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007

 身支度を終え、朝食を食べに階下の酒場へと足を運ぶ。この街で一番デカイ酒場を傭兵団が貸し切りにして潜伏をしているのだ。


 傭兵団の構成員はすべてエルウィン家の家臣であり、鬼人族の連中であるため目立つのだが、街の入り口には常に交代で見張りを立てているため、アレクサ王国軍の偵察部隊が来たら一目散に逃げる準備はできている。


 まぁ、偵察部隊程度なら戦っても余裕で勝てるとマリーダは言うが、援軍を引き込まれては多勢に無勢となるため、戦わず逃げだすことを徹底して頼んである。


「おや、マリーダ様とアルベルト殿が降りて来られたようだ。昨日もお楽しみだったようですなぁ。リシェールちゃんも混ざってドッタンバッタンして羨ましい限り」


 壮年の鬼人族の男が階段を降りてきた俺たちを見つけて、ニヤニヤと笑っている。


「あー、聞こえてましたかー。すみませんねー。マリーダ様が私を放してくれなくてねー。そうそう、リシェールもわりと夜は肉食系って知ってます?」


 俺がとぼけた返答を男に返すと、酒場にたむろっていた鬼人族の男達からドッと笑い声が上がる。


「アルベルト殿らしい返答だ。普通の優男がそんな返答をしてたら即ぶっ殺すんだが、なんせアルベルト殿は性欲モンスターって呼ばれるうちの姫さんを手なずけた人だからな。男としては尊敬するよっ!」


 壮年の鬼人族の男がグッと親指を立てて笑っている。


 マリーダはエルウィン家の令嬢で魔王陛下の乳兄妹であるが、蝶よ花よと大切に育てられた令嬢ではなく、常にこのむさいおっさん家臣団と親父さんに連れられて戦場で育った子であった。


 寝物語に聞いた話では、遊び道具は身の丈ほどの大剣であり、遊び相手は泣く子も黙ると言われた鬼人族のいくさ人。戦場を駆け、野外で寝起きしながら血を浴びて育ったといって過言ではないマリーダであるのだ。


 そんな野生児みたいなマリーダを魔王陛下もいたく可愛がっているらしい。もちろん、女としてではなく一武人としてらしいが。


「皆、妾のことを馬鹿にしておるのか。いや、確かにアルベルトはえっちい男だが、妾たちとは違って頭が切れる男でもあるんじゃぞ」


「へいへい。ご馳走様です。あの鮮血鬼と呼ばれた姫さんが男にベタ惚れとはねぇ。世の中、どう転ぶか、わかんねぇな」


 壮年の鬼人族の男がガハハと大声で笑うと、酒場にいた男たちも釣られるように笑い声を上げている。


 そこに侮蔑の色はない。エルウィン家の家臣たちは、幼少より一緒に過ごしてきた親戚の女の子の惚気話を聞いて微笑ましさを感じている笑い声に感じられた。


 マリーダは家臣からも好かれているみたいだな。『エルウィン傭兵団』の結束の固さは異常だと世間に流布されているが、マリーダ本人の持つ人間的な魅力に惹かれて築かれた結束なのかも知れない。


「そうだっ! こたびの策が成功したら、アルベルト殿は姫の入り婿になると聞いておるのだが、それは本当か?」


「ああ、マリーダ様の婿にしてもらう条件でこたびの策を立てているんでね。いくさ人と言われる鬼人族の入り婿としてはいささか貧弱だと思うが受け入れてもらえるとありがたい」


「なんじゃ? 皆はアルベルトの婿入りに反対なのか?」


 男の言葉を聞いたマリーダが反対されたのかと思い、俺の前に出て家臣たちの前に立ちはだかっていた。


 その様子を見ていた男たちがクククと含み笑いを始める。


 そして、笑いを堪えるとおもむろに酒を入れた酒杯を取り出していた。


「そうか、よくぞ決心しましたな! ならば、夫婦の契りを祝う酒宴の用意をいたさねば。皆、酒を持て、新たに我らが姫と婚約し血族になったをアルベルト殿を祝おうぞ!! ウェーイっ!!!」


「「「おお! 新たな血族の誕生を酒を以って祝おうぞ!! ウェーイっ!!!」」」


 酒場に集っていたマリーダ配下の脳筋戦士たちが、酒杯とともに鬨の声を上げていた。ノリが体育会系すぎる。


 現代日本においての学生生活は文化系だった俺には暑苦しいが、これはこれで意外と受け入れてもらえている気がして嬉しい気持ちが湧き上がってくる。

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