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「まぁ、お家の秘密ということです。ただ一つ言えるのは、それだけ私の信任が篤いということですね」
自信をみなぎらせた俺の返答を聞いたフランの顔付きが変わる。エルウィン家において俺の地位と権限がかなり高いと言葉から察したようだ。
「これはアルベルト殿とは、仲良くさせてもらわねばなりませんな」
「まぁ、色々とよろしく頼むよ」
酒保商人を抱き込んでおくと、色々と戦場で融通が利くので、この辺りで手広くやってるフランとのつながりは大事にしておくつもりだ。
戦場のコンビニって言われる酒保商人の歓心を買っておいて損はないのだ。
そのため、今回の放出品の落札者はミレビス推薦のフランがほとんどを落札することが事前に取り決められている。
その後、広場では積み上げられた放出品に、それぞれの酒保商人たちの名の入った入札札が差し込まれていく。
この中で一番の高値を付けた物がその商品を落札できるシステムだ。
この時期はどこの領主も自家の備蓄を放出するので、値付きは悪いが、腐らせて棄てるよりはマシなので、捨て値でも売り捌く。
今回完成した在庫管理の帳簿さえしっかりと把握しておけば、在庫量を見つつ、高い時期に放出品を出せるようになるため、今回限りの出血大サービスをしている。
「ありがとうございました。この恩は戦場でお返ししますよ」
入札を終えホクホク顔のフランが、自分のところの人足に荷物を荷馬車積み込ませる。
今回の放出品で一番多くお買い上げをしてもらった上得意様だ。
っと、言っても大概他の酒保商人より安い値しか付けてなかった。
落札は高い値の順番だと言ったが、あれは嘘だ。
入札札は金額が見えないようになっているし、入札額の発表もない。
ただ、こちらが『入札最高額は○○さん』って言うだけで、金額は言わない。
ここまで言えば分かってもらえたかな?
そう、まぁ入札っていう名の八百長ですよ。最初から売主は決めていたって話。
今回はフランに恩を売るため、他の商人より低くても落札させてやった。
もちろん、他の酒保商人にも多少なりとも花を持たせている。
持ちつ、持たれつの関係なんで、色々と気配りが大事なのさ。
「ああ、いいってことさ。また、困ったらお願いする時もあるだろうしね。その時は頼むよ」
「ははっ! アルベルト殿とのお取引であれば、このフランどこでも駆け付けますぞ」
「ありがたいね。頼りにしている」
ハハハと笑いながら、大量の荷物を積んだ荷車とともにフランたちが去っていく。
彼らはここで手に入れた物資を、どこかで戦争している軍隊に売り付けにいくのだ。
「放出品は見事に売れたね。私はもっと残るかと思ったけど」
「最近、この辺りも物騒ですしな。アレクサ王国との小競り合いはどこかでいつも発生してるしていますし。エルウィン家には余っていますけど食料の需要は高いんですよ」
義兄ステファンが方面司令官を務めるこの地域は、アレクサ王国側の小領主とエランシア帝国側の小領主との小競り合いが頻発しており、不穏地帯であるのだと改めてミレビスの言葉で認識し直していた。
おかげで酒保商人たちの懐も潤う地域となっているということだ。
「戦があれば、何でも屋の酒保商人が儲かるということだね。フランとは良い友好関係を築いていこうと思う。ミレビスからもよろしく言っておいてくれ」
「ははっ、あのフランという酒保商人はきっとアルベルト殿のお役に立ちます。利で説きいずれ家臣として取り立てた方がよろしいかと」
「そうだね。金を稼ぐ才能は私よりありそうだ。内政が落ち着いて資金に余裕が出るなら彼を家臣として取り立てて金を稼いでもらおうかな」
「それがよろしいかと思います」
「さて、これで魔窟だった倉庫もスッキリしたし、今年の租税からはしっかりと在庫管理をミレビスがしてくれるだろうから、次のお仕事にとりかかるとするか」
俺は隣に立つミレビスに肩をパンパンと叩く。これより彼には地獄の行進とも言える各種資料帳簿作成が待ち受けているのだ。
俺がやると考えるとゾッとする量だが、ミレビスならばきっとやり遂げてくれると俺は信じている。
そう思うと、もう一度だけミレビスの肩をパンと軽く叩いていた。死ぬなよ。ミレビス。







