコア。


「食らいやがれ!

 『影熱・爆砕(シャドウ・ブラスト)』!」


 俺は影をドリルのように回転させ、炎を纏わせてコアに突撃した。


 ズガガガガガッ!


 影が樹皮を削り、炎が再生を阻害する。

 そして俺の切っ先がコアに到達した瞬間。


 カッ!


 塔全体を揺るがす大爆発が起きた。


勝利、そして報酬


 爆煙が晴れると、そこには半壊したボスの残骸が横たわっていた。

 再生する気配はない。

 完全に沈黙している。


 静寂。

 そして誰からともなく、歓声が上がった。


「やった……! 倒したぞ!」

「勝った! 俺たちは勝ったんだ!」


 警官たちが抱き合い、涙を流している。

 多くの犠牲を出したが、彼らは守りきったのだ。


 その時、俺の視界にシステムウィンドウが浮かび上がった。

 それは参加者全員に見えているようだった。


【ダンジョン『翠緑の塔』攻略完了!】

【MVP選出中……確定しました】

【MVP:プレイヤー『NoName(YOTA)』】


 俺の名前が黄金の文字で表示される。


【MVP報酬:ゾンビポイント 1,000,000 ZP】

【特別報酬:施設所有権『翠緑の要塞(The Fortress)』】


 その場にいた全員が俺を見た。

 100万ポイント。

 一生遊んで暮らせる額だ。

 そして『要塞』の所有権。


 俺の手元に重厚なカードキーのようなアイテムが出現する。

 同時に塔の壁面が変形を始めた。

 有機的な不気味さが消え、鋼鉄と強化ガラスで構成された近未来的なシェルターへと姿を変えていく。


【施設概要:

 ・絶対安全圏(アンチ・モンスター・フィールド常時展開)

 ・最大収容人数:1000名

 ・自動防衛システム完備

 ・水耕栽培プラント、浄水施設あり

 ・居住区、医療区画、司令室完備】


 とんでもない代物だ。

 これがあれば一つの街が作れる。

 文字通りの「城」だ。


所有者の決断


 気まずい沈黙が流れた。

 この要塞の所有権は、システム上MVPである俺にある。

 警察側としては喉から手が出るほど欲しい拠点だろう。

 だが、命を救われた恩義もあり、無理やり奪うこともできない。


 堂門警部が疲れ切った顔で歩み寄ってきた。


「……見事な戦いぶりだった。

 君がいなければ全滅していた」


「皆さんの援護のおかげですよ」


 俺はカードキーを指で弄びながら言った。


「それで警部。

 この施設のことですが」


「……ああ。

 君のものだ。文句を言う筋合いはない。

 我々は撤収する」


 堂門警部は潔かった。

 だが、その背中には「これでまた多くの市民を守る機会を失った」という無念が滲んでいた。

 庁舎は満杯。物資も枯渇。

 この要塞があれば、どれだけの人が救えたか。


 俺はため息をついた。

 やれやれ、これだから「正義の味方」ってやつは。


「待ってください、警部」


 俺は彼を呼び止めた。


「俺はソロプレイヤーです。

 1000人の面倒を見るなんて、御免被りたい」


「……何?」


「この要塞の『所有権オーナー』は俺が持ちます。

 固定資産税がかかるなら、払いませんけどね」


 俺はカードキーを掲げ、システムメニューを操作した。

 【権限委譲:サブ管理者設定】。


「ですが、『管理・運営権』は警察に譲渡します」


「なっ……!?」


 堂門警部が目を見開く。

 周囲の隊員たちもざわめき立つ。


「何を言っているんだ?

 これはこの世界で最も価値のある不動産だぞ?

 それを無償で……」


「無償じゃありませんよ」


 俺はニヤリと笑った。


「条件があります。

 一つ、ここを市民の避難所兼、地域の警察署として運用すること。

 一つ、俺の『永久無料宿泊権』と『VIP待遇』を保証すること。

 そして最後、俺の部屋の周りだけは静かにさせること」


 要するに大家は俺。

 店子は警察。

 俺は管理業務(クレーム対応、入居者トラブル、食料配給、etc...)という面倒な仕事を全て警察に丸投げし、安全で快適な「ペントハウス」だけを享受しようという魂胆だ。


 俺にとっては、広すぎる城に一人で住むより、警察という最強のガードマンに守られたマンションの一室のほうが価値がある。


「君は……本気で言っているのか?」


「本気です。

 イオンの連中みたいに人を奴隷にして王様気取りなんて、趣味じゃないんでね。……それに」


 俺は肩をすくめた。


「俺の住む街の治安が悪いと、寝覚めが悪いんですよ」


 堂門警部はしばらく俺の顔を見つめていたが、やがて深く深く頭を下げた。


「……感謝する。

 本当に感謝する。

 この恩は警視庁の名にかけて、決して忘れない」


「ありがとうォォッ!!」

「NoNameさん、いやオーナー万歳!」


 隊員たちから歓声と拍手が巻き起こる。

 ちょっとこそばゆい。


エピローグ:新たな拠点、新たな日常


 数日後。

 『翠緑の塔』改め『警視庁・特別防災拠点(通称:タワー)』は地域の希望の灯火となっていた。


 高度なセキュリティに守られた内部には周辺の避難民が収容され、久しぶりに温かい食事と、怯えずに眠れるベッドが提供された。

 水耕栽培プラントのおかげで新鮮な野菜も出回り始めた。

 警察機能も回復し、ここを拠点に周辺のゾンビ駆除と治安維持が進んでいる。


 そして俺は、そのタワーの最上階。

 元ボス部屋を改装した豪華なペントハウスにいた。


「ふぅ……極楽だな」


 広いバスタブ(お湯が出る!)に浸かりながら、俺は夜景を見下ろした。

 かつては絶望の色しかなかった街に、ポツポツとタワーからの明かりが灯っている。


 手に入れた100万ポイントで装備もスキルも最高級のものにアップデートした。

 影操作は『影・支配シャドウ・ドミネーション』へと進化し、いまや俺の影の中には倒したボスの魂(影法師)を使役する機能まで追加されている。


 ピンポーン。

 インターホンが鳴る。

 モニターを見ると、リナと堂門警部、そしてG-Kが立っていた。

 手には酒やツマミを持っている。


「オーナー!

 差し入れ持ってきたっすよ!

 宴会しましょ!」


「橋場くん、少し相談があるんだが……まあ、まずは乾杯してからだな」


 やれやれ、静かに暮らすという条件はどうなったんだ。

 だが悪い気はしなかった。


 俺はバスタブから上がり、バスローブを羽織った。

 世界はまだクソゲーだ。

 外にはまだ無数のゾンビがいるし、イオンの残党や新たな脅威も現れるだろう。

 だが、この拠点が、そして仲間がいれば、攻略もそう悪くない。


「はいはい、今開けるよ」


 俺はドアへ向かった。

 足元の影が楽しげに揺れていた。


 俺たちの戦い(ゲーム)は、ここからが「拡張パック(DLC)」の始まりだ。


(第一部・完)

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ゾンビパニックものにありがちな胸糞展開が殆どなくてストレスなく楽しめました。 続きお待ちしてます。
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シェルター入居権の付与は先着順ですか?もしそうなら、人権がーとか差別がーとか言う人が出そうな予感( ゜ε゜;)
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