008
「皆、意地悪なのじゃ! 妾のことを馬鹿にしおってー。むきーっ!」
「マリーダ様、酒杯をアルベルト様に渡さなくて良いのですか? あたしがお渡ししてしまいますよ」
リシェールがそっとマリーダに酒杯を差し出しているのが見えた。
「ダメなのじゃ。アルベルトに酒杯を渡すのは妾がやるっ!」
カウンターに座った俺に、マリーダがそっと身体寄せて、お酌をしてくれる。いつも通り今日も露出度は高めの煽情的な衣装を着ており、毎度のことながら目のやり場に困ってしまう身体をしていた。
そんなお色気あふれる野生児のマリーダだが、脳筋戦士たちの中で育った彼女には、頭脳派の俺が新鮮に映るらしい。
期待に応えるためにも、俺は嫁となったマリーダとともに、なんとしても帝国の中で出世させていい暮らしをさせてやりたい。
そのためには実行中の策が上手く運ぶことが大前提となるのだ。
「マリーダ様の期待に応えられるよう全力で脳みそを振り絞ることにしましょう」
「期待しておるぞ。旦那様、それともご主人様がいいか? 妾の呼び方はアルベルトの好きな方でいいぞ」
はにかんだように笑ったマリーダの魅力的な笑顔に、思わずご馳走様でしたと言い出しそうになる。
「マ、マリーダ様で大丈夫。私のことは今までどおりアルベルトと呼んでもらって構わないですよ?」
嫁となったマリーダの不意打ちの笑顔に、気恥ずかしさと、嬉しさと、気持ち良さがごちゃまぜになり、頭がオーバーヒートしそうになった。
「そ、そうか。アルベルトがそういうのであれば……」
俺の腕にしがみついて顔火照らせるマリーダは最高に可愛かった。
「早速の睦まじさ。見ているこちらが恥ずかしさで悶絶しそうですぞっ!」
大皿に注いだ酒を浴びるように飲んでいた鬼人族の男たちが、俺とマリーダの仲を見て眼を潤ませる。
ちょっと面倒臭い体育会系のノリをしたいくさ人たちではあるが、味方と思えば彼らほど頼もしい存在はないと思われる。
マリーダの実家への帰参のためには、多くの苦難に合うだろうが、それも嫁との充実したセカンドライフ生活を送るためと思えば頑張れた。
「マリーダ様の出処進退は私にお任せください」
「おお、妾の立身出世はアルベルトの采配に任せる。妾はただ剣を振るうだけしかできぬからな」
明らかに脳筋宣言をしたマリーダだったが、下手に知恵が回って口をだされるよりは、任せてもらえた方が自由にやれてよいと思うことにした。
俺はリシェールの差し出した皮を剥いた果物を一切れ頬張ると、マリーダが注いでくれた酒杯を一気に飲み干していく。
これからが本当の俺のセカンドライフ計画の発動だ。