003
次の日、見たことがない部屋で目覚めた。目に飛び込んできたのは見慣れた神殿の自室天井ではなかった。
あ、俺は殺されなかったんだ。というか、腰がズキズキと痛むが……。
目覚めた俺に声をかける者がいた。
「アルベルト。起きたか?」
声をかけた者に目を向ける。
銀色の髪に赤銅色の肌をして額から角を生やし、煽情的な衣装で魅惑的なおっぱいを見せつけてくる若い鬼人族女性であった。
そう、彼女はマリーダ・フォン・エルウィン。アレクサ王国周辺で最強の傭兵集団『エルウィン傭兵団』を率いる女頭領で、俺を情夫として迎えた女性だ。
筋肉質であるが、胸のボリュームは素晴らしく、活動的な美女であると言っても過言でなかった。
「マリーダ様? ここはどこです?」
「ここか? ここは妾の傭兵団がアジトにしている街の一つだ。アルベルトを手に入れるために叡智の神殿を焼き討ちしたからな。アルベルトが妾を堪能したせいで長居しすぎてのぅ。アレクサ王国軍に通報が行ってしまい逃げてきたところじゃ」
待て、叡智の神殿を焼き討ちまでは覚えているけど、アレクサ王国軍の手配が回ったなんて聞いていない!?
俺の方を見てニッコリと微笑んでいるマリーダである。
「ちなみに部下が近隣の街でこんな手配書をもらって来ていたみたいじゃ。見るか??」
俺はコクンとうなずくとマリーダの差し出した手配書に目を落とす。
な、なんじゃこりゃぁあああっ!!! ちょ、ちょっと待てーーい!! なんで俺が叡智の神殿の襲撃を手引きしたってことにぃいいいい!!
「ちょ、まっ! なんで!」
「いやー、妾としてことが慌てて逃げだしたものだからなぁ。捕虜にしていた神殿関係者を連れてこられなかったのだ。そやつらの口からアルベルトの話が漏れてしまったんだろう。何人か拷問して居場所を突き止めていたから」
あかーーーーんっ! 絶対にあかんやつではないですかっ!! それだと、拷問された奴が逆恨みして俺の名前出すに決まってるじゃん!! オワタ、完全に俺オワタ。
身体から抜け出しそうになる魂を必死で押しとどめる。
孤児院初の神官見習いとして将来を嘱望されていたはずの俺のセカンドライフは、一夜の過ちによって完全に崩壊してしまっていたのだ。
「まぁ、アルベルトは妾の情夫だから、神官身分なんてもうどうでも良い話じゃな。しばらくはこの街でほとぼりを冷ますつもりだから、ゆっくりとしようぞ」
ベッドの上で放心状態の俺の上にマリーダが飛び乗ってくる。
その瞬間、肉食獣にマウンティングされていたかのような錯覚に陥っていく。
確かに俺はマリーダの情夫になるとは言ったが、それはプライベートな話であって、公的な身分である神官見習いという地位を投げ売ってという意味ではなかったのだ。
「マリーダ様!! な、なんということを……。私の人生が台無しじゃないですかっ!!」
「そう怒るな、アルベルト。妾も悪いと思っておる」
身体の上に跨っていたマリーダが胸を俺の顔に押し付けてくる。
死ぬっ! 極楽な感触の中で溺れ死ぬ! まだ、死にたくないっ!
必死でもがくとやっとこさ、顔を出すことに成功していた。
「マリーダ様っ!!」
「怒っておるのか……。妾がこれほどの誠意を込めて謝罪しておるの……。アルベルトの世話は妾がキチンと面倒みてやると言うておるだろう」
間近に迫ったマリーダの赤眼がウルウルと潤んでいる。
ちょ、その眼は卑怯っすよ。カワイイじゃねえか。思わず情夫でヒモ生活でもいいかなって思っちまったぜ。