4.裁判
縄でぐるぐる巻きにされたまま、ジークは地下都市"灯淵"の中心――「裁きの広場」に引きずり出された。
広場は天井から溢れる光に照らされ、石造りの円形闘技場のような場所であった。
壁からは樹齢1000年程に見える樹木が生い茂り、それぞれの家を繋いでいる。広場を中心に家は階段状に建築されていた。
それぞれの樹木には既に大勢の住民が集まり、「覗き魔だ!」「処刑だ!」と野次を飛ばしている。
「静かに!」
と、この広場に響きわたる声と共に現れたのは長い銀髪の黒いコートを羽織った美しい女性であった。
彼女は10メートルはあろうかと思われる樹木の上から飛び降り、ジークの目の前にスタリと着地した。
「被告人、ドブノ=ジーク!」
彼女が高らかに名を呼ぶと、群衆からは「おぉ〜っ!」と歓声とも怒号ともつかぬ声が上がる。
ジークはニヤニヤ笑って答えた。
「おうおう、やけに大げさな歓迎だな。宴会でもするのか?」
「ふざけないで!」
銀灰色の少女――聖女を名乗る少女が声を張り上げた。
「こいつは我らが泉で水浴びしているところを覗いただけでなく、侮辱までしたのです!」
「そうよそうよ!」
茶髪の少女――三つ編みの少女が頬を膨らませて叫ぶ。
「聖女を“かわいらしい――”だなんて、重罪よ!死刑に決まってるんだから!」
観客は「死刑!死刑!」と拳を突き上げる。
だがジークは一歩も怯まず、むしろ堂々と胸を張った。
「死刑だと!?誰がなんと言おうと俺は譲れないものがあるッ!」
彼は目をぎらりと輝かせ、言葉を続ける。
「俺は――慎ましいのも好きだッ!」
広場は一瞬の静寂に包まれた。
そして次の瞬間、群衆の笑い声が爆発する。
「なんだこいつ!」「バカだ!」「でも妙に説得力ある!」
銀髪の女性は額を手の甲で押さえて高笑いをした。
「……なるほど。愚か者だが、確かに死刑にするには惜しい。
ならば、試練を課すとしよう。――この地下迷宮の“迷いの門”を突破せよ!」
彼女がそう言うと広場の中心からガコンと音を立てて割れる――その先は地下迷宮"迷いの門"の入口であった。
もちろん、広場の中心にいたジークは
「またかよぉぉぉぁぉ」
と叫びながら落ちるのであった。
そして、
「「なんで私達もぉぉぉぉ」」
銀灰色の少女と茶髪の少女も巻き込まれていたことをジークは知らなかった。




