1.落酒
「くそっ…もう酒がきれちまった」
ジークは足元がおぼつかないままふらふらと夜の路地を闊歩していた。
何故このような状況になっているのか、一言で言えばジークは酒癖が悪かった。
冒険の報酬で得た銀貨はすべて酒場に消え、身体は軟体動物のようにベロンベロンである。
先程までいた酒場では、
「いまかはぁ〜けんかたいかいはじめよーぜぃ」
と近くのカップルに殴りかかり、大暴れした後、レッドベアの様な店主にドロップキックで店を退場させられたのだ。完全に自業自得である。
しかしジークの脳内では、そのことすらも忘れ去っていた。
次の酒場に行くのは、もはや義務でも使命でもなく、欲望に忠実な男としての自然な行動にすぎないのである。
冒険者といえば荒くれ者どもを想像するかもしれないが、ジークのように毎日を飲んだくれて過ごしている冒険は珍しい。
何故ならこのリウム王国では革命により、秩序が大きく崩壊してしまったからである。
ジークのような冒険者をまとめあげるリウムギルドはその名の通り、王国の支援によって成り立っているものであった。
その支援により、この国の冒険者は危険な魔物の討伐よりも、安全な街の荷物運びや建物の清掃といった仕事をするのが大半であった。
つまり、冒険者という職業は失業者の受け皿であり、街の治安や経済を安定させる役割を果たしていたのである。
しかし革命後は状況が一変する。
未来の見通しは立たず、新たな指導者による冒険者支援も期待できない。
理由は単純である。革命直後の政策は増税だったからだ。
こうして、今日もジークが堂々と飲んだくれていられるのは、彼自身の冒険者としての実力によるものである。
ちなみに、彼はリウム王国ではいい意味と悪い意味で有名である。
路地をフラフラ歩きながら、ジークは次の酒場を探していた。しかし、目に入るのは痩せ細ったネズミとご飯の取り合いをしている住民だけである。
「ここはもう、俺の飲むための道…サケロードだ」
と意味の分からない言葉を吐き捨て、ポケットから酒瓶を取り出し道の脇に寄り座ろうとする。
しかし、その「道の脇」は舗道が崩れたただの穴だった。
「うわあああぁ!」という叫びも虚しく、ジークは足を滑らせ、暗い穴に真っ逆さまに落下する。
"ザブン!"
落ちた先には、思いもよらぬ光景が広がっていた――そこは、泥と水がマーブル模様のように入り混じる奇妙な泉で、二人の少女が水浴びをしていたのだ。
この物語の舞台は、荒廃と混乱に包まれたリウム王国。
革命や失業問題、公営制度まで絡めた設定ですが、基本は飲んだくれ冒険者の大暴れギャグがメインです。
読んでいて「ああ、こんな冒険したいな」と思ってもらえると幸いです。
次回は、水浴び少女は何者なのか、ジークが落ちてしまった場所は何処なのかーーその冒険が本格的に始まります。
泥まみれ、笑いあり、少しだけ危険ありの大迷宮へ、どうぞお付き合いください。
初投稿です。お手柔らかに、よろしくお願いします!