かみぶくろ
彼は小さいころから臆病で何をするにも他人がしたのを確かめてからでしか行動ができなかった。
そんな性格だから何をやっても二番煎じ。学校でも積極的に手を上げれない。卒業してどこの会社に勤めるかも決めることができない。会社にようやく入れたとしてもすべてのことを上司や同僚に聞かないと始めることができない……もちろん、長続きもしない。
そして今、彼は会社を辞めてきたところだった。
めぼしい知り合いも家族も友人もいない彼は、今から人生のどん底を歩くことになるであろうその一歩を踏み出してしまったのだ。
うつむいてこれからどうしようか迷うが帰る場所もない。今彼はすべてのことに嫌気が差していた。
それでも、神様というものはいるもので。この様子を見ていた神様は考えた。
「彼は小さい頃からあの性格でいつも損ばかりをしている。私がああいう風になるようにしてしまったのだから仕方がない。しかし、あまりにも可哀想だ……性格を今からは変えることはできないがこれ位の事はしてやらないと」
そう言った神様は彼の寝ている公園のベンチの横にそっと紙袋を置いた。神様は、その紙袋に向かって
「いいかい?彼の性格だから君を覗こうとはしないだろう。だから彼が君を覗かない限り手を離させてはだめだよ?」
と言うと、神様は何処かへと消えていった。
夜が明けるころ。目を覚ました彼はすぐそばに紙袋が置いてあるのを見つけた。
見覚えのない紙袋だが、なぜかそれは自分の物だとすぐに分かった。
持ってみるとかなりの重さだ、紙袋の上からでも分かるような硬いものがたくさん入っている。
しかし袋の中を覗く気にはなれない……。
臆病な性格だから中のものは何かと考えてしまいとても確認する気にはなれないのだ。
もしかしたら、大量の銃器かもしれない。
もしかしたら、コンクリートで固めた人の生首かもしれない。
もしかしたら、時限式か何かの爆弾かもしれない。
そうこう考えているうちに夜は少しずつ明けていく。すると、向こうの方から公園の清掃員が近づいてくるのが見えた。袋を捨てて彼は逃げ出そうと思ったが紙袋が手から離れない。
こうなっては仕方ない。逃げ出しても怪しまれるだけだろう。
清掃員は彼の目の前まで来て、
「こんなところで寝ないでください。他の人に迷惑ですからね。その紙袋はなんですか?ゴミなら出してください捨てときますから」
そう言われて彼は思いついた。この清掃員に中身を確認してもらおう。
もし大変なものなら自分の物ではないと言えばいい。
自分から証拠になるものを見せびらかす犯罪者はいないはずだ言い訳などいくらでもできる。
彼は清掃員に紙袋の中身を覗くよう促し紙袋の中を覗いてもらった
すると、清掃員はすごく嫌な物を見たといった様な顔をし、少しうつむきながら帰っていった。
しかし、清掃員は騒ぎもせず警察も呼ぼうともしなかった。
彼はその反応が不思議でならなかった。
どうも犯罪は関係していないらしいが、そうなるとこの袋の中身はなんなのだろう?
公園には次第に人が増えてきた。彼は何をするでもなくただ時間が過ぎるのを待っている。
しかし、次第に紙袋の中身を知りたくなってきた。なぜ清掃員はあんな顔をしたのか。
自分で覗くことはできないが、また誰かに見てもらいこの紙袋の中身を誰かに教えてもらおうと通りがかった人に次々と聞いてみた。
だが、誰もがみんな嫌な顔を見せ
「中身のもの?そんなことは言いたくない。それに、もう2度と見たくない」
と何処かへと行ってしまう。彼はだんだんと怖くなってきた。
「やはり、この中の物は、恐ろしいものが入っているのに違いない」と
しかし、何かの力で紙袋からは手が離れない。
彼の恐怖が頂点に達したとき
彼は近くの高層ビルまで行き、屋上から……飛び降りた。
その後、事件現場にて。一人の男が飛び降りた人物の顔を見て言う。
「あ、彼は公園にいた奴じゃないか」
「君は彼を見たのかい?」
その隣の友人は興味ありげに聞いた
「ああ、紙袋いっぱいの宝石やら金やら現金やらを他人に見せびらかせていたとんでもない奴だったよ。ボクはそれを見てつい嫌な顔を浮かべてしまったなぁ。しかし飛び降りたということは、やはりあの大金はよからぬ事をして手に入れたに違いない」