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 さて、宗教戦争一歩手前の状態まで。いや、すでにアレクサ王国をけしかけてる時点で宗教戦争は勃発してるかもしれんが。


 まぁ、宗教を理由に戦争を起こし、自分たちの利益を稼ぐ詐欺師どもが暗躍してる。


 『勇者の剣』って団体だ。急進的天空の神ユーテルの信徒団体。


 教団のトップがユーテルに選ばれた勇者だと自称し、聖戦に参加して邪神の信徒をぶっ殺せば、来世ではいい人生に生まれ変わると物騒なことを吹聴してる奴らだ。


 ぶっちゃけ迷惑この上ないやつらである。


 死んでからのご利益を声高に訴えられても、聞かされた方は『あんた、それじゃあ、俺はもう死んでますがな。死んだら、そりゃあ俺じゃない』ってなりそうなんだが……。


 実際のところ、戦乱まみれで食うや食わずの地獄生活をしてる連中からしてみれば、いっそ死んだ方が楽だと考える層もわりといる世界。


 そんな人たちに『勇者の剣』の教えは大流行中。


 特に隣国のアレクサ王国はエランシア帝国との戦いが長引き重税に次ぐ、重税で農民蜂起も何度も起きてるお国柄ってこともある。


 マリーダに攫われるまで暮らしていた国だが、貧富の差は断崖絶壁のように切り立っており、俺も神官見習いになれなかったら早々に死んでいた可能性もあった。


 ってことで、そんな邪神の信徒ぶっ殺していい人生に転生しようぜマンを量産するやつらを隣国に放置すると危ないので、全力をもって潰すことに決めていた。


 『勇者の剣』壊滅作戦を発動すると、俺たちは一旦ワリドの集落を離れ、そのまま馬車に揺られて一日半ほどの距離にあるステファンの本領に来ていた。


 なぜ? ステファンの領地かって?


 このステファン領には、エランシア帝国最大の天空の神ユーテルの神殿が建立されてるからだよ。


 うちの魔王陛下も、自分の信仰姿勢に対し意見しない限り、部下の信教の自由は保証している。


 つまり、エランシア帝国の国教は戦闘神アレースであるが、領民は別にどの神様を信奉しても迫害されることはないのだ。


 ただし、宗教者が政治や統治に介入した途端、その神官の首は飛ぶ。


 宗教界での祭事のみにとどまっていれば、宗教活動の自由は保障されているのだ。


 なんで、九尾族の義兄ステファンは、天空の神ユーテルを大いに信仰している。


 アレクサ王国にあるユーテルの総本山から、高位の神官を招いてもいる。


 実は、今日はそのユーテルの高位神官に面会に来ていた。


「本日は何しに来たんですか? アルベルト殿は確か……叡智の神殿の最年少見習い神官だった方のはず」


 ステファン領の神殿の責任者であるユーテルの高位神官は、面会者の俺をみて怪訝そうな顔をする。


 一応、相手も俺が叡智の神エゲリアに属する叡智の神殿の元見習い神官だったことは知っているらしい。


 俺も信ずる神は違うとはいえ、アレクサ王国内の神殿関係者の顔くらいは、彼の国での立身出世を目指した時代に覚えていた。


「いや、大きな神殿を任される貴方のことですので、私が来訪した理由にお心当たりがあると思いましてね。そう、ほら最近有名な『勇者の剣』と申せばお分かりいただけるでしょうか?」


 サッと神官の顔色が変わっていく。


 例の狂信団体の名前を出した途端に高位神官の態度が急変していた。


「私は関係ありませんよ。エランシア帝国内のユーテル神殿は、かの団体とは絶交している。だが、総本山の意向は分かりませぬが……」


「ほぅ? おなじユーテル神を信奉するのにですか?」


「あんな奴らの言っておる話はユーテルのお言葉ではない! 同じにしないで欲しい! ユーテルは日々堅実に生き善行を重ねよと申されているのだ!」


 ステファン領のユーテルの高位神官は、勉学をかなり修めた人物であることを知っていた。


 ユーテル神の教義について総本山でもトップクラスの見識を持っていると記憶しており、彼自身は『勇者の剣』の教義にかなりの険悪感を抱いていたようだ。


「そうなのですか? 私はユーテルの教義に疎くて、『邪神のために仕える奴ら皆殺しして、死んだらいい人生に転生しようぜ!』って教義かと思ってましたよ」


「違います! あれは奴らのトップが勝手に広めている教義で、ユーテル神はそのような神託を下したことはないのだ!」


「本当ですか? でも、うちの近隣の住民が、その『勇者の剣』の迫害を受けてるんすよねー。邪教の信徒ぶっ殺すって叫んで。これって、魔王陛下の耳に入るとまずいっス――」


 ユーテルの高位神官が焦ったように俺の口を手で塞いだ。


 やはり、あの魔王陛下に『勇者の剣』のことがバレたら、自分たちの身が危ないと思っているらしい。


 こうなればこっちのペースである。


 相手が後ろ暗いと思っているなら、それを徹底的に利用してやればいい。


「アルベルト殿! 声が大きいですぞ。なにとぞその件はご内密に頼みます」


「ですがね。実際の被害が出てるんですよ。うちも黙っている訳には」


 俺は高位神官に向けて対処に困っている風の顔をする。


 実際の被害は山の民までであるが、いつなんどきアルコー家まで進出してくるか分からない。


 害虫駆除は先手必勝。後手に回れば、手遅れになる。


「だが、私らに取り締まる権限はないのだ。アレクサ王国の総本山も『勇者の剣』に関しては不介入を貫いておるし、エランシア帝国内の私たちも自分たちで討伐するわけにもいかない。静観するしかないのだ」


 エランシア帝国では他国に比べ宗教の政治介入、統治介入を非常に毛嫌いしている。


 神殿は信徒の寄進により運営されるが、領土を持つことは許されず、神官は神への祈りと信徒の冠婚葬祭でのみ祝福を授けることだけが主な仕事となっていた。


 権力を握ろうとする素振りでも見せた途端、その神官の首と胴が離れると言っても過言ではない。


 ユーテルの高位神官もそのことを熟知しており、『勇者の剣』の教えが国内に広まり、魔王陛下の耳に入って、自分たちが糾弾されるのではと蒼い顔をしているのだ。

 なんで、俺は『勇者の剣』に手出しができない高位神官に助け舟を出してやる。


 なんて優しい男だろうか。


「なにもエランシア帝国内で働きかけてくれとは言っておりませんよ。『勇者の剣』の勢力が強い、アレクサ王国のユーテル総本山に働きかけて欲しいのですよ。国は違えど、同じ神を祭る神殿ですし、貴方は総本山から派遣されてますよね?」


 事前に、この高位神官がアレクサ王国の総本山と太いパイプを持っているのは知っていた。


 元同じ業界の人なんでね。


 なので、今回の訪問は彼を狙い撃ちしたものなのだ。


 え? 俺が悪い男だって? いやぁ。使える物は神様でも使わないと。俺の優雅なセカンドライフ計画に支障が出ちゃうだろ。


 どんな世界でも、本家本元の神様の声は、絶大な効果を発揮するのだよ。


「確かに総本山に働きかけをすれば、あるいは……」


「なに、そんな難しいことではないですよ。ただ、私の要望はアレクサ王国のユーテル総本山から信徒団体の『勇者の剣』を取り締まって欲しいなとお願いしてもらえませんかと言ってるだけですから」


「うぬぬ……」


「いやぁ、別に無理ならいいんですよ。無理ならね。ですけど、うちも被害がこれ以上続くなら被害報告を魔王陛下に上げないとマズいんで、その際『勇者の剣』の名前が出てしまいますがよろしいか? ユーテル神の信徒団体だってね」


 そんな報告書が、あの魔王陛下に上がれば、このユーテル神殿は上へ下への大騒ぎになるだろう。


 歴代皇帝で一番、宗教の政治介入を嫌う魔王陛下である。


 宗教団体が武装して領民を襲っていると知れば、怒り狂ってその矛先を神殿に向けるであろうことは、誰でも簡単に想像できた。


「分かった! 私は何をすればいい?」


 ユーテルの高位神官は意を決したように、顔を上げて俺を見てきた。


 顔には悲壮感が漂っている。


 まぁ、あの魔王陛下に命を狙われるくらいなら、アレクサ王国のユーテル総本山を動かして『勇者の剣』を取り締まる謀略に加わった方が安全だと判断したようだ。


「おお、お力添えいただけるとはありがたい。では、アレクサ王国のユーテル総本山の大神官様に『勇者の剣』のトップを破門して欲しいのですよ。あなたも言っていたが、彼らは教義を捏造した偽物ですよね?」


「ほほぅ。『勇者の剣』を破門追放ですか……。これは、やりがいがあるお願いですな」


 先ほどまで蒼い顔をしていた高位神官が、腹を決めた途端に眼にやる気を漲らせている。


 相当、『勇者の剣』のことを苦々しく思っていたのだろう。


 これなら、アレクサ王国のユーテル総本山関係者を説得してくれそうである。


 現状、『勇者の剣』はユーテル神の信徒団体であり、教祖はユーテルの託宣を受けた勇者だと称している。


 その権威を黙認しているユーテル総本山から、破門追放のお知らせがくれば、『勇者の剣』の権威もガタ落ちだろう。


 『勇者の剣』の教義に追随している者たちも、多くはユーテル信徒であり、教団がユーテル神殿から追放されれば、教団から離れる者も増えるはずだ。


 そして、そういった人間がいれば、教団は内部引き締めに走り、より厳しい教条主義に昇華して、離脱者を増やしていく。


 一部の狂信者に愛想をつかした信徒が離脱すれば、影響力はドンドン低下する。


 トップは権威を維持するために更に内部を引き締める。


 そうなれば、あとは自動的に内部崩壊だ。


 信徒たちも熱狂すれば恐れを知らなくなるが、トップが追放された異端者と知り冷静になれば無謀な行動を抑止する事ができる。


 『勇者の剣』のトップより権威のあるユーテル総本山の大神官からのお達しは効果絶大だろう。


 あとは、無理に騒ぎ立てる狂信的な一部を隔離して排除すればいい。


 『勇者の剣』の一番の強みは、熱狂的な教団トップが提示した死生観と、それに同調する大多数の信徒だ。


 それを支えるものは信仰である。


 邪神の信徒を殺せば、死んでからいい暮らしができると言われ、どうせ生きてても戦乱の苦しい世なら……いっそ。それが死に物狂い兵を作り上げる可能性を含んでいる。


 苦しい現実から逃れられると偉い人に言われれば、人は楽な方を選ぶ。


 囁かれた理想郷への熱狂は恐ろしいほどの力となる。


 だが、同時に冷水をかければ一気に鎮火するのも熱狂であった。


 その冷水が神殿からの追放処分。ただ、それだけでは決定的なダメージまで達しない可能性がある。


 じゃあ、どうするか?


 信徒の熱狂を煽っている『勇者の剣』のトップ。こいつの醜聞を信徒たちに吹き込んでやればいい。


 神様から託宣を受けた人である言った人間。でも、一皮むけばただの詐欺師。もちろんすでにうちの部下とワリドたちが動き弱みはいくつも握っている。


 いやぁ、出るわ出るわ。美女との乱痴気騒ぎや不正蓄財、暴力事件など数えきれないくらい出てきた。


 生臭坊主もビックリの聖人ならぬ性人だった。


 神性を謳うカリスマ的な指導者が、一般人よりも乱れた生活を行っていると知れば、興ざめする者が更に加速すると思われる。


 相手をつぶさに分析し、弱点を攻める。攻める先は人の心。心を動かせば、宗教的熱狂に冷水を浴びせられる。


 相手の心を攻めるのが策略の常套手段。


 俺は面会したステファン領のユーテルの高位神官に『勇者の剣』追放を託し、説得費用の軍資金を託すとステファン領の神殿を後にした。

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