012
「アルベルト殿、危ないですから荷馬車の中にいてくれませんか? 護衛はオレだけだし、矢も飛んでくるかもしれませんぜ」
御者役兼護衛を買って出たのは、年嵩の鬼人族の男である。
個人的武勇は壊滅的な俺とリシェールを守るためと、エルウィン傭兵団の財産を積んだ荷馬車を守るためマリーダが残してくれた古強者だ。
すでに鮮血鬼マリーダとエルウィン傭兵団は、全くの無警戒だったべニアの街に侵入し、衛兵を斬り倒し、門を占拠して、抵抗する者だけを斬りながら、領主の館を目指していた。
圧倒的な武力である。農民上がりの兵程度では、彼らの前では赤子以下で、恐れをなした兵たちがちりぢりに逃げ出し、領民たちは家に閉じこもっていた。
「すでに組織的な反抗はできなそうだし。荷馬車を街に入れようか。じきに制圧報告も来そうだし、領民も安堵してあげないとね」
既に抵抗を辞めたと判断し、御者役の男に荷馬車を街に入れるように指示する。
「へいへい。姫さんからアルベルト殿の下知に従えと言われてますからね。リシェール嬢、アルベルト殿に革鎧を着けてやってくれ。もちろん、リシェール嬢もな」
「心得ました。アルベルト様、お支度をいたします」
年嵩の鬼人族の男が安全を考えて、革鎧を着込むようにと頼んできたため、すぐさまリシェールが革鎧を持ってきて着させてくれていた。
その間も荷馬車はゆっくりと街に向かって動き出していく。
街に入ると、俺が科した約束は守られているようで、あちこちで武器を捨て、縛られた兵が転がっていた。
「私の注意は行き届いているようだね」
「アルベルト様は優しいですね。敗残の街は略奪と暴行するのが古くからの習わしなのに」
リシェールが街に略奪と暴行を許さなかった俺の指示に感心している様子だ。
「いやいや、魔王陛下様に献上するための城を血で汚す方が不遜だろ。なるべく少ない血で奪った方が魔王陛下も喜ばれると思うぞ」
「ああ、なるほど。献上品は見目を整えるべきだとは。さすが、アルベルト様は考え方が緻密ですね。あたしはそこまで気が付きませんでした」
女の子に褒められるとちょー嬉しい。
「そういうことだ。それにココの領民たちにも、魔王陛下の領民になるメリットを知らせないとね」
館の奥から野太い鬨の声が上がり、マリーダが率いる脳筋戦士たちが悪玉領主の首を挙げたことが察せられた。







