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021

「むぅう。面倒なのじゃ。ベッドで自堕落に寝てたいのぅ」


「ダメです。当主となった以上、最低限のお仕事はしてもらいますよ。それ以外は私がやりますけどね」


 ぶつぶつと文句を言いながら起き上がったマリーダがリシェールから受け取った衣服を俺に着せ始めてくれた。なんだかんだ文句いいながらも身支度はしてくれるので、ブレストの言う通り気立てはとても良い子である。


 マリーダとリシェールが俺の身支度をし始めると、居城の中庭の方から怒鳴り合う声が風に乗って聞こえてきていた。


 家臣同士の喧嘩かと思ったが、聞こえてくる声に聞き覚えがある。


 ええっと、これは父親と息子の対立だな。


 昔からこの手の話はよくあることで、我が新居となったアシュレイ城でも繰り広げられているらしい。


 日に一度は親子での取っ組み合いが発生する。


 親子でだ。


「親父! なんでオレがいくさに出たらダメだなんだ!! ゴラァああああ!! オレはもう成人してるつってんだろうがっ!」


「ああんっ! 粋がるなよ! お前みたいな青二才が我がエルウィン家の大事な兵の指揮が取れるかっ! もっと兵学の勉強をしろやボケぇええっ!!」


 身支度を終え、マリーダとリシェールを伴い声のする方に出向くと、ワイルドな凶暴おっさんと、脳筋戦士が中庭で取っ組み合いの喧嘩をしていた。


 この城に来て、はや二週間。至福の朝を迎えたかと思い、気力を充実させ政務に取りかかろうと大広間に向かおうとしたらコレである。


「あら、アルベルトおはよう。昨日もマリーダとリシェールを随分と可愛がったようね」


 大広間に続く廊下で、ブレストの嫁であるフレイと出会った。

 

 すでに一五歳になるラトールがいて四〇に近いが、肌の肌理は細かくマリーダに勝るとも劣らない魅惑的な身体付きをした美女で、その美しさに衰えはなかった。


 しなを作っているフレイに見惚れているとお尻に激痛が走る。


「アルベルト様? あたしの奉仕が足りませんでしたか?」


「妾もまだまだイケるのじゃぞ。もう一度ベッドに行くか?」


「そんなことはないよ。マリーダ様もリシェールも最高さ」


 やきもち妬いてくれたマリーダとリシェールが可愛すぎて、腰に手を回して抱き寄せる。


「まぁ、二人は朝からお熱いことね」


「また揉めておるのか。叔父上とラトールが」

 

 呆れ気味に二人を見ていたマリーダが大きなため息を吐く。


「すまんのぅ。アルベルト、二人を止めてやってくれぬか。このままだと血の雨が降るのじゃ」


 放っておくと血で血を洗う抗争事件になる可能性もあるので、俺投入決定。


 俺はバケツを手にすると、中庭の噴水の水を汲み、取っ組み合いの喧嘩をしている二人に向かって水を撒いた。


「ぶあっしゃあっ!! 誰だ! オレに水をぶっかけたのは」


「ワシにもぶっかけおって!! 誰だ!! 名乗り出よ!」


「私ですが? 何か?」


 朝から喧嘩の仲裁に駆り出された俺は、背後に怒りのオーラを纏い、にこやかな笑顔を貼り付けて二人に挨拶をする。

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