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【完結】異世界腐女子、恋をする  作者: 文月らんげつ
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LⅠ

 その日、ファスレイの王宮に泊めて貰った2人は、その日が秋季の74日……魔女に閉じ込められた翌日であること、時刻は昼過ぎであることを教えてもらった。一体何がどうなっているのかについては、兵士たちも詳しいことは教えて貰っていないらしく、エルカディアに帰ってから聞いて欲しいと困った顔で言われた。


 翌日、約束通り2人は国境で身柄を引き渡されることとなり、馬車で移動することとなった。

「……どういうことでしょう……どうしてルゼルト様が……」

「分かりません……ファスレイの国王にもなんて説明したのか……」


 国境に着くと、そこには5人ほどの王都の騎士が馬車と一緒にエレナたちを待っている様子だった。本当に何事もなくあっさり返して貰えたのは少し拍子抜けだ。ファスレイにいいイメージなどない2人は、なにか企んでいるのでは、と思ったが、考えてみれば戦争は40年も前の話だ。当時進軍を提案したりした軍人貴族などはもういないため、エルカディアにどうこうしようとは考えていないのかもしれない。

 ファスレイの馬車から降りて、エレナとアナスタシアは兵士たちに頭を下げた。

「ありがとうございました」

「いえ……何も説明できず申し訳ない」

「それについてはこちらから説明しますよ」

 聞き慣れた声に振り向けば、騎士たちが道を開けている。そこにいたのはルゼルトだった。

「ルゼルト様!」

「……無事でよかった」

 彼は少し泣きそうな顔をしていた。目の下に隈がついているところを見ると、眠れなかったのだろう。

「あの、ルゼルト様。一体何が……」

「道中説明します。王都へ帰りましょう」

 エレナとアナスタシアを馬車に乗せたあと、ルゼルトはファスレイの兵士たちと何かを話し、一枚の紙にサインをしているようだった。恐らく依頼報酬の話でもしているのだろう。


 王都への道中聞いたことによると、ルゼルトとグランツは魔女に迂闊に近づくと危険すぎると判断し、情報収集から始めることにしたそうだ。その一環として、両親が弟を連れて訪ねたらしいファスレイの西の森の住処を調べてもらうよう頼んだらしい。

「結局精神世界、というのがなんなのか分からなかったので……魔女を無闇に傷つけて、出て来れない、なんてことになったら厄介でしたし……まずは調べねばと思った次第です。もしかしたら、そんな世界などははったりで、どこかに飛ばされたという可能性も考慮して、そうなれば魔女に多少は縁がある場所ではないかと思い、とりあえずファスレイに頼んだ次第です……まさかそこで見つかるとは思っていませんでした。やっぱり、ただの転移魔法だったんですね」

 へらりと笑うルゼルトに、エレナは俯いて首を振った。

「……エレナ?」

「ルゼルト様。精神世界というのは、本当にありましたの」

「……どういうことです?」

 アナスタシアとエレナは、真っ暗な結界の中に閉じ込められていたことを話した。──そして、翡翠と出会い、翡翠が最後の力を使って祝福を与えてくれたことも。

「……翡翠がいたんですか?」

「信じ難いのはわかりますわ、しかし……」

「あ、いえ……そういう訳では……。……そうか、なるほど……」

 口に手を当てて、ルゼルトは何か考え始めた。2人が首を傾げているところに蒼銀が現れる。

「実はシエラヴェールで……ルゼルト様が魔法の練習場として使っていらっしゃる地下室の書庫から、精霊が書いたと思われる書記が見つかったのです」

「はぁ……」

「魔法で劣化を防がれていましたが、1万3000年ほど前のものだと思われます」

 蒼銀は、その本の内容を話した。それを読んだルゼルト達は、こう推測したのだ。

 ──精霊を使えるようになったヴァハは、気に入らない精霊を消していたのではないか、と。そして、精霊がヴァハに消される度、その書記に自動に消えた精霊の色と、ヴァハと契約して何年目に消えたのかが記されているのではないかと。

「……お2人は翡翠から、精霊がどうやって生きているかお聞きしましたか?」

「魔力で生きている、としか……」

「……なるほど」


 蒼銀は、翡翠が軽く話してくれた精霊の寿命について詳しい話を始めた。

 精霊含め幻想種というのは、生まれながらにして莫大な量の魔力をその魂に有しているらしい。魂から魔力を引き出し魔法を使用し、体を維持しているのだそうだ。しかし、勿論無尽蔵ではなく、魔力はいつか尽きる。そして魔力が尽きれば魂も体も消え去り、能力と性格の違う、同じ色の精霊が次代として生まれるのだそうだ。

 精霊は体の維持だけに魔力を費やせば、1000年生きることも出来る。あまりに多くの魔力を毎日のように使っても、大抵100年はかかるらしい。

「つまり……通常、体だけが朽ちることはありえないのです。そして、体を朽ちさせるのも普通は不可能……魔女も恐らく、1万3000年前も、そして今も、精霊の体を朽ちさせることはできても、魂まで朽ちさせることは出来ず、精霊たちを精神世界──その黒い結界に閉じ込めたのだと思います。……翡翠は言っていたのですよね? 大昔の形跡があると」

「……はい」

「気に入らない精霊を閉じこめるために編み出した結界、ですか……さすが知恵を授かった魔女です。やることが狡賢い」

 ルゼルトが溜息を吐き出しながら頭を掻く。そんな相手をどう打倒しろというのかと言いたげだが、国としてもルゼルトしか頼る宛がないのだろう。ヤーフェはもう老年だ、万一魔女と戦っている最中に死なれても困る。

「……でも、本当に良かったと思います。偶然ルゼルト様が捜索願を出したファスレイに出られて、そのタイミングで兵士の方々と出会えるなんて……翡翠様が下さった幸運のお陰かもしれませんね」

「…………。……えぇ……そうですね」

 ルゼルトが微笑んだ。

 ……翡翠は、嘘をついたのだ。あの精霊は、本当はまだ500年も生きていなかった。あの結界から出れば、体も再構築できたはずだ。だが、翡翠は──祝福を、最大限の幸運を、エレナに送ったのだ。この結界から出た先が、エルカディアの中か、そうでなくても近隣国でありますように、誰か親切な方が、この2人を見つけて、導きますように、と──自分が持ちうる最大の魔力を全て使い切って、三大魔女ですら出来ないような、偶然の糸を手繰り寄せた幸運を送ったのだ。

 言わない方がよかろうと、ルゼルトは2人に笑顔を見せた。アナスタシアはそれを知っても受け止めるだろうが……エレナはそんなことを知ったら、きっと泣いてしまう。


「そういえば……よく出られましたね、そんな結界から。どうやって出たのですか?」

「えっ」

 2人は同時に、ギクッという顔をした。何せ、2人の妄想の餌になっていたのは主にルゼルトだ。ルゼルトとカルブ、サピュルス、スレイド、果ては蒼銀と、主に誰かと一緒に妄想されるのはルゼルトだった。顔がいいため仕方がない。

「…………あの?」

「……こんな状況にも関わらず好きな本の種類の話で盛りあがっていただけですわ。ね、エレナ様?」

「は、はいその通りですアナスタシア様!」

 嘘はついていない……が、誤魔化しはした。ルゼルトは最初キョトンとしていたが、2人の性格を思い出し──何となく察しが着いたのか、頭が痛いような顔で深く深く溜息を吐き出した。

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