009
はぁ、腰がガクガクだぜ。マリーダもリシェールも頑張り過ぎ。
マリーダの家臣たちが行ってくれた酒宴もたけなわになったところで、二人を連れて別室に移り、夜のお仕事をしたのだが、鬼人族であるマリーダの体力は素晴らしく、その情婦であるリシェールも積極的であったため、結局昨夜も寝ずに過ごしてしまった。
俺も若いから何とかなったけども毎夜徹夜はちと辛い。これは、栄養剤とか必要かもしれん。
強張った身体を大きく伸ばしながら、ベランダに出て朝靄の広がる外の空気を吸う。
鮮血鬼マリーダの婿候補となったのはいいものの、彼女をエランシア帝国で押し上げるための方策を実行するための報告待ちをしているが、昨日到着予定の使者がまだ戻って来ていないのだ。
帰参願いを書いた書状を魔王に取り次いでもらうため、辺境伯をしているマリーダの義兄に当たるステファン殿に使者を出しているが、魔王陛下との交渉が難航しているかもしれない。
まずは魔王陛下の勅令をもらって、元の女男爵に据えてもらわないとな。
魔王陛下のお気に入り貴族だったとはいえ、上級貴族の婚約者を半殺しにしたマリーダが復帰するには周辺の国境領主の首が数個は必要だと目算している。
エランシア帝国は亜人が支配する国家で、周囲を人族国家に囲まれ常に戦を抱えているのだ。
俺がいた叡智の神殿のあるアレクサ王国も交戦国の一つである。
なので、エランシア帝国とアレクサ王国国境地帯の領主たちは、その時々で旗色の優勢の方につくため、両国から厄介者扱いされている者も多い。
その中でも戦闘のどさくさに紛れ、他領の略奪や人狩りを行い、私腹を肥やす領主もいる。
神殿で修業を行っている際も、そういった悪徳領主の話がチラホラと耳に届いていたのだ。その中で兵力微弱な者を三名ほどリストアップしておいた。
あとは、マリーダたちの腕を測るだけだが……。まぁ、泣く子も黙る『エルウィン傭兵団』であるし、神殿を守る神殿戦士たちを駆逐するほどの腕前だから、農民兵程度では太刀打ちできなそうだがな。
マリーダからこの街で逗留中にエルウィン傭兵団の詳細も聞き出せている。
傭兵団は一〇〇名程度、皆、エルウィン家に仕えていた家臣たちで、腕前は熟練者ばかり、そして婚約者を半殺しにして放逐されたマリーダに付き従う忠誠心がおかしい変態野郎どもだ。
皆が一騎当千の戦士であるとマリーダが言っていた。
彼女自身も鍛えられた身体を持つ、生粋の戦士である。
戦闘に熟達した脳筋戦士団一〇〇名。それがマリーダの全戦力だった。
ピックアップした国境地帯のクズ領主なら潰してもどちらの国からも恨みは買うまい。むしろ、両国から感謝されるだろうな。
現状はマリーダがエランシア帝国の貴族だと知って潰せそうな近隣クズ領主のリストアップし、アレクサ方面の辺境伯をしているステファンに国境領主数個の首と領地を手柄を帰参を願い出て返事待ちしているのだ。
朝靄の拡がるベランダで待ちの望んでいた使者が帰還したのを見つけ出した。
「さて、これで忙しくなるぞ」
俺はベッドで寝入ったばかりのマリーダとリシェールを揺り起こすと、身支度を整えて階下に降りていった。







