018
エランシア帝国の帝都から『馬車の大道』を下ること二日、目的地である『アシュレイ城』が見えてきた。
街道脇のなだらかな丘の上にこぢんまりとした城がある。『アシュレイ城』は平野に建つ平城で、領主や兵が住む居館は一辺五〇〇メートルほど長さがあり、高さ三メートルほどの高さの石の防壁で囲まれ、山地から流れ出てヴェーザー河へ合流する川から引いた水堀によって周囲から進入を阻むように作られていた。
地形を見るに、街道の宿場町として発展した町に隣接する形で領主の居城が建設されたようだ。城下の宿場町は東西南北に行き交う商人たちに溢れ人通りも多く、また居城周辺の平野に多く畑や農村が作られているのも見受けられ土地も肥沃な場所だと察せられた。
これだけの好条件が揃った領地を、たかが男爵位のエルウィン家が領有していることに不思議さを覚えた。
もしかしたら、脳筋一族である鬼人族にこの領地を与えられたのは、彼らの統治能力を危惧した当時の魔王陛下の温情であったのかもしれないと勘ぐっている。
これだけ豊かな土地であれば、放っておいても税収は上がり、内政に気を取られることなくいくさに励むことに専念できると思われるからだ。
そんなふうに馬車に揺られながらアシュレイ城の城下町を観察していると、馬車はやがて城の跳ね橋の前に到着した。すでに先発の使者を出して面会を申し込んであり、誰何されることなく城門の中へと馬車が先導されていく。
水濠を渡るために作られた鉄で補強された跳ね橋を備え、堅牢そうに作られた城門櫓にはめ込まれた金属製の大きな城門扉。石造りの防壁は三メートルほどの厚みを持ち、四方には円筒形の石造りの櫓が配され、内部の居住スペースは多くの深い井戸が掘られ、防壁の高さを超える位置に設置されている関係上、城門が破れられた後も内側の居住スペースに籠って戦える配置となっていた。
平野の平城とはいえ、徹底的に最後まで戦うために考えられた城だな。
俺は通された『アシュレイ城』の内部構造を見て感心していた。この城に戦闘職人である鬼人族が籠れば数万の軍勢に囲まれても数か月は踏ん張れるかもしれない。
そう思えば、この地を鬼人族に与えた当時の魔王陛下の慧眼に驚く。
マリーダの居城となるべき『アシュレイ城』を観察しながら、先導をするブレストの家臣の後に付き従い大広間に向かう。大広間は領主としての公務を行う場で、これより奥が領主のプライベートスペースとなっているのだ。
そして、居城の大広間に通されると階段状になった少し高い場所に据えられた肘掛け付きの大椅子に大柄な体躯をした鬼人族の男が座っていた。







